テスラは、ノルウェー道路管理局から自動運転「FSD(Supervised)」の公道テストに関する2年間の特別許可を取得しました。この許可により、シミュレーションではなく実車両と実際のソフトウェアを使用した実証実験が政府の監視下で実施可能になります。このニュースはX(旧Twitter)のKees Roelandschap氏によって報じられました。
この特別許可は、国連規則79号(UN Reg. 79)に基づく自動車規則のセクション17-2からの免除という形で実現しました。これによりテスラは、FSDバージョン13を搭載した車両をノルウェーで運用できるようになります。テスト条件として、操舵および速度制御の修正機能を持つFSD V13の使用が認められ、テスラが訓練した運転者のみが運転できるとされています。また、EUタイプ認証を受けた登録車両のみが対象です。

FSDバージョン13は、テスラのFSDにおける重要なアップデートです。このバージョンでは、完全にエンドツーエンドの運転ネットワークが刷新され、自動運転能力が大幅に向上しています。特筆すべき新機能として、「駐車場から駐車場まで」の完全自動運転が可能になり、車両が自動的にパーク、ドライブ、リバースを切り替えられるようになりました。これらの機能強化により、ユーザーエクスペリエンスと安全性が向上しています。
欧州での自動運転技術の展開は、複雑な規制環境のため、アメリカと比較して遅れています。テスラCEOのイーロン・マスク氏は、欧州連合(EU)の規制改正により完全なFSDの利用可能性が2028年まで遅れる可能性があると認めています。欧州委員会が提案する人工知能法では、自動運転は「高リスク」のAIアプリケーションとして分類され、広範な安全テストと倫理的影響評価が求められているためです。加えて、EUの一般データ保護規則(GDPR)により、テスラの機械学習アプローチの基盤となるデータ収集に厳しい要件が課せられています。

一方で中国市場では、テスラは3月に「FSD」の無料トライアルを開始しましたが、規制当局の承認手続きが完了するまで一時停止されています。中国の産業省は2025年2月下旬、自動運転関連のソフトウェアアップデートには規制当局の承認が必要との新ルールを発表しました。また、中国のデータ法により、テスラは現地の約200万台のEVからのデータを使用してAIシステムをトレーニングすることができないという課題も抱えています。
テスラの欧州戦略として、天候適応能力の向上やEU規制当局との協力による自動運転車両法の標準化が重要視されています。特にノルウェーのような厳しい気候条件下での性能向上が課題となっており、内部シミュレーションによると、ノルウェーでは道路の25%が年間3カ月間凍結し、こうした環境でのFSDのパフォーマンスは人間のドライバーより約15%低いとされています。
今回のノルウェーでのテスト許可取得は、テスラが欧州市場でのFSD展開に向けた大きな一歩となります。テスラのFSDが欧州の多様な道路環境と規制に適応し、安全性と利便性のバランスを取りながら進化していけるか、今後の展開が注目されます。
