テスラのロボタクシー「サイバーキャブ」が、当初の完全自律型コンセプトから方針転換する可能性が浮上しています。テスラのロビン・デンホルム会長がブルームバーグのインタビューに答え、各国の規制状況に応じてステアリングホイールとペダルを搭載する選択肢を示唆しました。
2024年10月の発表イベントで披露されたサイバーキャブは、ステアリングホイールもペダルもない完全自律型デザインで注目を集めました。しかしデンホルム会長は「規制当局が求めるなら、ハンドルとペダルを付けることに何の問題もない」と明言。技術的理想よりも市場投入の現実性を優先する姿勢を鮮明にしました。
この発言の背景には、世界各国で大きく異なる自動運転規制があります。米国の一部の州では、完全自律型車両の公道走行が認められつつありますが、欧州やアジアの多くの国では依然として人間のドライバーによる監視が法的に求められています。テスラは単一仕様での世界展開ではなく、各地域の法規制に適応した柔軟な戦略を採用する構えです。

サイバーキャブの商用化には、テスラの自動運転FSD(Full Self-Driving)技術のさらなる成熟が不可欠です。現在のFSDは「レベル2」の運転支援システムに分類され、完全な自律走行には至っていません。規制当局の承認を得るには、数百万マイルに及ぶ安全性実証データと、あらゆる気象・交通条件下での信頼性証明が必要となります。
テスラは2026年の生産開始を目標としていますが、実際の商用サービス開始はさらに先になる可能性が高いとみられます。特に完全自律型(ハンドル・ペダルなし)での運用が認められるのは、規制環境の整った限定地域からの段階的展開となるでしょう。
サイバーキャブの導入価格は3万ドル以下を予定しており、運行コストは1マイルあたり20セント程度と試算されています。この低コスト構造により、従来のライドシェアサービスを大幅に下回る料金設定が可能になります。

イーロン・マスクCEOは、オーナーが自分のテスラ車を「ロボタクシー艦隊」に参加させることで、年間3万ドルの収益を得られる可能性があると述べています。これが実現すれば、自動車の所有概念そのものが変革される可能性があります。
ただし、この壮大なビジョンの実現には技術的課題だけでなく、保険制度、責任所在の明確化、既存タクシー業界との調整など、解決すべき課題が山積しています。デンホルム会長の現実的発言は、テスラがこれらの障壁を認識し、段階的アプローチで市場に浸透する戦略を採用していることを示唆しています。
自律走行車の未来は、技術革新だけでなく社会システム全体の変革を伴うもの。サイバーキャブは、その過渡期における現実的な解として、柔軟な設計思想で市場に挑むことになりそうです。




