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マンションへのEV充電器導入を成功するために、これだけは知っておきたい「住民の合意形成を勝ち取る 6つのポイント」

 東京都では、EV充電器を自宅のマンションに設置する際に補助金が出ることを知っていますか? それと同時に、都は、マンションのEV充電設置に関して悩んでいる都民の相談に乗ってくれる窓口も設置しています。今回は、そんな施策を活用しながら上手にEV充電器を導入する方法を、プロのアドバイザーの方にお聞きしました。

 「2050年CO2排出実質ゼロ」に貢献する「ゼロエミッション東京」の実現に向けて、現在、東京都は電気自動車(EV)用充電設備の設置を推進しています。

 実際に東京のマンションでは、車を所有している住民の割合が少なかったり、機械式駐車場が多くEV充電器の設置が技術的に難しい建物が多かったりで、EV充電器の設置が進まない状況にあります。その現状を踏まえつつ、東京都は「集合住宅を対象に2030年までに6万基の充電器を設置する」という目標を掲げているのです。

「2050年CO2排出実質ゼロ」に貢献する「ゼロエミッション東京」の実現に向けてEV普及を促進する東京都(photo by maroke)
「2050年CO2排出実質ゼロ」に貢献する「ゼロエミッション東京」の実現に向けてEV普及を促進する東京都 (photo by maroke)

 東京都は、2022年12月15日に新築の建築物にEV充電設備の整備を義務づける改正「環境確保条例改正」を東京都議会で可決。この全国初のEV充電設備の義務化は、2年間の周知期間を設けた後の2025年4月に施行されことになっています。

 また、既存のマンションに対して東京都は、充電設備普及促進事業として、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車用の充電設備を設置する人に対して、経費の一部を助成するとともに、専用のポータルサイト「東京都マンションEV充電器情報ポータル」を開設。都民からの相談窓口を設置することで、マンション管理の専門家でもあるマンションアドバイザーの派遣やオンラインセミナー、EV充電業者も参加する相談会等を実施、EV充電器の訴求を積極的に進めています。

東京都マンションEV充電器情報ポータル
東京都マンションEV充電器情報ポータル

 では、実際に東京都が設置した窓口に相談にくるマンション管理組合の方たちは、どのような悩みや疑問を抱えているのでしょう?

 東京都から依頼を受けて、日々、EV充電器設置の課題について管理組合からの相談を受けているマンションアドバイザーの蔭山貴弘さんに、実際のマンション管理組合の方々の悩みや、その解決に向けたアドバイスをお聞きしました。

 蔭山さんは、国家資格の「マンション管理士」等を有する20名前後のフリーランスの専門家を組織化し、プロの管理者や監事として管理組合に紹介することで、マンション管理の問題を解決するスタートアップ企業 Ring-ndxの代表です。そして、自身も日々、数多くのマンションに関する質問や悩みに答えています。EV充電設置の課題についての東京都からの依頼では、多い時には、月に10件以上の管理組合の相談を受けています。

東京都から依頼を受け、EV充電設置に関する管理組合からの相談を受けている、マンションアドバイザーの蔭山貴弘さん
東京都から依頼を受け、EV充電設置に関する管理組合からの相談を受けている、マンションアドバイザーの蔭山貴弘さん

 蔭山さんは、「管理組合の合意形成」こそがマンションでのEV充電器設置の大きなハードルの一つと指摘します。

「集合住宅の場合、マンション管理組合という団体への委託となります。EV充電業者と契約をする際に、多くの反対があると話がまとまらなくなる恐れがあるので、管理組合による合意形成というステップが必要となってきます。管理組合の役員で充電事業者を決めただけで、『その会社と癒着している』などという住民が現れてきて話がこじれたりすることも時々ありますから、この合意形成は慎重に進めなければなりません」

 では、その難しい住民の合意形成は、どのように進めていけばいいのでしょうか?

 蔭山さんは、以下の1H5Wのテーマを一つずつ協議しながら時間をかけて丁寧に合意形成することを、相談にきた管理組合の方々には提案しています。

【マンションEV充電器設置に関する1H5Wリスト】

①HOW:EV充電設備をどのように設置(所有)するか?

②WHEN:いつ設置するか?

③WHY:なぜ設置をするのか?

④WHO:どのEV充電事業者に依頼するか?

⑤WHAT:何を設置するか(普通充電、急速充電)?

⑥WHERE:どこに設置するか?

 これらの6つのポイントを管理組合で協議する際の注意点についても、蔭山さんに解説をしていただきました。

マンションにEV充電器を設置するには、住民の合意形成こそが重要なポイントと語る蔭山さん
マンションにEV充電器を設置するには、住民の合意形成こそが重要なポイントと語る蔭山さん

【EV充電器設置に関する1H5Wを協議する際の注意点】

①HOW:EV充電設備をどのように設置(所有)するか?

「ほとんどの管理組合の方々は、EV充電器は自分たちで購入するものと思い込んでいます。しかし、購入以外にもレンタル、リースなどの方法もあるので、それぞれのメリットとデメリットを理解した上で話し合いをすることが必要です。まず、充電器を購入すると、管理組合で日々のメンテナンスをしなければなりません。例えば、急に故障してしまった時なども、自分たちでメーカーのコールセンターに電話をして修理の依頼をしなければならない。また、修理費用は自分たちで負担をすることになるので、その決議も取らなければならない。ただ、リースやレンタルの場合、8-10年同じものを使わなければならないというルールがあることが多く、それ以前に契約を解除すると違約金を払わなければならない。それが理由で新しい商品が出ても切り替えることができない不便さがあります。そこで、例えば10基設置しょうと考えていても、最初は実験的にリースで2基くらいから始めてみる、ぐらいの余裕を持って進めてみるのも良いと思います」

EV充電器設置は実験的にリースで始めてみるぐらいの余裕が必要です(Photo byRatnakorn Piyasirisorost / Getty Images)
EV充電器設置は実験的にリースで始めてみるぐらいの余裕が必要です(Photo byRatnakorn Piyasirisorost / Getty Images)

②WHEN:いつ設置するか?

「設置の時期については、自分たちのマンションの都合に合わせようと急ぐ人が多いのですが、補助金を活用してEV充電器を導入するには、計画的にスケジュールを立てなければなりません。例えば、5月に管理組合の総会があるマンションでは、6-7月に新しい役員が決まって、7-8月からEV充電器設置の検討をはじめるケースが多いのですが、国の補助金は5-6月になくなってしまっていることも多々あります。そんな場合、慌てて合意形成をして、いざ、8月に申請してみると国の補助金がなくなっていたり、半分しかないと言われてしまい、設置ができないという状況になります。そして、そこで諦めてしまうと、また翌年にも同じことが繰り返されます。なので、5月の総会で新しい役員が決まったら、役員の人たちは『今期は申請しない』と決めて、それから1年間で合意形成をまとめて、翌年の総会の5月前までに申請できる状態にするのがお勧めです。そして、あくまで、5月には形式的に決議をとるという流れにできると、その年の補助金が確保できます」

③WHY:なぜ設置をするのか?

「車を所有しない人も多い東京のマンションでは、この『なぜ設置をするのか?』という部分で全員を納得させるのが難しい課題です。ただ、老齢化が進むマンションでは、使わない駐車場なども増えてくるので、そこにEV充電器を設置して駐車場を貸し出したり、将来的にカーシェアなどにシフトしていくことも考えて収益を上げる方法もあります。まずは、住民の皆さんにマンションの資産価値を上げるためにEV充電器が効果的であることを理解してもらうことが重要です」

高齢化が進むマンションでは、将来的にカーシェアにシフトしてビジネス展開を考えている管理組合もあります。(Photo by Chesky_W)
高齢化が進むマンションでは、将来的にカーシェアにシフトしてビジネス展開を考えている管理組合もあります。(Photo by Chesky_W)

④WHO:どのEV充電事業者に依頼するか?

「多くのマンションの方々は、『どうせ無料だから、どこでもいい』という理由で最初に営業に来たEV充電事業者と契約しがちです。しかし、無料の種類も微妙に違うこともあり、無料をうたっている会社でアプリの接続等に費用がかかったりして、後々、住民間でもめる原因となることもあります。現在、増加を続けるEV充電事業者のサービスや商品は様々なので、それらを理解して協議しながら事業者を選択していくことが必要だと思います。『東京都マンションEV受電器情報ポータル』には、多くの事業者が掲載されているので、各社のホームページなどでサービスを確認してみるとか、東京都が実施する事業者に相談できるマッチング会に参加するのも良いかと思います」

東京都が実施した「マンションへの電気自動車(EV)用充電設備設置に関する無料相談会」の様子
東京都が実施した「マンションへの電気自動車(EV)用充電設備設置に関する無料相談会」の様子

⑤WHAT:何を設置するか (普通充電、急速充電)?

「普通充電で3kWか6kWにするかでも使用する電気量が変わってきます。マンションにある予備の電気はそれほど多くないので、6kWを選んだ場合、新たに引き直しをする可能性もあります。結局、そこに費用がかかってくるので無料で設置ができなくなる、ということも起こります。『後々の駐車場の貸し出しに使うならば、急速充電の方がいい』 など、将来的な展望も考え、何を選ぶかを住民で協議しながら決めることが大切です」

⑥WHERE:どこに設置するか?

「これは各マンションの特性によっても変わってきますが、例えば、後々、外部の人にEV充電器を利用してもらう場合のセキュリティの問題など、充電器を設置することで生じる課題を丁寧に議論しながら合意形成を進めていくべきです」

 これらの6つのポイントをお聞きするだけでも、マンションの管理組合での合意形成は難しそうです。実際、多くのマンションは、3カ月程度で設置や事業者まで決定するとのことですが、中には将来を見据えて5年間もかけてEV充電器を効果的に導入しようとする優秀なマンション管理組合もあるようです。

「まずは、慌てずに数年間のスケジュールを立てて、丁寧に住民の合意形成を作っていくことです。その過程で、いろいろなことを管理組合全体で話し合い学びながらEV充電器を導入することができれば、将来的にマンション自体の資産価値を上げることにもつながると思います」と蔭山さんは語りました。

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