サウジアラビアの電気自動車(EV)市場が急速な拡大を見せています。日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、イタリアの自動車コンサルティング会社「forcus2move」のデータでは、2024年のEV販売台数は2万4092台に達し、2023年の輸入台数779台から大幅に増加しました。同国のモビリティー分野における転換点として注目されています。
サウジアラビア政府は国家改革戦略「ビジョン2030」において、脱石油依存と産業多角化の一環としてEV産業を重要分野に位置づけています。2021年に発足したサウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)では、2060年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げ、2030年までに首都リヤドの全車両の30%をEVに切り替える計画を示しています。

大手コンサルティング会社PwCの「eMobility Outlook 2024」によると、サウジアラビアの消費者の40%以上が今後3年以内にEVの購入を検討していると回答し、政府はEVセクターの開発に推定390億ドルの投資を行っています。
こうした政府の戦略的取り組みの中核となるのが、サウジアラビア初のEVブランド「Ceer」です。同社は2022年11月、サウジアラビア公的投資基金(PIF)と台湾の鴻海科技集団(フォックスコン)の合弁企業として設立されました。2024年3月にキング・アブドゥッラー経済都市(KAEC)内にEV製造施設「シーア・マニュファクチャリング・コンプレックス」の建設を開始し、総工費50億リヤル(約1969億円)をかけてプレス工場、ボディ工場、塗装工場、組立工場などを整備しています。(以下はCeerのイメージ動画です)
من أرض الطموح، تنطلق #سير في 2025 لتكون علامة فارقة في مستقبل التنقّل.
— CEER (@ceer) July 14, 2025
Born in the land of ambition, #Ceer is coming soon to ignite the future of mobility. pic.twitter.com/wEM5DDKKMA
Ceerは積極的な業務提携を展開しており、2024年には韓国の現代トランシスと電気自動車駆動システム(EDS)供給で82億リヤル(約3230億円)の契約を締結しました。2025年2月にはイタリアのサベルトと高性能シート製造で5億4300万リヤルの提携を発表し、同月開催の第3回PIF公共部門フォーラムでは総額55億リヤル(約200億円)に及ぶ11件の新規パートナーシップを発表しています。
一方、米国の新興EVメーカー、ル−シッド・モータースも2022年5月からKAEC内で工場建設を進めています。PIFから総額25億ドル(3691億円)の資金提供を受け、2025年1月には「Made in Saudi」プログラムに認定されました。同社は2026年末の工場完成を予定しており、生産能力は年間15万台、2027年初頭から世界向けの生産開始を計画しています。
国際的なEVメーカーの参入も活発化しています。中国のBYDは2024年5月にリヤド市内に販売店を開設し、現地代理店を通じて運営を開始しました。2025年6月には米テスラがリヤドに初のテスラセンターをオープンし、モデル3、モデルY、サイバートラックの販売を開始しました。リヤド、ジッダ、ダンマンの3都市に合計24基のスーパーチャージャーも導入しています。

ただし、急速な市場拡大の一方で、EV普及には多くの課題が残っています。JETROの調査では、主要都市以外の地方では充電ステーションが極めて少なく、特にリヤドとメッカ間の約900kmの幹線道路には十分な充電インフラが整備されていないとしています。また、産油国として世界最安水準のガソリン価格(レギュラーガソリン1リットル85円)により、EVの経済的メリットが薄い状況にあります。高温によるバッテリー性能への影響や、地方でのアフターサービス体制の未整備も課題として指摘されています。
それでも業界関係者は「2025年と2026年はレンタカー業界や法人向けセクターがEV導入の原動力となり、2026年末までに米国や欧州ブランドを含むディーラーの店舗開設が進む」と予測しています。政府のインフラ投資と民間企業の参入により、サウジアラビアのEVシフトは今後さらに加速すると見られています。