2023年の9月に中央電力から名称を変更したレジルは、電力自由化前に、国内で初めて「マンション一括受電サービス」を事業化した企業です。マンション一括受電サービスとは、マンションの電力を1棟単位でまとめて購入することにより、不要になった送電費分の電気料金を削減できるサービスのこと。中央電力時代からレジルが、一括受電サービスの提供を通して築いた基盤は2200棟、17万世帯にのぼり、現在は、この基盤とノウハウを活かして、分散型エネルギー事業、エネルギーDX事業、グリーンエネルギー事業へと事業領域を拡げています。
そして、レジルは、分散型エネルギー事業の要として2023年に新サービスとして「マンション専有区画向けEV・PHEV充電サービス」を2023年7月よりスタートしました。月額3000円を払えば、マンションの駐車場でいつでも充電し放題、というこの画期的なサービスを開始するに至った経緯をレジル開発企画グループのジェネラルマネージャー、佐藤光宏さんにお聞きしました。
佐藤さんは住民全員の申込書がなければ導入できない「マンション一括受電サービス」において、数多くの管理組合や住民の人々とのコミュニケーションを通して抜群の営業成績を収め「伝説の営業マン」とも呼ばれた人物です。
「レジルの主幹事業の『マンション一括受電サービス』の続きのサービス提供を考えた際に、EV普及にとって集合住宅がボトルネックとなっているという日本全国の課題が浮かび上がってきました。例えば東京都では、住民の居住形態の7割が集合住宅で、そこに住んでいる方々のEVの所有は皆無に等しいのです。やはりEVの普及には、自宅で寝ている間に充電ができるという基礎充電が必要なのですが、住民が駐車場を借りている集合住宅では、EVを所有する住民個人のためだけに線を引いてEV充電設備を設置するということがなかなか難しく、それがEV普及の大きな足枷になっていたのです」
集合住宅の駐車場はいわゆる共用部にあたり、そこの電気料金は管理組合が管理することが一般的。なので、個人のためにEV充電設備を設置すると、その人だけが使った充電料金を住民全員で負担するという不公平が生じてしまうのです。
そこで、2023年7月に登場した「マンション専有区画向けEV・PHEV充電サービス」では、管理組合や利用者本人が初期費用の負担をすることなく、利用者の駐車スペースに充電設備を設置。当たり前のようで当たり前でなかった、「マンション居住者がいつでも自由にEV充電できる」環境を実現するこのサービスでは、マンション一棟につき最大10基までのEV充電設備を、マンション管理組合にかかる初期費用・ランニング費用は無料でレジルが設置します。このサービスによりEV所有者は、住居の電気料金と共に月額3000円を払えば、いつでも専有区画の充電設備を利用できるようになります。つまり、EV充電のために外に移動したり、アプリから充電の予約をしたり、充電の順番待ちをしたりする手間と時間が不要になるのです。
なお、「マンション専有区画向けEV・PHEV充電サービス」は、2023年4月に先行して提供開始した、「マンション一括受電サービス」に防災対策機能を付加した「マンション防災サービス」の導入マンションが対象となっています。
自然災害が増えている昨今、マンションは堅牢な建物ということもあり、国や一部の地方自治体からは、自然災害発生時には可能な限り在宅避難することが推奨されています。しかし、災害の影響で停電が長期化するケースもあり、一旦停電が起きてしまうとマンションは給水ポンプやエレベーターなど生活に不可欠な設備が稼働しなくなり、居住者は安心して在宅避難をすることさえ難しくなります。
「マンション防災サービス」は、既存のマンションに初期費用ゼロ円で分散型エネルギー源である太陽光発電設備と蓄電池を設置し、停電発生時にマンション共用部の動力設備(水道やトイレへの給水ポンプやエレベーター、立体駐車場等)へ、自家発電・貯蓄した電気を供給できる仕組みを提供するサービスです。
通常、数十、数百の世帯が住むマンションで、蓄電池と太陽光発電設備を導入するには、平均で約3~4000万円の設備費用がかかります。これらの費用の捻出に対応できない管理組合は、災害に備えたいと考えていてもコスト問題で断念せざる得ない状況でした。そこで、レジルは本サービスで補助金を活用するとともに、「マンション一括受電サービス」のシステムを活用しマンション全体の電気をコントロール。電気設備の設置や、保安管理などの利便性を高めるとともに、太陽光発電設備や蓄電池をA I制御しながら電気利用の最適化を行うことで、初期費用ゼロ円で太陽光発電設備と蓄電池を設置しすることを実現しました。レジルは2030年までに3000カ所に分散型エネルギー源を設置し、電力供給先のすべてのマンションに再生可能エネルギー100%の電力を供給することを目標としています。
「マンション防災サービス」導入マンションが定額制の「マンション専有区画向けEV・PHEV充電サービス」の導入を希望すれば、太陽光発電設備、蓄電池に加え、1棟あたり最大10台までのEV充電設備を、管理組合やEV利用者本人が初期費用の負担をすることなく設置することができます。
「マンション防災サービス」で敷地内に設置した太陽光発電システムで発電した電気と実質再エネで充電器を稼働させるので「実質再エネ100%の電気をEVに充電し放題」という環境にも家計にも優しいサービスなのです。
これらのサービス開発に携わったジェネラルマネージャー佐藤光宏さんは、現時点ではEV利用者が少ないことも踏まえて一棟最大10台までという条件にしましたが、レジルは今後のEVの普及に合わせて、全区画設置の到達点も見据えています。そして、その先にあるのは防災におけるEV活用です。
「太陽光発電や蓄電池を活用してマンション自体を在宅の避難所とすることが一つの防災サービスですが、将来的には駐車場のEVを災害時の非常用電源として活用するV2Hの構想もあります。また、『マンション防災サービス』では、屋上の太陽光パネルで発電したものと、それで足らない部分には、弊社で購入した実質100%再エネ電力を供給しています。そのマンションで充電をするEVは、100%再エネ由来の電気を充電できることになるので、まさに、グリーンモビリティの実現でもあります。このように、マンションの住民が無意識のうちに脱炭素を推進している環境を提供していきたいと考えています」
レジルは、2021年に三菱HCキャピタルと合同で、北関東に100カ所の太陽光発電所を有し自己託送を行うリネッツという会社を設立しています。それらの太陽光発電所からマンションに送電される実質100%再エネを、EV充電にも適応させることで、よりクリーンな未来を構築しようと考えているのです。
また、レジルが見据える電気利用の将来像には、蓄電池を活用したピーク調整や配電も含まれています。
「従来、蓄電池は太陽光発電設備とセットにして、昼間に発電したものを貯めてピーク時に使うという使い方をすることが多いですが、私たちはこの二つを平常時は分離させて使います。電気を市場から調達をする際に、マンション側の適切な電気使用量データをA Iに学習させて、早朝帯の安い電気を多く買って蓄電池に貯めておき、夕方などの価格が高い時間帯にそれを活用するのです。蓄電池があることによって、気温や、マーケットプレイスを参考に、最適な調達を実現しています。また、家庭向けと企業向けのデマンドピークが異なる環境間で再エネを効果的に活用する仕組みを作る際にも、将来的に蓄電池が3000カ所に設置されていれば、これらをネットワーク化することでバーチャルパワープラントとして機能させることも可能です。EV充電設備が全区画設置できるような状況までEVが普及してくれば、V2Hのような形でそのバッテリーと蓄電池をうまく連携させながら、災害時などに活用していくこともできるはずです」
「脱炭素を、難問にしない」のミッションのもと、3つの事業(分散型エネルギー事業、エネルギーDX事業、グリーンエネルギー事業)を柱とした分散型エネルギーエコシステムを構築し地球沸騰時代の社会に貢献することが、中央電力からレジルに社名を変えた同社が掲げた目標。レジルという新しい社名には、社会課題に、抗い(Resistance)、回復する(Resilience)会社でありたいという想いが込められています。マンションの特性を存分に活用しつつ、脱炭素に真摯に向き合おうとしているレジル。同社によって今後展開されていくEV関連サービスには目が離せません。