2023年を振り返ると、災害級とも呼ばれた夏の猛暑が思い出されます。世界の平均気温は2023年7月に観測史上最高を記録し、9月には「パリ協定」の目標気温上昇の値である1.5度を超える1.8度となりました。
それらの状況により、2023年11月30日から12月13日にドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が、初めて「化石燃料からの脱却」に向けたロードマップを承認。しかし、長く求められてきた石油、石炭、ガスの「段階的廃止」を合意に盛り込むまでには至りませんでした。この成果文書の採択を受けて、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「化石燃料の時代を、公正かつ公平な形で終わらせなければならない」と強調。「COP28の合意文書に化石燃料の段階的廃止を明記することに反対した方々に対して、化石燃料の段階的廃止は、好むと好まざるとにかかわらず、不可避であると言いたい。手遅れにならないことを願おう」そう付け加えました。
では、2023年まで、各国は気候変動対策をどのように展開してきたのでしょうか? また、この気候危機を克服するために、世界はどこまで進歩していて、具体的にどのようなステップを踏めば、私たちは気候変動対策の軌道に乗ることができるのでしょうか?
このような質問に答えるために、米国の世界資源研究所(WRI)(※1)とベゾス地球基金によって招集されたシステムチェンジラボ(※2)は、2023年度の世界の気候変動対策の進展状況を各項目別に分析したレポート「気候変動対策の現状 2023」(※3)を2023年11月14日に公表しました。
WRIによって制作された「気候変動対策の現状 2023年版」は、2030年と2050年までに、温暖化を1.5度(華氏2.7度)に抑えるために何が必要かを示す包括的なロードマップを提供していて、パリ協定の目標を達成するために世界のGHG(温室効果ガス)排出量の約85%を占める領域(電力、建物、産業、輸送、森林、土地、食料、農業)の各部門が目指すべき具体的な目標を示すとともに、世界の気候変動対策についての現状を評価しています。
ただ、そのレポート内で分析された42の進捗指標のうち、「2030年に目標とする1.5度の達成に貢献できる」と評価されたのは、電気自動車の販売台数という項目だけでした。実際、発電における脱石炭、建築物の脱炭素化、森林破壊の削減など、指標の半数以上において、進捗は大きく遅れており、この10年で少なくとも2倍の加速が必要とされています。
「しかし、悪いニュースばかりではない」とWRIのレポートは前置きして、現状の電気自動車の販売数を高く評価しています。地球温暖化を1.5度までに抑制するという気候目標に到達するには、2030年までに世界的なEVの販売台数は、乗用車販売全体の75%〜95%にまで成長する必要がありますが、「2022年までの過去5年間で、乗用車販売台数に占める電気自動車の割合は年平均65%という飛躍的な伸びを示し、2018年には販売台数の1.6%だったものが、2022年には10%となり、この指標は、2030年に向けて軌道に乗っている」とWRIは報告しています。
本レポートによると、EV販売台数の成長において「コストの低下、航続距離の改善、充電インフラの拡大」が良い影響を与えており、特にノルウェー(全電気自動車が2022年の乗用車販売の80%)、アイスランド(41%)、スウェーデン(32%)、オランダ(24%)、中国(22%)とEV販売のシェアが高い上位5カ国では速いスピードで増加を示しました。
また、コストの低下と技術の進歩により、今日、EVの販売増加は過去よりも速く加速することが可能となっています。国際エネルギー機関のEVデータエクスプローラーの分析によると、過去5年間でEV販売が1%に達した国は、以前の国よりも速い速度で成長しています。
例えば、インドのEV販売は、2021年から2022年までの1年間で0.4%から1.5%に増加。これは、2015年の0.4%のEV販売から2018年の1.6%に成長するのに3年かかった世界平均の約3倍の速さです。イスラエルは、2020年から2022年にかけて、わずか2年間でEV販売台数が0.6%から8.2%に急増。世界平均では2016年の0.5%から2021年の6.2%までの成長を達成するのには5年以上かかりました。
これらのデータを元にWRIは、電気自動車の普及率を評価し「今後、EVへの移行は公平に行われなければなりません。各国の政府は、より手頃な価格のEVモデルを生産するために自動車メーカーにインセンティブを与えるべきです。そして補助金が使用される場合、価格変動に敏感である低所得世帯を対象とする必要があります。世界がこれらのことを意識して現在の急速な変化のペースを維持すれば、EVの販売台数は、2030年までに世界の乗用車販売の75%〜95%に達することは可能でしょう」と報告しました。
※1 米国の世界資源研究所(WRI)
ワシントンDCに本拠地を置く、地球の環境と開発の問題に関する政策研究と技術的支援を行う独立した機関で、50カ国をこえる国々のアドバイザー、研究員、パートナー機関などのネットワークを駆使しながら、社会科学・自然科学分野に専門知識を持つ世界各国の支局の約1800人のスタッフが研究行っています。
※2 システムチェンジラボ
世界資源研究所とベゾス地球基金によって招集されたシステムチェンジラボは、地球温暖化を1.5度に制限し、生物多様性の損失を阻止し、公正な経済を構築するなど、世界のいくつかの課題に取り組むために必要な行動を促すことを目的とした共同イニシアチブです。
※3「気候行動の現状」2023年版報告書
ベゾス地球基金、気候行動トラッカー(気候分析と新気候研究所のプロジェクト)、気候作業財団、国連気候変動ハイレベルチャンピオン、世界資源研究所(WRI)が共同作業で制作した報告書。