先日発表された米国市場における2024年第1四半期(1月~3月)のEV販売車数は、約26万9000台。引き続き好調に見えますが、過去最高を記録した昨年2023年の年間販売車数が約119万台、特に第4四半期(10月~12月)が約31万7000台だったことを考えると、やや伸び率の鈍化が気になるところ(Cox Automotive Kelley Blue Book調べ)。
2030年までに新車販売に占めるEV比率を50%とする目標を掲げているバイデン政権としては、EVのさらなる普及を加速させたいことでしょう。
EV普及を阻む最大の課題は、いうまでもなく充電問題です。充電ステーションなどのインフラ整備の拡充やバッテリー性能の向上が重要なのはもちろんですが、どうにも悩ましい問題が「充電に時間がかかる」こと。長距離走行を前提とした大型輸送車でEV化が進まない要因もここにあります。
そのため、近年、目覚ましい勢いで開発が進められているのが、移動中の充電を可能にする「電化道路(Electric Roadway)」です。走りながら充電できれば、航続距離を気にする必要もなく、バッテリーの小型化も可能になり、車両自体のコストが低減されます。
そして、そんなEVの未来を担う「電化道路」の世界第1号となったのが、2018年、スウェーデンのストックホルム近郊に試験導入された接触型のレール式道路でした。これは道路に電極ラインが埋め込まれ、そこにEV車両に取り付けられた可動式アームが接触することで送電されるという電化道路です。仕組みは、路面電車に近いといえるでしょう。
以降、世界各国で研究開発が進む中、現在、主流となっているのは非接触型のワイヤレス充電道路です。スマートフォンの充電パッドをイメージすると、わかりやすいかもしれません。2023年11月には、米国ミシガン州デトロイトで、アメリカで初めてワイヤレス充電道路が一般道に実験的に導入されました。
このワイヤレス充電道路の技術を提供したのは、イスラエルのテルアビブに拠点を置くElectreon(エレクトレオン)社です。同社は、電化道路の実用化にいち早く着手したスウェーデンほか、ドイツやフランス、イタリア、中国などの道路にも技術提供を行っています。
EV車両の底面に取り付けられた充電レシーバーが、路面の下に敷かれた電磁石コイルから電力を受信するというもので、道路の見た目は普通のものと変わりません。
そして、この4月、世界初となるワイヤレス充電“高速”道路が米国インディアナ州でお目見えしました。これはインディアナ州運輸局(INDOT)と同州の総合大学パデュー大学の研究チームの共同開発によるもので、最大の特徴は、これまで実証されたどの電化道路よりもはるかに高い出力で電力供給が行えるという点です。
今回、実験が行われるのはウエスト・ラファイエットの国道52号線と231号線のわずか400メートル区間。ですが、この400メートルには全米から熱い注目が集まっています。
というのも、「アメリカの十字路」との異名を持つインディアナ州は、アメリカのほぼ中心部に位置し、州内に8本もの州間高速道路(インターステート・ハイウェイ)が交差しているからです。そのため、インディアナ州を起点に、米国のなんと80%におよぶ消費市場に24時間以内で物資を届けることができるのです。
パデュー大学の研究チームが、高出力ニーズへの対応を念頭に技術開発したのもそのためで、路面下に設置する送信コイルも、大型トラックの積載量に耐えうるコンクリート舗装に対応したものとなっています。また、今回の実験では、同州に本拠を置くエンジンメーカーCummins(カミンズ)社も協力し、試験用の大型EVトラックを提供することになりました。
高速道路の電化と車両への充電が実用レベルで可能になれば、米国物流業界におけるCO2の削減のインパクトは絶大なものとなるだけでなく、もし、これが日本でも実現すれば、GWや夏休みのお盆の時期、また年末年始の帰省ラッシュで大渋滞にハマりながら高速道路上でEV充電できるなんてことも、まさに夢のような話です。
今後の世界のEV推進の行く末を大きく左右するといっても過言ではないだけに、このワイヤレス充電“高速”道路の実験成功には大きな期待が寄せられているのです。
メインカットは、アメリカの高速道路のイメージ(写真:iStock/TomasSereda)
出典
Purdue University:Building the first highway segment in the U.S. that can charge electric vehicles big and small as they drive
Indiana Department of Transportation:Dynamic Wireless Power Transfer