東京都では、2025年4月より、一定程度を超える規模の駐車場を持つ新築集合住宅へのEV充電設備設置が義務化されました。一方、既存の集合住宅のオーナーや管理組合は、このEV関連インフラの普及にどのように対応すれば良いのでしょう。
それらの不安に応えるべく、2025年6月に東京ビッグサイトにて開催された「住まい・建築・不動産の総合展『BREX 2025』」において、東京都環境局 気候変動対策部 マンション環境性能推進担当課長の安達紀子氏が「充電設備普及に向けた東京都の取組 集合住宅に対する支援策の概要」と題してEV充電設備普及に向けた講演を行いました。同講演では東京都の集合住宅へのEV充電について都がどのような支援を実施しているか分かりやすく説明されました。
東京都のEV販売割合は全国平均の2倍以上
安達課長は、まず東京都のEV普及状況に関する興味深いデータを示しました。2023年度の新車販売に占める走行時に二酸化炭素等の排出ガスを出さない電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)のZEV (ゼロエミッション・ビークル)の割合は、日本全国平均が3.7%にとどまる中、東京都は7.6%と全国の2倍以上を記録。これは中国(約38%)、ヨーロッパ(約22%)に次ぐ水準で、アメリカの数値(9.5%)にも迫る高い割合となっています。
東京都のEV充電設備補助金申請状況を見ると、その伸びは顕著。2022年度から2024年度の3年で、申請件数は約5倍に増加し、2024年度時点で累計約5000基の充電設備が集合住宅用に申請されています。
EVの実用性と自宅充電の重要性
同講演では、EVの技術的進歩についても詳しく説明されました。現在のEVの平均航続距離は600〜700kmに達し、東京から大阪までの500km程度を走行可能な性能を持ちます。安達課長は「日常使いであれば、頻繁に充電しなければならないという不安は必要ない」とEVの現在のスペックについて述べました。

EVの充電パターンは「基礎充電(自宅・事業所等)」「経路充電(コンビニ、高速道路SA・PA、自動車ディーラー等)」「目的地充電(商業施設・宿泊施設等)」の3つに分類され、この中でも基礎充電が最も重要とされています。欧州などEV先進国では、8割以上のユーザーが自宅充電を利用しています。
「スマートフォンと全く同じ運用」と安達課長が説明するように、自宅充電は外出先から帰宅後に自宅でコンセントに接続すれば翌朝には満充電になるという利便性があり、休日に起こりがちなガソリンスタンドでの給油待ちからも解放されます。また、平均的な年間維持費も従来のガソリン車(約12万円)に比べ、自宅充電を使えばEVは約5万2000円と半分以下に削減できます。
東京都が発表した年間維持費用の試算例:1万km走行した場合
自宅充電を使用したEV:電費6.0km/kWh、31円/kWh、5万1666円
ガソリン車:燃費15.0km/L、単価レギュラーガソリン182円/L、年間燃料料金 12万1333円
さらに、EVは災害時の電源としても活用可能です。一般的な家庭用蓄電池(10kWh程度)の6〜7倍の容量を持つEVは、V2H(Vehicle to Home)機器を使用することで、停電時の家庭への電力供給が可能で、集合住宅ではエレベーターや給水ポンプなどの共用設備への電力供給も実現できます。
2030年までに都内集合住宅で6万口設置を目標
運用コストも安く、利便性も高いEVを普及させるべく、東京都は野心的な目標を設定しています。2030年までに都内の新車販売を100%非ガソリン化(ZEVとハイブリッドを含む)し、そのうちZEVの割合を50%とすることを目指しています。充電設備については、都内集合住宅で2030年までに6万口、2035年までに12万口の設置を計画しています。

この目標達成に向け、2025年4月から都内の新築建物については、EV充電設備の設置または将来設置のための電気の配管設置を義務化しました。安達課長は「今後、都内の集合住宅には充電設備があることが当たり前の環境になり、EV充電設備の有無がマンションの資産価値を左右するようになる」と説明しています。
既存集合住宅への東京都の手厚い支援策
既存の集合住宅におけるEV充電設備設置の最大の課題は「住民の合意形成」と「コスト」です。東京都のアンケート調査でも、これらが設置の主な障壁として挙げられています。
この課題に対し、東京都は検討段階から運用段階まで、全段階での支援策を用意しています。検討段階では、「マンションEV充電器情報ポータル」での情報の提供、平日夜間のオンラインセミナー、無料のアドバイザー派遣(複数回利用可能)、充電事業者の対面形式の相談会、見積もり調査費のサポート(上限18万円)等を実施しています。

設置段階での支援では、機器購入費について急速充電器は10分の10(全額)、普通充電器は2分の1を助成。
工事費に関しては、より多様な支援が用意されています。工事対象経費の10分の10助成で、普通充電設備・V2H・充電用コンセントスタンドの場合は1基目135万円、2基目以降は上限68万円を設定し、充電コンセントの場合は、95万円/基(1基目)、48万円/基(2基目以降)。機械式駐車場の場合は1基当たり171万円、2基目以降85万円が助成されます。
また、通信機能付き充電設備の場合、工事費上限額に上乗せする形で、急速充電器の場合は、1基10万円、普通充電器、V2H等の場合は1基3万円の助成があり、将来の設備設置を見据えた配管等の先行工事に関しても、機械式駐車場以外で7万円/区画、機械式駐車場で30万円/区画等が助成されます。

集合住宅に太陽光発電システム及び蓄電池を設置する場合、V2Hと同時に申請することで10/10の助成があり、上限最大1500万円の購入費と工事費が支援されます。
運用段階では、充電設備設置に伴う電気料金基本料金の増加分を3年間助成し、低圧受電で年間18万円、高圧受電で年間334万円をサポートしています。
上記の助成金は国の補助金との併給も可能で、実際の案件の約4分の3で、総費用の8割程度をこれらの支援でカバーできているということです。
管理組合の意識変化と今後の展望
実際に設置が進んでいるケースでは、管理組合の理事がEVを所有していたり、将来的なニーズを見据えて積極的に取り組んでいる例が多いといいます。安達氏は「EV充電設備の有無がマンションの資産価値を左右する時代に移行しつつある」と指摘しています。
東京都環境局は、BREX 2025の3日間の展示期間中、マンションアドバイザーも参加した相談ブースを設置し管理組合や管理会社の人を中心に、集合住宅に興味を持つ来場者からの具体的な相談に応じました。
賃貸住宅では、充電設備がないことを理由に入居者が退去するケースも実際に発生しており、社会環境の変化が確実に進んでいることが伺えます。

また、東京都は、直近では7月23日にオンラインセミナーを開催しました。当日は、東京都からの「EVや充電設備に関する基礎知識」と「支援策・補助制度」についての説明や、集合住宅への充電設備導入に精通したマンションアドバイザーからの「導入の際に検討すべきこと」や「合意形成の図り方」について等の解説がありました。
同オンラインセミナーは、引き続き2025年9月、2025年12月、2026年2月に開催を予定。メールマガジン登録によりそれらの支援に関するタイムリーな情報提供も行われています。
東京都のEV充電設備普及に向けた取り組みは、単なる補助金提供にとどまらず、検討段階から運用段階まで一貫したサポート体制を構築しているのが特徴です。新築建物への設置義務化により将来的なインフラ整備を確実にしつつ、既存建物への手厚い支援により現在の普及も加速させる戦略となっています。



