電動革命の波に乗る! EV株投資の秘訣 第41回
by じんべい
こんにちは、じんべいです。
まずはこちらの数字を聞いてください。
「企業価値 2.5兆ドル(約375兆円)、株価 2500ドル」
これは、キャシー・ウッド率いるARK Investが発表した、2030年時点でのスペースXの期待価値です。現在、スペースXは未上場ですが、もしこれが実現すれば、現在のGoogleやAmazonに匹敵、あるいは凌駕する規模になります。
「ロケットを打ち上げるだけで、そんなに儲かるわけがない」 そう思った方もいるかもしれません。しかし、先日X(旧Twitter)で行われたキャシー・ウッドとイーロン・マスクの「あるやり取り」を見れば、この数字が決して絵空事ではないことが分かります。
イーロンが指摘した「欠けているピース」
事の発端は、キャシー・ウッドが「スペースXの収益モデルをオープンソース化した」と自信満々に投稿したことでした。これに対し、イーロンは、ARKの予測ですら「ある重大な要素を見落としている」とリプライを飛ばしたのです。

彼が語ったその「隠された収益源」こそが、今回のテーマである「宇宙AIデータセンター」です。
イーロンはこう断言しました。
「地球上で容易に入手できる電力源は、もう見つからない」
「3年以内に、宇宙でAIを動かすのが最も低コストになる」
「月面に工場を作り、電磁レールガンで衛星を飛ばせば、カルダシェフII型文明へ到達できる」
つまり、ARKが弾き出した2.5兆ドルという数字には、この「全人類のインフラを宇宙へ移す」という、とてつもないアップサイドが含まれている可能性があるのです。

「地球という檻」とシリコンバレーの脱出競争
なぜ、イーロン・マスク、OpenAIのサム・アルトマン、そしてGoogleのスンダー・ピチャイといった現代の英知を結集した経営者たちが、こぞって宇宙開発に注力するのか? その動機は単なるロマンなのでしょうか?
いえ、理由はもっと切実で、現実的なものです。
結論から言えば、「地球上では、AIの進化を支えるエネルギー(電気)が限界に達しているから」です。
OpenAIのサム・アルトマンは、あるインタビューで次のように語っています。
「このままAIが進化を続ければ、世界の表面の多くがデータセンターで覆い尽くされることになるだろう」
AIモデルの規模は指数関数的に増大していますが、それを動かす電力網は何十年も前のインフラのまま。原発新設には時間がかかり、再エネは不安定。これを業界では「パワー・ウォール(電力の壁)」と呼びます。
さらに、地上のデータセンターは冷却のために大量の水と電力を消費します。環境規制が厳しくなる中、これ以上地上に巨大な熱源を作ることは、事実上不可能になりつつあるのです。
宇宙が「最強の立地」である3つの理由
「じゃあ、邪魔な熱源は宇宙に捨てて、エネルギーは宇宙で拾えばいいじゃないか」
これが、彼らが宇宙を目指す究極の答えです。
メリットは主に3つあります。
① 24時間365日、発電し放題:地球上には「夜」や「雨」がありますが、宇宙に行けば24時間ずっと太陽が照りつけています。大気による減衰もなく、発電効率は地上の比ではありません。
② 電気代が実質「タダ」:投資家視点で最も重要なのがここです。一度打ち上げてしまえば燃料代はゼロ。地上のデータセンターが毎月巨額の電気代を支払う横で、宇宙データセンターは「変動費ゼロ」で稼働し続けます。これはAIビジネスの利益率を根底から覆す革命です。
③ 天然の冷却システム:宇宙空間の日陰は極低温の世界。「放射冷却」を使えば、巨大なエアコンも冷却水も不要。つまり、「環境規制フリー」の特区と言えます。
三つ巴の戦略比較、誰が宇宙を制するのか?
この「宇宙にサーバーを置く」というクレイジーなアイデアを実現するために、シリコンバレーのビッグ3が動き出しました。
Google:技術的実証へのアプローチ
Googleは非常に堅実です。2025年11月に発表された「Project Suncatcher」では、自社製AIチップ「TPU」を搭載した衛星を2027年までに打ち上げる計画です。チップの設計力とパートナーシップを武器に、「宇宙でGoogle Cloudを使う」未来をエンジニアリング主導で切り開こうとしています。
OpenAI:イーロン依存からの脱出
最も難しい舵取りを迫られているのがOpenAIです。誰よりも電力不足に危機感を抱いていますが、彼らはロケットを持っていません。
最強のロケット企業はスペースXですが、そのオーナーは最大のライバルであるイーロン・マスク。生殺与奪の権を握られるのを嫌ったアルトマンは、ロケットスタートアップの「Stoke Space」との連携を模索しています。コストやリスクを背負ってでも「イーロンへの依存」を避けたいという、強烈な意志を感じます。
イーロン・マスク:反則級の垂直統合
そして、この競争における「真打ち」こそが、イーロン・マスクです。彼の最大の強みは、ビジネス用語でいう「垂直統合」にあります。平たく言えば、「すべてを自社で完結させる」、まるで「ドラえもん」のジャイアンのような、圧倒的な支配力を持つビジネスモデルを彼は現実のものとしています。
輸送:スターシップ(スペースX)
場所と電力:軌道インフラと太陽光発電(スペースX)
通信:スターリンク(スペースX)
脳:AIチップとAIモデル(テスラ / xAI)
他社が宇宙の「テナント」として場所を借りて宇宙を目指すのに対し、イーロン・マスクは大家であり、運送業者であり、電力会社でもあるのです。この圧倒的な垂直統合の基盤があるからこそ、「3年以内」という驚異的なタイムラインを提示できるのでしょう。

AIの生存戦略:なぜイーロン・マスクは『宇宙』で電気代をゼロにするのか?
最後に、皆さんが最も気になる点についてお話しします。
「イーロン・マスクが宇宙でAIを運用するなら、利益を得るのはスペースX(未上場)だけであり、テスラ株には関係ないのではないか?」
そう思われるかもしれません。しかし、私はこう確信しています。
この宇宙AI構想は、テスラのビジネスモデルの「利益率」を極限まで引き上げる「最強のブースト装置」となるでしょう。
テスラの主力事業である「FSD(完全自動運転)」や、将来の「オプティマス(人型ロボット)」は、膨大な推論計算を必要とします。地上の電気代が高いままでは、数億台のロボットや車両を動かす「サーバー代」がテスラの利益を圧迫してしまうでしょう。
しかし、宇宙で「電気代はタダ同然、冷却コストもゼロ」の計算資源が手に入ったらどうなるでしょうか?
結果として、AI運用にかかるランニングコスト(原価)は限りなくゼロに近づきます。売上はそのままにコストだけが激減する、つまり、ソフトウェア収益の利益率がほぼ100%に近づくという、製造業では「あり得ない」収益構造が完成するのです。
「テスラのAIチップを、スペースXが宇宙へ運び、xAIが運用し、その知能をテスラ車とオプティマスが活用する」
このグループ間シナジーこそが、GoogleやOpenAIには決して真似できない、イーロン帝国の「真骨頂」なのです。

イーロン・マスクの本当の狙い ── AI覇権とテスラ再評価の行方
「3年以内に実現する」というイーロンの言葉。これがハッタリか、未来の予告か。GoogleやOpenAIが必死に追随している現状を見れば、その方向性自体は間違っていないようにも思えます。
ars TECHNICAのシニア宇宙編集者であるエリック・バーガー氏は、イーロン・マスクがスペースXのIPOを視野に入れ、巨額の資金調達を目指している理由について、次のように分析しています。
「マスク氏の現在の最大の目標は、AIをめぐる戦いに勝つことだ。彼はすでにxAIとテスラでこの問題に取り組んでおり、今度はスペースXもこの戦いに巻き込もうとしている。スペースXを株式公開し、膨大なリソースを動員しようとしていること自体が、彼が勝利を本気で目指していることを示している」
つまり、イーロンの現在の最大の関心事はAI開発競争での勝利であり、テスラ、xAI、スペースXを含む”会社総力戦”によって、それをつかみ取ろうとしているということです。
私たちは今、人類が「地球の限界」を突破し、次の文明レベルへと進化する過程に立ち会っています。その中心にいるのが、イーロン・マスクと彼の企業群です。
テスラもまた、この壮大なビジョンを実現するための重要なピースのひとつです。テスラは単なるEVメーカーではなく、「宇宙に存在する無限のエネルギーを、AIという付加価値に変えて提供する企業」として再評価される日が来るのか。
投資家としても、そして一人の技術ファンとしても、この壮大な実験から目が離せません。

文・じんべい
日本企業でサラリーマンをしながら、 米国株式投資や太陽光発電投資で資産形成し、2023年3月にサイドFIRE。 株式投資では、S&P500を積立投資しながら、 個別株はテスラを中心としたEV銘柄に集中投資を実行中。YouTubeチャンネル『じんべい【テスラとNio】について語るチャンネル』登録者数:約3万人。 X(Twitter)フォロワー数:約1万人。平日毎朝、Xにて前日のテスラ株価情報を発信、また毎週末にはYouTubeでテスラ株価ニュースを配信中。

