東京のスタートアップ企業「EVジェネシス」は、災害時や過疎地などにおける物資輸送に貢献すべく、太陽光エネルギーを活用できる「曲がる太陽電池」を搭載したソーラーEV三輪車「EVJ-001S」の実証実験を開始しました。
2023年7月に設立したEVジェネシスは、EUのプロダクトデザイナーらと提携して、EV車体のデザインや車体検査などを行ってきた技術者を有する会社。環境への低負荷や移動の自由度など電動三輪車の可能性に魅せられ、14名のスタッフによりEV三輪車を自社開発しています。その第一弾コンセプトモデルとして「EVJ-001S」を生み出しました。
EV三輪車は、車両登録「側車付軽二輪車」で車検、車庫証明が不要。普通自動車免許を所持していてれば運転が可能です。ヘルメット不要、三人乗り可能で、家庭用100vコンセントで充電ができます。
EVジェネシスが開発したEVJ-001Sコンセプトのサイズは、全長2270mm×全幅1190mm×全高1570mm、ホイールベース1617mmで、重量は206kg(+リン酸鉄リチウムイオンバッテリー40kg)。運転手の他に後部座席に2人座ることのできる乗車定員3名の三輪車です。リン酸鉄リチウムイオンのバッテリーを使うと5時間の充電で70kmの航続距離を走ることが可能で、最高速度は45km/hとなっています。
そして、EV J-001Sの最大の特徴は、EVジェネシスのパートナー企業でもあるPXPが製作したカルコパイライト型「曲がる太陽電池」をルーフに搭載していること。この太陽光電池は、従来のシリコンベースのパネルと比較して、軽量でありながらも高いエネルギー変換効率を持っています。
このパネルは、計1kg未満の超軽量設計で、厚さ1mmの超極薄、日中、太陽光で8時間程度発電することで、約15〜20kmの走行が可能になるとされています。また、現在PXPが開発中のペロブスカイトタンデム型にアップグレードした場合は、同様の発電で約25〜30kmの走行が可能となる見込みです。
EVジェネシスは、どのような想いからEV三輪車開発事業を創業するに至ったのでしょうか? そこには、運送業における「2024年物流問題」が大きく関わっていました。
2024年物流問題とは、2024年4月から施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限(休日を除く年960時間)の規制が適用され生じた問題です。これによって、1日に運ぶことができる荷物の量が削減され、トラック事業者の売上げと利益が激減。結果、ドライバーの収入減少により運送業の担い手不足に拍車がかかり、2030年には「全国で約35%の荷物が運べなくなる」とされています。
この物流に関する社会問題を受け「地方での宅配便物流において、免許を返納した高齢者が届け先までのラストワンマイルを担うことができれば物流問題解決の一助になるのでは?」 と考えたEVジェネシスは、EV三輪車開発をスタートしたのです。
高齢者が運転免許を返納する際は、申請によって「原付」「小型特殊自動車」など下位の免許だけを残すことができます。そこで、現在、250ccカテゴリーのEVJ-001Sを50cc仕様にすることで、高齢者の人々が免許返納後も原付免許で運転することもできるのです。また、3人乗りの後部座席を撤去してカーゴタイプにすることで、1972年まで生産されていたダイハツの「ミゼット」のように活用できると計画しています。
また、2011年に発生した東日本大震災で宮城県石巻市を訪れた際、ガソリン不足や道路の被害で寸断された物流の惨状を目にしたEVジェネシスのメンバーは、被災地で機能するモビリティの必要性を痛感しました。
ガソリンが不足している被災地においても、太陽光で発電しながら走行できるEVならば、燃料不足の心配もありません。また、タイヤをパンクしない仕様に変更できれば、小型三輪車は四輪車が通れない足場の悪い瓦礫の中でも走ることができ、最適な支援物資の輸送手段となります。それだけでなく、電気が止まった地域では、EV三輪車のバッテリーを蓄電池として活用することができ、スマートフォンやPCなどの通信機器への充電が可能となるのです。
今回、EVJ-001Sの実証実験を開始した同社は、過疎地の物流や被災地支援を実現するため国内企業の様々な協業パートナーと話し合いながら、プロダクト開発事業を加速していく予定です。
「弊社のノウハウを活用することで、どのような形のEV三輪車もデザイン設計することは可能です。今後、企業や自治体の皆さんからのご要望に合わせたオーダーメイドとして作り上げていくことで、EVJ-001Sをベースとした社会に役に立つEV三輪車を完成させていきます」とEVジェネシスのジェネラルマネージャー、宇野智哲さんは語りました。
また、EVJ-001Sのデザインを担当した、EVジェネシスの木村香織社長は、車体にベビーピンクのカラーリングを採用しラメを入れるなど、女性的な感性によって見るからに可愛らしく愛されるデザインを具現化。そのコンセプトは、被災地などで働くクルマに対する優しい視線がベースとなっていました。
「現在の車は目がつりあがったような威圧感があるデザインが多い気がしていました。働く車として被災地や過疎地を走る際は、見るだけで癒されるデザインであるべきです。そこで、車体全体に丸みを帯びさせて、ヘッドライトなどのシルエットを優しくすることで見た目の印象を柔らかくすることにこだわりました」
そんなEVJ-001Sの可愛らしいデザインインパクトは、PRでも効果を発揮。現在、EVジェネシスには、都市開発や災害に関連する自治体等を中心に多くの相談が寄せられています。