充電サービス

「EVオーナー自ら汗をかくこと」がEV充電器設置の早道、麻布十番のマンションにおける成功事例

東京都心のマンションで実施されたEV充電設備導入への取り組み

 東京都港区麻布十番にある21戸からなるマンション「コスモ麻布十番」では、2022年11月、駐車場全5区画にEV充電用200Vコンセントが導入されました。同マンションは2000年1月に建設された築24年の分譲マンションです。

コスモ麻布十番の最寄駅は東京メトロの「麻布十番駅」
コスモ麻布十番の最寄駅は東京メトロ「麻布十番駅」

 東京都心にある同マンションの取り組みは、2024年9月28日に東京都が開催する「第4回 マンションEV充電器設置に関する充電事業者と管理組合のマッチング会」での講演テーマに採用されるなど、都内の既存中小規模マンションにおけるEV充電設備導入の好事例の一つとされています。今回は、このマッチング会にも登壇するコスモ麻布十番管理組合理事の小松﨑潤さんに、EV充電設備の導入についてのポイントを伺いました。

 小松﨑さんは、2021年10月に自身初のEVでもあるテスラ・モデル3を購入。当初は、テスラのスーパーチャージャーで充電をしていましたが、実際にEVに乗るようになって「自宅マンション駐車場のEV充電設備は、ごく近い将来、あって当たり前のものと思われるようになる」との感覚が次第に強まっていったそうです。また、テスラ購入時に国と東京都の補助金140万円を利用できたことをきっかけに制度を調べるうち、自分の住むマンションにEV充電設備を導入するにあたって行政の補助金を使えるらしいことも分かってきました。

コスモ麻布十番管理組合理事の小松﨑潤さん
コスモ麻布十番管理組合理事の小松﨑潤さんと愛車のテスラ・モデル3

 EV充電器導入に向けたアクションに小松﨑さんが着手したのは、2022年2月のこと。最初に直面したのは、5区画ある駐車スペースが壁に囲まれているという物理的制約でした。「大型の急速充電器はもちろん、スタンドタイプの普通充電充電器も設置できそうにありませんでした」。そこで見つけた導入パートナーが、200VコンセントタイプのEV充電設備を提供するユビ電だったそうです。

 このとき同マンション管理組合の副理事長という立場にあった小松﨑さんは、ユビ電とマンション管理代行会社の協力のもとで導入概要案を作成。この案をもとにEV充電設備の導入を目指す検討の本格化を2022年3月の理事会に提案したところ、了承を得ることができました。その後、「他人任せにするよりは」との考えから理事長に就任し、EV充電コンセント導入に向けたプロジェクトを自ら推進していくこととなりました。

 導入に向けた検討過程で欠かせない材料となったのが、行政の補助金です。補助金の申請に向けた必要書類の準備なども、ユビ電の全面的な協力を得ながら進めていきました。費用負担の観点から、「もし補助金が出なければ導入提案は見送る」という選択肢も、検討の前提としていたそうです。

 最終的には経済産業省の補助金が活用でき、総工費234万円のうち203万円の補助を受けることとなったコスモ麻布十番ですが、小松﨑さんは「『補助金でカバーされる金額が具体的に分かっていない状態で是非を判断したくない』との声に配慮するために、導入の是非が最終判断される管理組合の臨時総会を補助金の金額確定後に開催する段取りとしたことが、スムーズな合意形成につながりました」と振り返ります。

コスモ麻布十番、EV充電設備導入に関するスケジュール

  • 2022年2月:EV充電設備導入検討開始
  • 2022年3月:ユビ電と管理会社やりとりによる現地調査。ユビ電立ち会いのもとで理事会へ提案。管理組合総会での導入決議を目指す方針を決定
  • 2022年4〜6月:補助金制度の詳細確認
  • 2022年7月:補助金申請手続き(書類作成・手配のほぼすべてをユビ電が代行)
  • 2022年8月末:経産省補助金の採択(実質負担は31万円程度になると判明)
  • 2022年9月:管理組合の臨時総会での決議(補助金採択に関する資料をまとめ、ユビ電の立ち合いのもと質疑応答を実施、賛成多数により導入決定)
  • 2022年11月末:工事(5日間)実施・運用開始
  • 2023年1月末:補助金支払に必要な「実績報告」をユビ電が代行し完了
  • 2023年2月:補助金203万円を管理組合が受領

EVに乗っていない住民にもEVについて説明

 このように、導入検討開始から運用開始までのスケジュールにおいて小松﨑さんが特に注力したのは、住民への丁寧な説明と合意形成のプロセスです。「納得感のある合意形成のための大前提は、『EVに乗っていない人は、EV充電のことをまったく知らない』という、ごく当たり前の事実を常に意識することでした」と小松﨑さんは語ります。

コスモ麻布十番は、壁に囲まれた駐車場に対応して全5区画に普通充電器を設置

 その前提を踏まえて、EVの特徴やエンジン車との違いや共通点、エネルギー補給の仕方など、「そもそもEVを所有・運用するということは、具体的にどういうことか?」を、EVに乗っていない住民に丁寧に説明しました。小松﨑さんいわく、「こうした過程で、『自分はEVに乗っていないし、今のところ乗る予定もないけれど、マンションへの導入メリットは確かにある』といったポジティブな意見を口に出して表明してくれる『EVに乗っていない理解者』をつくることが大事」とのことです。

 また、EVに乗っていない人が「EV充電設備」と聞くと、直感的にイメージするのは急速充電設備のようです。そこで、「多額の費用をかけ、大変な工事の末に完成し、維持費も高額となる設備を導入しようとしている」という誤解を生むことのないよう、小松﨑さんは、「コンセントをつけたい」という言い方を、説明の場で貫きました。「EV充電用の200Vコンセントは、家庭用エアコンのコンセントなどと同じもの。200Vコンセントの部材自体もAmazonなどで安価に買うことができ、故障の可能性や維持費は限りなくゼロに近い」といった具体的な判断材料を示しました。

ユビ電「WeCharge」の200V普通充電器を採用

充電事業者立ち会いによるサービス説明の大切さ

 203万円の補助金が確定したのは2022年8月末。これを受けて翌9月に開催された管理組合の臨時総会で、実際の管理組合の出費は総工事費234万円と補助金203万円との差額にあたる31万円となることを明示するとともに、「ごく近い将来、EV充電設備は集合住宅の駐車場にあって当たり前の設備になる」「補助金が手厚い今のうちに導入することがメリット」「マンションの資産価値維持・向上につながる可能性がある」といった点を分かりやすく説明しました。

 また、この臨時総会にはユビ電の担当者が立ち会い、EV充電サービス「WeCharge」の詳しい説明や、質疑対応も担いました。EV充電に使用した電力量を正確に計測し、その電気代をユビ電が利用者から集金して管理組合に返戻する仕組みや、返戻金の単価が全国の電力料金の変動に応じて随時改定されることなど、導入後の運用コストを管理組合が負担することはない充電サービスであることが丁寧に解説されました。

 こうした積み重ねの結果、臨時総会では提案通りに導入を可決。設置工事は2022年11月末に5日間で完了し、その後すぐに自宅でのEV充電が可能になる日々が始まったのです。

ユビ電によるEV充電設備の設置工事は5日間で完了
ユビ電によるEV充電設備の設置工事は、5日間で完了

EV充電器設置後も受益者負担の原則を徹底

「どのようなものであってもマンションへのEV充電設備導入にあたって欠かせないのは、何よりも受益者負担の原則の徹底です。つまり、共用部の電気代とEV充電に使われる電気代を明確に区分できる仕組みを備えたサービスが、コンセントなどのハードウェアとセットになっていることが不可欠です。そして、この区分ができる仕組みを備えたEV充電サービスのひとつが、WeCharge。この点を住民の皆さんに正確に理解いただけるかどうかが、導入できるかどうかの分水嶺でした」と小松﨑さんは振り返ります。

 EV充電設備が導入されてから、なおも一部で残った住民の不安を解消すべく、同マンションの理事会では詳細な資料を作成しています。そこで特に重要だったのが、EV充電の仕組みと電気代負担に関する具体的なシミュレーションです。

 シミュレーションでは、EVの一般的な充電パターンとして、「週に一度12.4時間、寝ている間に充電する」場合と「毎日1.8時間、寝ている間に充電する」場合の2パターンを想定。それぞれの場合の電気代と返戻金を詳細に計算しました。この試算では、年間走行距離を自家用車の平均的な走行距離の2倍にあたる1万3454kmと仮定するなど、かなり保守的な条件を設定しています。結果として、どちらのパターンでも管理組合に電気代の負担は生じず、むしろ年間1万円から2万円程度のプラスになるという結果となり、住民のEV充電に対する不安の声が寄せられることはなくなりました。

住民の不安を解消すべく、コスモ麻布十番管理組合の理事会が作成したEV充電の仕組みと電気代負担に関する資料「電気自動車(EV)用の充電コンセント・WeChargeに関するシミレーション」

マンションへのEV充電器設置によって得られたもの

 EV充電設備の導入後、小松﨑さんの充電習慣は大きく変化しました。「まず、自宅充電できるようになると、充電スタンドに行くことはなくなりました」と語ります。「通常は、自宅のEV充電コンセントに充電ケーブルを挿しっぱなし。旅行のときだけ充電ケーブルを抜いて、トランクに入れて携行します。まさに、スマホと同じ感覚です」。また月々の充電コストについても、「スーパーチャージャーで充電をしていた当時に比べると月々の充電コストは半額ほど」になりました。

テスラに乗ることで遠方へドライブすることも多くなったという小松﨑さん。写真は北海道の根室まで自車で向かった際に立ち寄った札幌のスーパーチャージャー
テスラに乗ることで遠方へドライブすることも多くなったという小松﨑さん。写真は北海道の根室まで自車で向かった際に立ち寄った札幌のスーパーチャージャー

九州へ自車で向かった旅では、大阪からフェリーで鹿児島まで。航海中に船内で充電をしながら移動
九州へ愛車と共に向かった旅では、フェリーで大阪から鹿児島まで移動。写真は航海中に船内で充電をしている様子

 この取り組みは、他の住民にも影響を与えているようです。「私がマンションでEV充電をする様子を日々見ているほかの住民の方から『次はEVに買い換えようかな』といった声が聞かれるようになりました」と小松﨑さんは語ります。

 小松﨑さんは、自身の経験を通じて「EVのことを理解しているEVオーナー自らが汗をかけば、導入に向けた推進力は段違いに高まります。自らが理事となって、導入パートナーとなる業者の協力を最大限に引き出す一方、住民の方には客観的な判断材料を示して丁寧に説明する。そのうえで強引さを排して合意形成を進めることが、煩雑に見えても結果的にはマンションにおけるEV充電設備導入の早道になるのです」と強調します。

 この「コスモ麻布十番」の事例は、車を持たない住民が大多数を占める、中小規模かつ築年数が経過したマンションにおいても、スムーズなEV充電設備の導入が可能であることを示しています。小松﨑さんのように、EVオーナー自らが住民どうしの合意形成の道筋を立て、積極的にプロセスを進めることが、マンションにおけるEV充電設備導入の鍵を握っているようです。

メールマガジン登録

EV Cafeでは、EVの世界の最新ニュースをはじめ さまざまなEVライフを豊かにする情報をお届けします。
ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『EV Cafe』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
PAGE TOP