郵便車のEV化が進む郵便局の現場を取材
愛らしい「ぽすくま」がデザインされた郵便局のEV集配車両を目にすることが増え、「郵便局の車は環境にいいEV」というイメージも徐々に定着し始めているようです。今回は、実際にガソリン車からEVに乗り換えた郵便局員の方々に、EVに乗って仕事をする利点や気になる点を聞いてみました
日本郵便は、2021年度からEV四輪車1万3500台、EV二輪車2万8000台の導入を計画。2024年3月末の時点で、日本郵便の郵便車両におけるEVの比率は、四輪車が15%、二輪車が20%となっています。
人気エリアならではの集配箇所の多さが特徴の小石川郵便局
取材にお伺いしたのは東京都文京区にある小石川郵便局。同局は、東京メトロの茗荷谷駅が最寄り駅で、周辺には大学のキャンパスも多いエリアにあります。周辺は、緑豊かな小石川植物園やさくらまつりが開催される播磨坂さくら並木などがあり、住宅地としても人気の街となっています。
そんな地域で、一般郵便物だけで一日7万通を配達しているのが小石川郵便局。同局で、日々の集配を担当している「EV四輪車担当」の大森守さんと、「EV二輪車担当」の内藤雄樹課長にお話を聞きました。
小石川郵便局では、2020年11月にEV四輪車に三菱自動車のEV「ミニキャブ・ミーブ バン」を7台導入したのを皮切りに、2022年11月に4台、2023年1月に3台を導入し、現在は合計14台のEV四輪車が稼働しています。また、EV二輪車では、ホンダの電動バイク「BENLY e:」が10台稼働。ガソリン車を含む全郵便車両の四輪車31台、二輪車80台のうち、四輪車の45%、二輪車の13%がEVとなっています。
EV車両は主に配達業務で活用されています。大森さんによると、「EV四輪車の14台のうち半数は大口のお客さま宛の郵便物配達に、残り半数はゆうパック配達、集荷業務に使われています。ゆうパック配達の日々の業務は、早番、日勤、中勤、夜勤と4つのシフトに分かれていて、早番の場合は、1エリアあたり朝に80〜100個程度の配達物を郵便車に積んで7時半から12時まで配達し、さらにその途中で午後配達分の20個程度を追加しておよそ16時頃までにすべてのお客さまへ訪問いたします」とのこと。1台のEV車両での1日のゆうパック配達数は、総計100〜120個程度、年末の繁忙期などには、お歳暮などで配達物が150〜180個に増えます。
EV車両1台での1日のゆうパック配達数は、総計100〜120個程度
内藤課長が担当するEV二輪車では、封筒や小さい書類関係の郵便物を配達。1500〜1800世帯ぐらいの区割りの地域を担当し、平日では、約1500~2000通の通常郵便物と書留などの記録郵便物を100〜150通を配達、記録郵便物は土曜日曜日には300通を超えることもあります。
そんな日々の業務における各EVの走行距離は、EV四輪車は1日10〜18km程度走り、EV二輪車は10〜15km程度とのことです。全国の郵便局におけるEVの1日の平均走行距離は、四輪が40km、二輪が30kmとのことなので、やはり首都圏の人口密集地域ならではの集配箇所数の多さと走行距離の短さがうかがえます。
郵便局員が実際の業務で感じるEVの長所と短所
これらの配達業務を終了すると、お二人とも帰局後に、四輪、二輪とも台数分設置された専用の普通充電器によって充電をします。ガソリン車で業務をしていた時代との比較では、「給油の手間が省けたこと」が最大の変化だといいます。「帰局したらコンセントに差して業務に戻るだけ。2日から1週間に一度していた給油の時間がなくなったことと、毎日のオイル点検などの作業がなくなったのが一番の利点です」と大森さんは語ります。
また、二人揃ってEVの静粛性を大きな利点に挙げます。「朝早くや夜遅くの住宅街の配達でも、騒音を気にせず業務ができます」。一方で、音が静かすぎて歩行者に気づかれにくいため、安全面により気をつけるようになったとも言います。「バイクが近づいたことに気づかない子どもたちもいるので、今まで以上に歩行者と車間距離を空けて運転するようになりました」と内藤さんは語りました。
EV二輪車に充電済みのモバイルパワーパックをセット
配達先に坂道も多いこの地域では、EV二輪車のパワーやバックできる機能が役に立っているようです。内藤課長は「積載した時に貨物量がある状況で駐車場から出発する際に、ガソリン車の場合は足漕ぎで後ろに一旦退がってから出発していましたが、EVではバックができるので楽にスタートすることができます。また、坂道でもパワー不足を感じることがなく、スムーズに走行できるのもEVの良さです。ガソリン車の時は急な坂道をなかなか上がれない時もありましたから」とEV二輪車のメリットを強調します。
配達先でも好評のEV郵便車
愛らしい「ぽすくま」のデザインもあり、四輪EVに対する反応は概ね好評のようです。大森さんは「導入当初は『EVになったんですね』と興味深げに話しかけてくる人も多かったです。また、外国人の観光客らしき方から写真を撮られることもありましたね」と導入時の様子を振り返ります。
また、内藤課長もEV二輪車について「配達の音が静かになって気づかなかったという声や、環境に配慮していることへの感謝の言葉をいただくこともあります。また、自身でもEVに乗るようになって、周囲を走っているEVについて気になるようになりました」と意識の変化を語りました。
静かにクリーンに走る次世代のEV郵便車
しかし、そんなEV化にも課題はあります。内藤課長は「地方では、担当地域の距離が長いので、充電設備や航続距離の問題でEVからガソリン車に戻すケースもあると聞いています」と語っています。
全国の郵便局で使われているホンダのBENLY e:の1充電あたり平均の実航続距離は、おおよそ40㎞。ユニバーサルサービスを実施するための地方や山間部などでの業務には、より多くの航続距離が求められることもあります。
今後、バッテリー技術の向上や充電インフラの整備が進めば、全国の郵便局においてEVの導入が大きく進むことが期待されます。
静かに、そしてクリーンに走るEV郵便車。それは、私たちの生活に欠かせない郵便サービスの未来の姿であり、日本郵便が掲げる2050年のカーボンニュートラル実現に向けた、極めて分かりやすい象徴となります。小石川郵便局の取り組みは、まさに次世代の郵便配達のロールモデルと言えるでしょう。
(Photo by Saya Hayashi)
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