電気自動車(EV)が環境に与える影響について、製造時の排出量を含めた車両のライフサイクル全体で評価した結果、アメリカ本土のすべての郡においてガソリン車よりもクリーンであることが、ミシガン大学が2025年に行った新たな研究により明らかになりました。

研究チームは、内燃機関車(ICE)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー電気自動車(BEV)の生涯排出量を、製造から廃棄までを含めて分析しました。対象となる平均走行距離は、セダンが約30.8万km、SUVが約34万km、ピックアップトラックが約39.3万kmと設定されました。
調査の結果、航続距離482kmのBEVのCO2生涯排出量は、80kmの航続距離のPHEVよりも31〜36%少なく、HEVよりも63〜65%少なく、ICEよりも71〜73%少ないことが判明しました。この環境負荷の軽減効果は、あらゆる車種で確認されています。
車種別温室効果ガス排出量比較
ガソリン車ピックアップトラックとの比較(ミシガン大学研究)
ICEV 内燃機関車 |
HEV ハイブリッド車 |
PHEV プラグイン ハイブリッド 56km |
PHEV プラグイン ハイブリッド 80km |
BEV 電気自動車 644km |
BEV 電気自動車 482km |
BEV 電気自動車 321km |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
ピックアップ トラック |
100% (486) |
77% (374) |
44% (214) |
40% (195) |
31% (152) |
27% (134) |
25% (121) |
中型SUV | 84% (407) |
65% (318) |
39% (190) |
35% (173) |
28% (134) |
24% (118) |
22% (106) |
小型SUV | 78% (381) |
61% (299) |
37% (179) |
33% (163) |
26% (124) |
22% (108) |
20% (98) |
中型セダン | 72% (351) |
56% (273) |
33% (160) |
31% (149) |
23% (112) |
20% (97) |
18% (88) |
コンパクト セダン |
66% (321) |
52% (254) |
31% (152) |
29% (141) |
22% (105) |
19% (90) |
17% (81) |
注記:
• 括弧内の数値は1キロメートルあたりの二酸化炭素換算排出量(グラム)を示しています
• パワートレイン略語の後の数字は電気走行可能距離(キロメートル)を表しています
• この表は、ガソリン車のピックアップトラックを100%基準とした相対的な排出量を示しています
出典: E. Smith et al. Environ. Sci. Technol. 2025
特筆すべき点として、大型車両の電動化による効果の大きさが挙げられます。研究では「ピックアップトラックの電動化による絶対的な効果が最も大きい」と結論づけており、電動化によるダウンサイジングよりも環境改善効果が高いとしています。つまり、大型のピックアップトラックでも、EVならば小型のガソリン車よりも環境に優しいということになります。
EVに対する批判の一つとして、化石燃料による発電でEVを充電する場合の環境負荷が指摘されることがありますが、この研究はそれを否定する結果となりました。発電所は自動車よりも効率的であり、天然ガス発電所から充電するEV群は、個別に排気ガスを排出するガソリン車群よりもはるかにクリーンだというのが実情です。

地域別の分析では、アメリカ本土のすべての郡でEVの方が環境負荷が低いことが確認されました。EVの場合、バッテリー製造が生涯排出量の48~56%を占める一方、ガソリン車では走行による排出が92%を占めるため、この差が生まれています。
研究チームは、各地域の電力事情や車種別の詳細な比較ができる計算ツールも公開しており、消費者が米国の自身の住む地域でEVに切り替えた場合の環境負荷削減効果を確認できるようになっています。
この研究結果は、製造時の環境負荷やバッテリー生産による排出量を考慮してもEVが環境に優しいという従来の知見を、より包括的で地域別のデータをもって裏付けたものといえます。