2024年4月5日、通信社のロイターは、テスラが「2万5000ドルで販売可能で収益性が高い」としていた低価格モデル(コードネームは「レッドウッド」)の開発を中止したとX(旧Twitter)に投稿しました。
現段階でテスラはその報道を肯定していませんが、もしロイターの報道通り、ロボタクシーに注力するためにレッドウッド開発を断念したのであれば、その理由の一つは、中国EVメーカーの生産能力の高さと海外進出にあると考えられています。
Exclusive: Tesla has canceled the long-promised inexpensive car that investors have been counting on to drive its growth into a mass-market automaker, according to three sources familiar with the matter and company messages seen by @Reuters https://t.co/eDfPPUDPR5
— Reuters (@Reuters) April 5, 2024
イーロン・マスク自身、アナリスト向け決算説明会で、中国自動車メーカーを「最も競争力がある」と評価、「関税などの障壁がないならば、(BYDなど)中国の電気自動車メーカーが競合各社を壊滅させるだろう」と述べました。
テスラがレッドウッドによって開拓しようとしていた低価格EVの市場には、中国のメーカーが生産した高評価のEVがすでに存在しています。ロイターの同記事で指摘された通り、テスラのライバルと目されるBYDのラインアップには、1万3865ドルで販売される「ドルフィン」や、1万ドル未満で発売されるハッチバックの「シーガル」があります。BYDはシーガルを2倍以上の価格で海外に輸出する計画を立てていますが、それでもテスラが計画していたレッドウッドの2万5000ドルよりも安価で市場に提供されることになります。
では、BYDの最も低価格のEVシーガルは、市場に受け入れられているのでしょうか?
BYDは2023年に合計300万台の自動車を販売しましたが、そのうちBEVは前年比73%増の157万台以上。また、2024年第1四半期には約30万台販売しています。2023年の春に本国で発売されたシーガルは、販売期間が1年に満たないながらも2023年に28万台以上を販売しています。2024年3月には、前月比158%増の3万4830台を納車、BYDで3番目に売れたモデルとなっています。
そこまで低価格なシーガルとはどのようなEVなのでしょうか?
2024年3月に価格が約5%安くなった新しいHonor Editionというモデルが発売となったばかりのシーガルは、全長3780mm、全幅1715mm、全高1540mm、ホイールベース2500mmのコンパクトなハッチバック。販売される3つのグレードのうち、最も低価格のアクティブは9700ドル(約150万円)と1万ドル以下の価格設定で市場を驚かせました。EVとしての性能は最高出力75ps、最大トルク135 Nm。30.08kWhと38.88kWhの2種類のBYDブレードバッテリーパックが用意され、CLTC航続距離はそれぞれ305km、405 km。30分で30〜80%までの急速充電が可能となっています。
BYDシーガルの価格と航続距離
BYD シーガル Honor Edition | 価格 | 航続距離 (CLTC) |
アクティブ | 9700ドル | 305km |
フリー | 1万500ドル | 305km |
フライング | 1万2000ドル | 405km |
中国現地の報道によると、シーガルは、BYDの現グローバルデザインディレクターであり、元ランボルギーニのデザイナーだったヴォルフガング・エッガーがプロジェクトを主導していることから「ランボルギーニ・ミニ」と呼ばれています。
フォードのジム・ファーリーCEOは、2月にこの低価格EVを「かなり優れている」と評価し、BYDが利益を上げながら超低価格でEVを提供できていることを強調。フォードが開発中の低コストEVプラットフォームによって「BYDのシーガルに対抗できるほど値段が安い車を出す」と宣言しました。
ニュースサイトの財聯社によると、BYDは2024年の3月から新しい生産拠点となるブラジルの工場建設に本格的に着工。乗用車タイプの電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を製造する工場の生産能力は年間15万台で、まずはSUVの「宋プラス」と「Atto3」、小型車のドルフィンとシーガルを生産する予定です。
その中南米市場を開拓するために、BYDはブラジルとメキシコでシーガルを「ドルフィン・ミニ」として2万ドルで販売開始しました。また、英国でもシーガルは注目されています。EV関連の情報サイト、エレクトリックの報道によるとBYDの英国マーケティングの責任者は「EVは裕福な人だけのものであってはならない」と語り、シーガルの英国販売に積極的のようです。BYDは夏までにディーラーを現在の21社から60社に増やす計画。もし、シーガルが英国で発売されれば、同国で最も安価なEVとなる可能性が高く、BYDの欧州進出にも影響を与えそうです。
BYDの大きな課題とされてきた海外進出ですが、2023年、同社は海外で、総販売台数300万台のうちの約8%にあたる24万台を販売。今後の海外販売台数目標は、2024年が50万台、2025年は100万台となっています。
海外進出を見据えたBYDの次世代プラットフォームは、コストをさらに削減する可能性があるとされています。テスラを含む他のEVメーカーや自動車メーカーは、今後、さらに激しい価格競争にさらされそうです。