特集&エッセイ

ウォーレン・バフェット氏がテスラへ投資する日は来るのか? (前編)

電動革命の波に乗る! EV株投資の秘訣 第5回

 by じんべい

 先日、2024年の年次株主総会を開催した著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイが、2024年1〜3月期に米アップル株を13%程度売却したことが明らかになりました。投資に詳しい方はご存知だと思いますが、アップルはバークシャー保有株の4割を占めています。バフェット氏は、今回10%を超えるアップル株を売った理由として、売却益にかかわる税率の上昇が関係していると説明しました。しかし、前の四半期に続く売却はアップル株を「宝」としてきた評価が変わった可能性も考えられます。

 これを受けてテスラ強気派がSNSのXへの投稿で、「さあ、ウォーレン・バフェット、アップル株を全て売り払って、テスラを買おう」と発言。これに対して、テスラのCEOイーロン・マスクが返信。「彼はテスラでポジションを取るべきだ。それは明らかな一手だ」とコメントしました。投資の神様ウォーレン・バフェット氏に対して、テスラ株を買うべきだと主張したイーロン・マスクですが、はたしてバフェット氏が今後テスラに対して投資を決断する可能性はどれほどあるのでしょうか。本記事では、バフェット氏がテスラに将来投資する可能性について、じんべいが考察していきたいと思います。

 なぜウォーレン・バフェットはテスラに投資しないのか?

 以前、バフェット氏はTVメディアが行ったインタビューの中で、「自動車ビジネスにはプレミアムがない。誰も同じブランドの車に一生乗ることはない。ただiPhoneだけは別だ」と述べたことがあります。つまり、自動車やスマートフォンといった置き換え可能な、いわゆるコモディティ商品には、バフェット氏が重視する競争優位性が働きにくく、自身の投資方針には合致しないということです。ただし、アップル製品だけは例外で、アップルには強烈なブランド力があり、一方自動車にはそれを期待することは難しいとバフェット氏は考えているようです。

 確かに、バフェット氏が言うように、自動車にはアップル製品ほどの顧客を囲い込むほど強力な競争優位性はありません。もちろんそれは電気自動車においてもしかりです。世界トップシェアを誇るテスラは独自のビジネス戦略を確立し、しっかりと利益が出るEVを製造し、販売しています。また、テスラはEVに必要不可欠なバッテリーを自社で設計・生産するなどして、圧倒的なコスト削減努力を重ねています。それによって従来、黒字化が難しいと考えられてきたEVビジネスを利益が出るビジネスに転換させました。ただし、これが競争優位性かと問われると必ずしもそうとは言えません。

テスラが自社設計・製造している4680バッテリーセル
テスラが自社設計・製造している4680バッテリーセル 出典:YouTube / Tesla Battery Day

 他社がテスラのように、垂直統合型のビジネスモデルを構築することは難しいといえば難しいのですが、全く不可能とは言えません。巨額の資金力があれば、サプライチェーンを買収したり、他社の技術を真似ることによって近いビジネス構造を築き上げることは可能でしょう。バフェット氏が重視する競争優位性とはそれとはおそらく別物です。企業や製品が持つブランド力やネットワーク効果が作用する製品サービスを有しているかどうかといった点がバフェット氏の投資判断基準だと考えられます。

 アップルはコピーされやすいコモディティ商品であるスマートフォンという分野において、非常にブランド力が高く、リピーターが続出する製品サービスを売っています。また、アップルはその独自のエコシステムを効果的に作り上げています。ユーザーが一度アップルの製品を使い始めると、そのエコシステム内でさらに他の製品やサービスを利用するようになることが多いです。アップルのエコシステムは、iPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TVなどのデバイスがシームレスに連携し、iCloud、Apple Music、App Store、FaceTime、iMessageなどのサービスを通じて補強されています。

 出典:Apple

 このエコシステムの効果により、ユーザーが一つのデバイスやサービスを使い始めると、他のアップル製品やサービスにもスムーズに移行できるようになるため、利便性と付加価値が増します。たとえば、iPhoneを使っているユーザーは、メッセージやファイルの共有、データの同期を容易にするためにMacやiPadを購入することがよくあります。

 さらに、アップルのエコシステムはデバイス間での互換性が高く、使い勝手が良いため、一度アップル製品を使うと他のブランドに移行するのが難しくなるというロックイン効果が働きます。これがアップル製品にはリピーターが多い大きな理由です。このようにアップルは、エコシステム全体を通じて顧客の忠誠心を高め、長期的な顧客関係を築いています。

 以前、バフェット氏は映画やテレビ番組をストリーミング配信するサービス企業Netflixについても言及し、Netflixはネットワーク効果によって競争優位性を有していると述べていたことがあります。ネットワーク効果とは、製品やサービスの価値が、それを使用する人の数に応じて増加する現象を指します。つまり、より多くの人がその製品やサービスを利用することで、それを使っている各ユーザーにとっての価値が高まるということです。例えば、ソーシャルメディアプラットフォームや通信サービスなどがこの効果の典型的な例です。ソーシャルネットワークの場合、友人や家族が多く利用していればいるほど、そのプラットフォームを使うメリットが増え、新たなユーザーが参加しやすくなります。

 では、テスラはアップルやNetflixなどが持つ強力な競争優位性を持っていないのでしょうか? いや、決してそのようなことはないと思います。まだまだアップルやNetflixほどではありませんが、近年目覚ましいスピードで他社を寄せ付けない経済的掘、いわゆるモートを築きつつあります。

 出典:Attest,Bloomberg Intelligence

 こちら、Bloombergの調査によるとテスラ購入者の87%、つまり約9割もの人が次の車もテスラにしたいと考えているということがわかります。2位のレクサス68%、3位のトヨタ54%と比較すると、20%から30%ほども高いリピーター率を持っているということは注目すべきことです。これは、いかにテスラが強固なブランド力を作り上げ、その製品の魅力が消費者に浸透しているかということを示唆しています。

 テスラはバフェット氏に「渡らざるを得ない橋」と思わせることができるか!?

 今、テスラは自社の競争優位性をさらに高める一手を繰り出そうとしています。それは自動運転サービスです。現在、テスラは主に北米で監視付き完全自動運転システムFSDバージョン12を展開し、北米では4月から全てのテスラオーナーに対して、期間限定で無料でFSDを体験できるプロモーションを実施しています。また月額サブスクリプション料も、以前の199ドルから半額となる99ドルに値下げしています。これらの販促活動によってFSDを利用するテスラオーナーはこの春の期間に急増したことは間違いありません。

 出典:Tesla USウェブサイト

 さらにテスラは、2024年第1四半期の決算資料にて、今後導入予定のロボタクシーアプリの開発画面を初めて公開しました。テスラのロボタクシーサービスとは自動運転タクシーによる配車サービスのことで、将来FSDを備えたテスラ車両は完全自動運転のタクシーとして運用可能になり、自力でタクシーとして走行して、テスラオーナーに稼ぎをもたらすことができるようになるとされています。

 出典:テスラ2024年第1四半期決算資料

 そして前回の決算では、テスラは初めてテスラエコシステムと名付けた作図も公開し、テスラは今後ただの自動車メーカーという枠にとどまらず、先述したアップルのようなエコシステム全体を通じて顧客の忠誠心を高め、長期的な顧客関係を築くビジネスを構築していくことを目指していくことを表明しました。

 出典:テスラ2024年第1四半期決算資料

 もしテスラが完全自動運転を実現し、ロボタクシービジネスを成功させ、エネルギー生成から貯蔵、EV充電設備ネットワーク、自動車保険、そしてゆくゆくはヒューマノイドロボットの製造販売まで手掛けるとしたら、これはウォーレン・バフェット氏も無視できない、非常に強固なモートを誇る魅力的な企業へと変貌することでしょう。

 バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが初めてアップルの株式を取得したのは2016年6月でした。最初はわずか981万株ほど。そしてその年の9月末には1522万株、12月末には5735万株と買い増し、2024年3月末時点では7億5000株ほど所有していると考えられています。2010年代後半にバークシャーがアップル株大量取得の理由について問われ、バフェット氏は「買いたくなったのだ」と話しています。

 バフェット氏は自分が好んで投資する銘柄について、しばしば「渡らざるを得ない橋」という表現を用います。バークシャー・ハサウェイの代表的な保有銘柄と言えば、アップル以外にはバンク・オブ・アメリカ、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、クラフト・ハインツなど、いずれも消費者の生活に密着した業種で、圧倒的なシェアを持つ会社ばかりです。バフェット氏の言う「渡らざるを得ない橋」とは、人々の生活とは切っても切り離せない、もはや生活の一部となっている製品サービスを提供している企業であり、かつ将来も高い収益性を見込める企業については、投資しない理由はないということなのでしょう。

 出典:US版 Yahoo Finance

 ですので、もし将来テスラがバフェット氏にとって「渡らざるを得ない橋」と思わせることができたのならば、それがバフェット氏がテスラ投資を決断するタイミングになるはずです。

 では、実際にテスラへ投資する日は来るのでしょうか? 後編では、ウォーレン・バフェット氏の投資手法に照らし合わせて考えてみます。

 ウォーレン・バフェット氏がテスラへ投資する日は来るのか? (後編)に続く

文・じんべい

日本企業でサラリーマンをしながら、 米国株式投資や太陽光発電投資で資産形成し、2023年3月にサイドFIRE。 株式投資では、S&P500を積立投資しながら、 個別株はテスラを中心としたEV銘柄に集中投資を実行中。YouTubeチャンネル『じんべい【テスラとNio】について語るチャンネル』登録者数:約1万3000人。 X(Twitter)フォロワー数:約7000人。平日毎朝、Xにて前日のテスラ株価情報を発信、また毎週末にはYouTubeでテスラ株価ニュースを配信中。

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