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「もう、テスラじゃなくていいかも」。シャオミEV「SU7」を所有して感じた驚きの高性能

日本のテスラオーナーがシャオミSU7を購入! 実際に所有してみた感想は?

 中国のスマートフォンメーカー「シャオミ(Xiaomi)」が2024年3月に発売したEV「SU7」は、予約開始と同時に注文が殺到。27分間で5万件以上、24時間以内に約9万件の確定注文があり、最大8カ月間の納車待ちが通知されるなど中国では一つの社会現象となりました。

 そんなシャオミを中国で購入した福岡在住の青山ご夫妻に、現在の中国のEV事情とシャオミを実際に体感した感想をお聞きしました。現地では、テスラモデル3のライバルと目されるシャオミSU7、そのEVとしての完成度と実力はテスラと比べてどうなのでしょう?

中国のショールームに展示されるシャオミSU7
中国のショールームに展示されるシャオミSU7

テスラーのご夫妻がシャオミSU7を体感

 今回お話をお聞きしたのは青山哲さん、美慧さんご夫婦です。青山さんは投資コンサルタントが職業で、美慧さんは@mieisgoodというアカウント名でテスラのインフルエンサーとしても活躍しています。

 2021年6月に購入したテスラモデル3ロングレンジから始まり、2022年9月にモデルYパフォーマンス、2023年12月購入した7人乗りのモデルXロングレンジを愛車とする本格的なテスラーのお二人。愛犬のSODAちゃんとテスラで日本全国を周遊、車中泊とEVキャンプの達人でもあると共に、テスラを活用したスマートハウス生活を実践するために福岡県に現在の自宅を購入したというEVライフのエキスパートでもあります。

テスラモデルYでアウトドアを満喫する青山哲(左)さん、美慧さん(右)ご夫婦と愛犬のSODAちゃん
テスラモデルYでアウトドアを楽しむ青山哲さん、美慧さんご夫婦と愛犬のSODAちゃん

 そんな青山夫妻が、中国広東省珠海市にお住まいの哲さんの父親へのプレゼントとして購入したのがシャオミSU7 MAX。お二人は中国へ渡り、2024年6月8日に広州にある納車センターを完備したシャオミのストアにてSU7を納車され、現地でSU7の走りを体感しました。実際に、SU7を購入し走った感想をお聞きしました。

現在の中国EV事情とは?

ーー まず、中国に行って体験されたEV事情に関してお聞かせください。

哲さん:中国では、各地の大都市で展開されるワンダ・プラザといった大型ショッピングモールなどの、最も集客力のある1階フロアに、いろいろなEVメーカーのストアがあります。大都市の公道を走る車も半数以上が、グリーンのナンバープレートの車※1ですね。

※1:グリーンナンバープレートは、「新エネルギー車」=電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)に配布されるナンバー。

中国のショッピングモールの1階には、多くのEVストアが並ぶ
中国のショッピングモールの1階には、多くのEVストアが並ぶ

ーー 中国ではガソリン車とEVでナンバープレートが違うのですね。

哲さん:中国では環境対策のために新エネルギー車が優遇されていて、特に上海などの主要都市でガソリン車に乗るには、価格が日本円で150万〜180万円と高額な上に地域によっては抽選制になっている青色のナンバープレートを獲得しないといけません。なので、一般のユーザーが新車を買う際は、グリーンナンバーのEVを購入することが主流になっています。それに、都市によっては通行制限があって、ブルーナンバーのガソリン車の場合、一週間に1日、車に乗れない日もあります。

ーー では、ガソリン車を購入するのは、おもに富裕層なのですか?

美慧さん:ドイツ車などの特別なガソリン車をどうしても欲しいというこだわり派の層です。BMWとかレクサスなどの高級車に乗っていることが多い印象ですね。ウーバータクシーなどで、指定なしでタクシーを呼ぶとほぼ100%、EVのタクシーが来ます。高額なビジネスクラスのタクシーを呼ぶと、時々ガソリン車のタクシーが来ることもあるというイメージですね。

ーー そんな中国で、多く走っているEVはどのメーカーでしょう?

美慧さん:走っているのはほとんどが中国のメーカーですね。手頃に乗れるEVとして普及しているBYDをはじめ、リ・オート、NIOなどのEVが多いです。他にはファーウェイやジーリーのEVも人気ですね。

手頃に乗れるEVが人気のBYD
手頃な価格で乗れるEVが人気のBYD

中国でのシャオミのブランドイメージ

ーー 中国におけるシャオミのブランドイメージはどうですか?

美慧さん:シャオミはショッピングモールなどで展開しているシャオミストアでスマートフォンや家電などの販売をしている会社です。日本でも販売されたライカと共同で開発したスマートフォンの「Xiaomi 14 Ultra」などの高級な商品も現地では有名で、その技術は評価されています。ただ、携帯では1万円ぐらいの価格からの製品もあり、液晶テレビなどもとても安いものもあるので、どちらかというと誰でも買える庶民的なブランドというイメージが強いですね。なので、テスラに日頃乗っている私たちがSU7を購入したことを中国の友人に話したら「どうしてシャオミのEVなんて買ったの?」と驚く人もいました。

青山さんが購入したSU7 Maxには赤いリボンが
青山さんが購入したSU7 Maxには赤いリボンが

ーー でも、シャオミSU7の価格帯は、テスラモデル3とそこまで変わらないですよね。

哲さん:SU7にはスタンダードモデルとPro、MAXの3モデルがあって、価格はそれぞれ、21万5900人民元(約440万円)のスタンダード、24万5900人民元(約500万円)のPro、29万9900人民元(約610万円)のMaxの3つのグレードがあります。テスラのモデル3はロングレンジが27万1900人民元(約560万円)、パフォーマンスが33万5900元(約690万円)なので、Maxの価格帯はその2つのグレードの間ぐらいです。

3グレード展開のシャオミSU7
3グレード展開のシャオミSU7

ーー シャオミSU7の購入は4月にされたのですか?

美慧さん:4月末までに購入すると特別なオプションが無料でついていたので、その期間にインターネットで注文をしました。

ーー どのような無料オプションがついてきたのですか。

哲さん:後部座席についている冷蔵庫、ホイール20インチ(普通は19インチ)、ナパレザーの内装がついてきました。冷蔵庫は後部座席の前に設置されていてコーラの缶6本が入る容量、2度から50度まで設定できます。あと、FSD(フルセルフドライブ)が無料でついてきました。

無料オプションで付いてきた後部座席の冷蔵庫
期間限定の無料オプションでついてきた冷蔵庫

乗り心地と性能が抜群のシャオミSU7

ーー 最初にシャオミを購入しようと考えた理由を教えてください。

美慧さん:以前から興味はあったので発表会をインターネットで見たのですが、そこで感じた印象が「全てがテスラより優れているなあ。早く日本にも来ないかなぁ」でした。中国は、アメリカみたいに新しい何かを発明するというよりは、どこかで作られたものをコピーして、それをさらに良くしていくのが得意な国だと思っています。だから、シャオミのSU7もテスラのいいところを全部コピーして、その上でユーザーの気持ちになってオプションなどを追加していったという印象です。

ーー 購入する前に試乗はされましたか?

美慧さん:義父と一緒に4月に試乗をしました。人気が凄すぎて10分ぐらいしか乗れない状況だったのですが、内装も少しシンプルすぎて寂しいテスラのモデル3と違って、シートのデザインもステッチがあるなど凝っていいてシンプルな中にも高級感があり良かったです。父もセダンが好きなので喜んでいました。

SU7をプレゼントした哲さんの父親との記念撮影
SU7をプレゼントした哲さんの父親との記念撮影

ーー 今回、実際に所有してみて、乗り心地はいかがでしたか?

美慧さん:SU7 Maxは、エアサスがあったり、カーブを曲がるときにシートのエアーが自動的に腰をサポートしてくれたりと、見た目も乗り心地もいかにもスポーツカーを所有しているという感じが楽しめて良いです。それにSU7 MAXは0-100kmが2.78秒なので、加速は、以前乗っていた同じセダンのモデル3ロングレンジ※2とは比較になりませんでした。アクセルを踏んだ瞬間に凄い加速で驚きましたね。

※2:モデル3の0-100kmの加速は、RWD 6.1秒、ロングレンジAWD 4.4秒、パフォーマンスが3.1秒。シャオミSU7はスタンダード 5.28秒、Pro 5.70秒、Max 2.78秒。

ステッチでデザインされた高級感あるシートには納車記念の花束が
高級感あるシートには納車記念の花束が

ーー 充電能力やバッテリーに関してはいかがですか?

美慧さん:Maxはバッテリーの容量が101kWで航続距離は800km※3となっています。実際に中国で走った印象だと満充電で600km走れる感じですね。中国の高速道路は120km/hまでスピードを出していいので、スピードを出して電気を消耗している中でそれぐらい走れたということは、100km/hまでしか出せない日本の高速道路※4だともっと長い距離を走れると思います。テスラのモデル3ロングレンジよりはかなり長く走れた印象です。

※3:シャオミのSU7の航続距離(CLTC)は、スタンダード 700km、Pro 830km、Max 800km、テスラモデル3の航続距離(CLTC)はRWDが18インチホイール606km、19インチホイール567km、ロングレンジAWDは18インチホイール713km、19インチホイール682km、パフォーマンスは18インチホイール713km、19インチホイール682km。

※4:日本では速度指定のない高速道路での法定最高速度は100km/hで法定最低速度は50km/h。中国の法定最高速度は120km/h。

哲さん:EV化が進んでいる中国ではレストランの駐車場など、大体の駐車場に7-8台ぐらいの200〜400kWの急速充電器が設置されています。シャオミのMaxだと公共の急速充電器を使うと15分で510kWぐらいは充電できました。テスラのスーパーチャージャーの場合15分で250kWぐらいですから、かなり早く充電ができた印象でした。あと、シャオミにはV2H(Vehicle to Home:車から家に電力を供給する機能)がついています。

中国ではEV充電環境が充実
中国ではEV充電環境が充実

テスラになくてシャオミにあるもの 

ーー テスラになくてシャオミに追加されたユーザー目線の機能とはどのようなものがあるのですか?

美慧さん:まず、収納スペースがテスラより多くたっぷり設置されています。グローブボックスには15インチのノートパソコンが入りますし、ドアのところに折り畳み傘専用置き場があります。それと、HUD(ヘッドアップディスプレイ)がついていてナビとスピードが出ます。また、小愛(シャオミ版のSiriのような機能)へのボイスコマンド用のマイクが設置されていて、SU7は、どこの席から呼ばれているかを認識してくれます。例えば、後部座席の右側の人が「ハイシャオミ、ヒートシーターをつけて」というとその座席のヒートシーターだけをつけてくれるんです。

ーー 運転手だけでなく同乗者にも配慮をしているのですね。

美慧さん:はい、運転席の横にスピーカーがあってナビゲーションからのインフォメーションアナウンスが運転席だけに聞こえるようになっているんです。テスラのように、そのアナウンスのために車内の音楽のボリュームが下がって中断されるようなことはありませんね。

SU7 Maxの航続距離は800km
SU7 Maxの航続距離は800km、実際には600km程度走れる印象

シャオミSU7は自動運転機能も凄い

ーー シャオミの自動運転機能に関してはいかがですか?

哲さん:シャオミにはテスラのオートパイロットのようなシャオミパイロットという機能がついています。また、FSDのようなNoA(Navigator on Autopilot)と呼ばれる機能があり、それをオンにしてナビ上で目的地を設定すると、高速道路等の自動走行可能な範囲に入るとハンドルに手を触れているだけで、EVの自己判断でレーンキープや前の車の追い越し、車線変更をしてくれて、高速の出口が近くなると自動的に出口に近づき高速を降りてくれます。

ーー テスラのオートパイロットより機能は高いのですね。

美慧さん:このNoAは、深セン、上海、広州、北京などでは高速以外の一般道でも使えるようになっていて、スタートから目的地まで自動運転で連れて行ってくれるそうです。シャオミだけでなく他のメーカーも含めて中国の自動運転は進んでいます。深センの市街地でタクシーに乗った際、その時は実験運転だったので人はまだ乗っていましたが、人の介入なしで問題なく目的地まで着きました。

シャオミに搭載された自動運転のNoAは、中国の一部の都市では一般道でも使用可能
シャオミに搭載された自動運転のNoAは、中国の一部の都市では一般道でも使用可能

ーー 自動運転も中国ではテスラより先を行っているのですね。

美慧さん:シャオミの自動運転に関しては土地柄を反映した機能もありました。中国では別の車の割り込みが本当に多くて、前との車間距離が開きすぎているとすぐに他の車が入ってきてしまいます。NoAでは、そんな交通環境を考慮して前の車とは5メートルまでしか間隔を開けないよう設定されています。また、中国ではウインカーを出しても隣のレーンの車は譲ってくれません。そうなると車線変更ができなくなるので、シャオミは、ウインカーを出す前に車線変更ができるかを判断してからウインカーを出すと同時に車線変更をします。運転が難しい中国の道路でもそうやってスムーズに車線変更をしてくれて凄いと思いました。

ーー シャオミパイロットの運転技術はテスラのオートパイロットと比べてどうですか?

美慧さん:現時点での運転技術ではテスラのオートパイロットの方が上ですね。初期のテスラはカーブを曲がるのはあまり得意ではなかったですが、アップデートによって、現在は70-80km/hぐらいのスピードでカーブに入ってもスムーズに減速をしてくれて滑らかにカーブを曲がってくれます。SU7は、以前のテスラのように、カーブを曲がる時はまだガクガクガクって感じです。でもこれもテスラの時のようにアップデートによって解消されていくのかなと思っています。

中国版のGoogle、高徳地図が採用されたナビには信号待ちの時間も表示。またシャオミは青信号に変わる3秒前にボイスで教えてくれる
中国版のGoogle、高徳地図が採用されたナビには信号待ちの時間も表示。またシャオミでは青信号に変わる3秒前にボイスで教えてくれる

ーー その他の機能に関してはいかがですか?

美慧さん:自動駐車に関してはシャオミの方が明らかに性能は上で、精度が高くて正確です。普通に人間が運転するのと変わらないスピードで、ほぼ一回で駐車してくれます。例えば駐車場の突き当たりのスペースのように駐めるのが難しいところだと、自分の判断で一度駐車場から外に出てバックで入って駐車してくれます。テスラの自動駐車だと何度も切り返してやっと駐車できるという感じで、日常ではほとんど使えませんが、中国で一週間ぐらいSU7を運転していて、自分で駐車したのは一回だけでしたね。

ーー そんなに自動駐車の精度が高いのですね。

美慧さん:シャオミの自動駐車の機能には驚かされました。中国ではマンションの駐車場が広くて駐車場に入ってから自分のスペースまで4〜5回カーブを曲がらないといけないところもあるのですが、入り口から自分の駐車スペースまでの行程を一度学習させると、それ以降は入り口から駐車スペースに入れるまでの運転を全て自動でスムーズにこなしてくれます。

スムーズに駐車スペースに入れてくれるシャオミの自動駐車機能
スムーズに駐車スペースに入れてくれるシャオミの自動駐車機能

テスラがシャオミに優っているものとは?

ーー お二人のお話を聞いていると、シャオミのSU7はテスラモデル3よりほぼ全ての面で優っているという印象ですね。逆に、テスラの方がシャオミに優っている点はありますか?

美慧さん:そうですね。ブランド力とイーロン・マスクがいるということじゃないですかね(笑)。中国でも初期の頃にテスラのモデルSやモデルXに乗っていた友人はイーロン・マスクに注目して、投資をしている人が多かったです。その後、モデル3が出てからは、「BYDよりはモデル3の方がいいね」といって買っていた人が多かった。でも、中国のメーカーから質の良いEVが出てきている今、中国の人々にとってテスラの魅力は下がってきている印象があります。リ・オートやNIOなどがとても性能の良いEVを出していきているので、「あえてテスラを買う理由はなくなってきた」という話をよく聞きます。

中国では、シャオミのような高性能なEVの選択肢が増えている
中国では、シャオミのように高性能でコストパフォーマンスの良いEVの選択肢も多い

ーー 日本で生活するテスラーとしては、その意見をどのように思いますか?

美慧さん:私たちは日本国内の充電環境では、スーパーチャージャーがないと不便なので、やはりテスラは一台持っておきたいと思いますね。でも、自分が中国で生活をすることを想像してみたら、「別にテスラじゃなくてもいいかも」とも感じ始めています。中国の充電環境は、テスラのスーパーチャージャーよりも整備されているし、シャオミSU7だけじゃなくても、他にもコスパが良くて性能が高い中国メーカーのEVは色々とありますから。

 今回、取材を受けていただいたシャオミSU7を中国で実際に購入した青山夫妻は、日本でテスラ愛に満ちた生活を送る根っからのテスラーなのです。しかし、そんなお二人から「中国で生活するならテスラじゃなくても良いかも」という驚きの感想もありました。これが実際にシャオミSU7の性能の高さや中国の充実した充電環境を体験した上での意見であるということを考えると、とても興味深いインタビューとなりました。

写真提供:青山美慧さん

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