政治的立場によって違うEVに対するイメージ
2025年2月4日、アメリカの調査会社EVポリティクス社とヒルリサーチコンサルタントは、アメリカ大統領選挙の直後の2024年11月に実施した、全米のEV購買者層でもある世帯年収5万ドル以上の有権者600人を対象とした消費者調査に関するレポートを発表しました。調査では、米国最大のEVメーカーであるテスラへの購買者の消費意識が、CEOのイーロン・マスク氏の政治的立場によって変化していることが判明しました。
米国においてEVに対する考え方は支持政党によって違いがあり、共和党支持者はEVに否定的、民主党支持者は肯定的とされてきました。今回の調査においても、EVについて、共和党支持者は肯定的が15%、否定的が48%、民主党支持者は肯定的が40%で否定的が13%となっています。また、EVの購入意向についても、すぐに購入したい層は民主党支持者が27%と共和党支持者の15%よりも多く、購入しない層では共和党支持者が44%と、民主党支持者の21%を上回っています。
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2024年11月のアメリカ大統領選挙において、共和党のトランプ政権へ明確な支持を表明したことにより、イーロン・マスク氏個人に対する評価も、政治的な立場によって大きく異なるようになりました。調査では、共和党支持者の間での支持率が2023年11月の35%から2024年同月で70%へと倍増した一方、好意的でないとの回答は19%から10%に減っています。また、もともと人気がなかった民主党支持者の間では、好意的との回答が10%から6%へと低下しただけでなく、好意的でないが46%から76%に大幅にアップしました。
そして同調査においては、「気候変動は現実であり、EVはその一助となると思うか?」の質問に対して、イーロン・マスク氏に好感を持っている人は65%が反対、賛成は23%となっていて、氏に好意的でない層では55%が賛成で16%が反対となっており、気候変動に対するEVの価値の評価とイーロン・マスク氏の評価が反比例する形となっています。
イーロン・マスクの政治的立場でテスラの購入を敬遠
注目すべきは、この変化が単なる政治的な好き嫌いを超えて、実際のEVの購買行動にまで影響を及ぼしている可能性についてです。
EVメーカーとして最も重要である「今後1年以内にEVの購入を検討している」(全体の20%)という実購入予定者層による各ブランドのイメージでは、テスラの好感度:非好感度は63%:37%と、フォード(76%:24%)、VW(73%:23%)、トヨタ(94%:6%)と比較して厳しい評価となりました。
また同調査によると、マスクへの支持層は従来のEV所有者(支持率−7%)よりも、ガソリン車所有者(支持率+5%)の間で高くなっており、特にピックアップトラック所有者からは+18%と高い支持を得ています。
「イーロン・マスクはEVの良い代表者(アンバサダー)か?」との質問については、共和党支持者は82%が賛成と答えているのに対して、民主党支持者の82%は反対と答えています。また、「気候変動は深刻」と答えた層の66%が同じ質問で反対し、「EVは左派向けのものだ」と答えた層の74%は賛成と答えイーロン・マスク氏のEVへの貢献を評価しました。
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そして、同調査では、EV市場の消費者を3つのセグメントに分類して分析しています。「積極的EV購入層」(20%)、「EVスイング層」(45%)、「EV否定層」(34%)です。「積極的EV購入層」では、テスラへの評価が急速に低下している一方、「EVスイング層」では政治的な立場による評価の差は比較的小さく、実用的な判断基準が重視されています。「EV否定層」では、マスクへの支持は高いものの、EV自体への関心は依然として低い状態が続いています。
このように実際のEV購入層のテスラ離れの傾向が、イーロン・マスク氏の政治的立場の影響を受けている可能性を同調査は示しています。
イーロン・マスクがEV嫌いを振り向かせる可能性
ただ、EVポリティクス社は「イーロン・マスク氏がEV嫌いの共和党支持者層をEVに振り向かせることができれば、市場に大きなインパクトを与えることができる」とも指摘します。なぜなら、同社が2023年末に行った調査によると、EVを購入、もしくはリースしている共和党員は、民主党員の5分の1しかなく、そこには大きな潜在マーケットがあるからです。
実際に、2023年11月の大統領選挙前に「EVは私とは異なる世界観の人のためのものだ」との質問に59%(賛成)対41%(反対)だった共和党員は、2024年11月の大統領選挙後の同じ質問に43%(賛成)対38%(反対)となっていて、14%改善しています。
同調査レポートでは「EV普及の鍵は、共和党員により多くのEVを売ることだ。イーロンはこのミッションに貢献する知見とツールを有しているが、ドナルド・トランプがいまだに激しいEV批判者であることから、その可能性は低いと思われる。それでも、共和党員はEVの受け入れ拡大に向かいつつあり、イーロンのMAGA(トランプ大統領の”アメリカ合衆国を再び偉大な国へ”というスローガン)への旅がその一助となった可能性はある。しかし一方で、共和党員以外の消費者の間では、イーロン主導によるテスラ逆風問題が明らかに拡大している」との見解を示しています。
米国以外でのテスラへの影響
現在、米国だけでなく、英国とドイツの極右政党への支持表明などのイーロン・マスク氏の政治的発言は、テスラの売上に影響を与えているようです。
ロイター通信の報道によると、EVのレビューサイト「Electrifying.com」が1月下旬に実施した調査では、英国人のEV所有者と購入予定者の59%がマスク氏の影響力がテスラ車の購入を思いとどまらせると回答しています。
また、ニュー・オートモーティブが2月4日に公表したデータでは、1月の英国でのEV登録台数が記録的な伸びとなっている一方、テスラの販売台数は、約12%減少。その他の欧州の国々でも、フランス63%、スウェーデン44%、ノルウェー38%、オランダ42%と減少しています。
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