MSIコンピュータージャパンRicky Chiang社長に聞くEV業界参入について
台湾に本社を置くMSIコンピュータージャパン(以下、MSI)が、2025年7月31日より個人宅向けEV充電器「EV Life」を発売しました。ゲーミングノートPCやグラフィックカードで日本国内でも販売台数1位を誇るMSIが、なぜEV業界に参入することになったのでしょうか。その背景について、同社社長のRicky Chiang(江 富盛)氏に伺います。

台湾・輔仁大学で経済学を専攻。同大学卒業後、台湾で3C(コンピューター、通信、家電)製品の販路開拓に約5年間携わり、その後、携帯通信メーカーや周辺機器代理店で開発マネジャーを経て、中国・広東省で家電製品のODM業務に約3年間従事。2014年にMSIに入社し、2017年に日本法人へ赴任。2019年より現職。
MSIコンピュータージャパンが、ゲーミング分野でトップに君臨する理由
――まず、MSIコンピュータージャパンについて教えてください。
Ricky Chiang社長(以下 Ricky) MSIは、1986年にマザーボードやグラフィックカードといったPCパーツを製造するメーカーとして台湾で創業しました。OEMやODMを中心に事業を展開し、日本法人を設立したのは1999年です。当初はNECからの受託生産などを手がけていました。その後、2006年に本社が世界初のゲーミングノートPCを発表し、それを機に2010年頃からゲーミング分野に本格参入、製品ラインナップを拡充してきました。
――振り返ると、MSIはゲーミング分野への参入が早かったですよね。
Ricky そうですね。参入した当時はまだ「ゲーミングPC」という概念自体が確立されていませんでしたから。
――その後、ノートPCだけでなく、グラフィックカード、マザーボード、ゲーミングデスクトップ、モニターと、製品ラインナップを順調に拡充されました。現在の市場での評価はいかがですか。

Ricky おかげさまで、MSIのゲーミングノートPCは2018年、2019年2年連続日本国内で販売台数1位を記録し、2024年も22%のトップシェアを維持しています。また、グラフィックカードも2019年~2024年まで6年連続で販売台数1位を記録しており、市場から高い評価をいただいています。
――MSIがゲーミング分野でこれほどの成功を収めた最大の理由は何でしょうか。
Ricky 技術面では、当社独自の「冷却設計技術」が最大の強みです。ゲーミング製品は高い処理性能が求められますが、温度が上がりすぎると性能が低下してしまいます。GPU性能を最大限引き出すために冷却設計は不可欠で、この技術こそMSIが誇れる差別化要因です。
もう一つの強みは、設計から開発、製造、品質管理まで自社で一貫して行っていることです。MSIは台湾で唯一自社工場を持つPCメーカーとして、ユーザーや市場のニーズに迅速に対応できる体制を整えています。こうした安定性と使いやすさが評価され、最近はゲームファンやプロゲーマーはもちろん、映像クリエイターからも厚い支持をいただいています。

PCメーカーとして名を馳せたMSIは、なぜEV業界に参入したのか?
――ゲーミングPCの雄として君臨してきたMSIが、今夏EV分野に参入するというのは、市場にとっても大きな驚きだったと思います。どのような背景があったのでしょうか。
Ricky 脱炭素社会の実現が世界的な課題となり、新エネルギーへの転換が加速しています。当社も上場企業として、以前から技術力を活かした社会貢献を目指していました。特にEV産業は急成長を遂げており、大きなビジネスチャンスでもあります。
一般の方にはPCメーカーという印象が強いMSIですが、実はスマートシティ分野、すなわち都市インフラのデジタル化にも以前から取り組んでいます。AIoT事業(AI技術を活用したIoT事業)として、産業用PCやサーバー、監視システムなど、社会インフラに関わる製品を幅広く手がけています。
長年培ってきた電源制御技術や制御システム開発の経験、そしてハードウェアからソフトウェアまで一貫開発できる体制。こうした技術基盤があるからこそ、「スマート充電」を入り口としてEV充電器市場への参入を決断しました。

――EV充電器市場への参入を検討し始めたのはいつ頃ですか。
Ricky 2023年です。
――異なる分野への新規参入で、企画から製品化まで2年というのは驚異的なスピードではないですか。
Ricky そうかもしれません。ただ、台湾本社には新事業開発チームがあり、経験豊富なエンジニアがそろっていますし、当社は設計・開発・製造・品質管理までを一貫して自社で担っています。各工程で情報を密に連携できますから、試作から量産までのリードタイムを圧倒的に短縮できるんです。現在も、台湾本社や自社工場に当社のEV充電器「EV Life」を設置し、社員に無料で使ってもらいながら常時フィードバックを収集し、改良を重ねています。
MSIのEV充電器「EV Life」とは?
徹底した「ユーザー目線設計」の成果
――今回、日本で発売される「EV Life」は家庭用向けAC普通充電器です。見た目のデザインもさることながら、仕様もとてもシンプルですね。
Ricky はい。PC同様に、MSIが最も重要視するポイントは「ユーザー目線の設計」です。この「EV Life」でも「シンプルであること」には非常にこだわりました。
実用面では、誰もが直感的に使えることに注力しました。5mのType1ケーブルを標準装備し、EVに差し込むだけで自動的に充電がスタートします。また、アプリもBluetooth接続により、スマートで柔軟な充電管理を可能にしました。

ハードウェアからファームウェア・ソフトウェアに至るまで自社一貫体制の強みは、まさにこうした点に発揮されます。製品全体の各構成要素で高い整合性と安定したパフォーマンスを維持することができるんです。
もちろん、防塵・防水性能に関してはIP55、耐衝撃性能もIK08という国際規格をクリアしていますので、マイナス30℃から50℃の環境下でも安定稼働します。業界初となる標高3000mまでの動作対応も実現しています。
――無駄をそぎ落としたシンプルなデザインもかっこいいですよね。プラグインすると、水色に光るLEDライトもどこかゲーミングPCを思わせます。
Ricky ありがとうございます。デザイン面では、リュックサイズのコンパクトさと、凹凸のないシンプルなフォルム、鏡面仕上げのブラックを採用しました。

――台湾では、先行して2024年の第1四半期に発売されていますが、実際にユーザーさんからはどんな声が届いていますか。
Ricky 「使いやすい」「デザインがかっこいい」「シンプルでコンパクトだから、取り付けやすい」といったお声が多くありました。また、何よりうれしかったのは「MSIらしい安心感がある」といった品質に対する当社への信頼の声が寄せられたことです。開発チームにとっても大きな励みになりました。
――アフターサービスも気になるところです。どのような体制を整えられていますか。
Ricky 日本市場では、導入後のサポート体制も重要視されますので、万全に整えています。専用の日本語カスタマーサポート窓口を設置し、OTA更新(インターネット経由でソフトウェアを遠隔から自動的にアップデートできる技術)を行うほか、日本国内の設置業者さんや技術サポート会社さんとともに、さまざまな要望に迅速対応できるパートナー体制を築いています。
「EV Life」、満を持して日本市場へ
エンドユーザーからブランド周知を図る
――日本市場での販路はどのように展開されますか。
Ricky 3つの販路を考えています。まず家電量販店での一般展開、次に自動車メーカーとのコラボレーション、3つめが太陽光発電や蓄電システムを扱う企業さんとの連携です。自動車メーカーとのコラボについては、すでに2社の採用が決まっています。
また、今回の家庭用「EV Life」は、主に郊外の戸建て住宅をターゲットとしています。現在、日本では補助金制度があり、かなりお得に導入できますので、お客さまにとっても非常に良い機会になるのではないかと考えています。

――台湾では、集合住宅や商業施設向けのDC急速充電器も導入しています。販売状況はいかがですか。
Ricky 想定以上に順調に推移しています。台湾では、EV化がかなり進んでいて、新築の集合住宅ではEV用駐車場の確保が義務化されていますし、商業施設でも一定の比率でEV用駐車場の設置が求められています。
さらに、MSIは台湾で製造し、サーバーも台湾に設置しているので、「Made in Taiwan」という点で高く評価され、優遇される傾向もあります。

――将来的には、日本市場でもDC充電器の展開を考えているのでしょうか。
Ricky はい。来年2026年以降にDC急速充電機やモバイル型充電器をリリースしていきたいと考えています。ただ、日本の商業施設や大型駐車場などに導入するには、決済機能やサーバーの設置などハイレベルなセキュリティを構築しなければいけない上に、さまざまな認証の取得も必要で、もう少し時間が必要です。
もともと、MSIは個人向けビジネスを得意としているところもありますから、まずは戸建て住宅向けのAC充電器で、「EV Life」のブランド周知を図っていきたいと思っています。
日本のEVインフラ市場のポテンシャルは?
MSIファンに願うこと
――日本市場に対しては、どのような期待感をお持ちですか。
Ricky 現在はEV普及率が低いですが、日本にはアメリカ、中国に続く世界第3位の自動車市場があります。このポテンシャルは、非常に大きいと捉えています。また、カーボンニュートラル政策の推進、補助制度の拡充、そして日常生活における充電需要の高まりなどによって、今後EV産業は急速に成長するだろうと確信しています。
日本のお客さまは、安全性や品質に対する要求が非常に高い分、一度信頼を得られれば長く愛用していただけます。MSIの安全性とシンプルさを重視した製品づくりは、日本市場にマッチしていると思いますし、MSIにとっても非常に魅力的な市場です。

――最後に日本のユーザーさんへメッセージをお願いします。
Ricky「MSIはPCメーカーなのに、なぜEV充電器?」と思われる方も多いと思います。でも、MSIはIoTやAIoT製品なども幅広く手掛けていて、実はみなさんの日常生活において身近な存在です。
今回のEV充電器「EV Life」も、MSIの技術力を活かして社会貢献したいという願いのもと誕生しました。MSIにとって新しいチャレンジであることは確かですが、ゲーミングPC同様に、真剣に情熱を持って取り組んでいます。EVインフラの選択肢の一つとして、ぜひ当社の品質の高さを実感していただき、応援していただければと願っています。
(Text by Tomoko Kawahara、Photo by Saya Hayashi)
MSIのEV充電器「EV LIFE」
- 最大6kW(30A)の出力、単相200Vに対応
日常使用に十分な充電性能を確保
- 5mのType 1(SAE J1772)ケーブルを標準装備
EV車両に対応する国際規格を採用
- 差し込むだけで充電開始
認証や操作を省略でき、EVに差し込むだけで自動的に充電がスタート
- MSI独自開発アプリで簡単操作
Bluetooth接続により、スマホで充電スケジュールの設定、電流の調整、ステータス確認など、柔軟でスマートな充電管理が可能
- 安全性と耐久性に優れた設計
防塵・防水(IP55)、耐衝撃(IK08)設計で、-30℃〜50℃の環境下でも安定して稼働
- 柔軟な設置方式と高度対応
屋内・屋外を問わず設置可能。さらに、業界初となる標高3000mまでの動作にも対応

【EV LIFE 製品仕様】
| 製品名 | EV Life |
| 入力評価 | 単相 200VAC |
| 配線 | L(ライブ線), L2/N(中性線または第2ライブ線), GND(接地) |
| 充電電力 | 6kW |
| 充電電流 | 30A |
| ケーブルタイプ | Type 1 (SAE J1772) |
| ケーブル長さ | 5 m |
| サイズ | W 22.98 x H 35.48 x D 12.5 cm |
| 重量 | 6.5 kg |
| 認証 | PSE安全規格認証 IP55防水防塵 IK08耐衝撃保護 UL2594 / UL2231 / UL991 / UL1998 / FCC Part 15B / ICES-003 / IEC 61851-1 / IEC 61851-21-2 / EN301489 |
| ユーザーインターフェース | |
| ユーザー認証 | モバイルアプリ |
| 表示方式 | LEDライト |
| 緊急停止 | キノコ型押しボタン |
| 接続/保護機能 | |
| 接続方式 | Bluetooth |
| 漏電ブレーカー | IEC 認証済みの漏電ブレーカーの設置が必要 |
| ランダム起動遅延 | 停電後の充電再開時におけるランダムな遅延 |
| 上流ブレーカー | 現地の規制に従う |
| 電気保護 | 突波保護、接地故障、低電圧保護、過電圧保護、過電流保護、 制御パイロット保護 – 低電圧、過温度保護、リレー溶着検出、自動復帰充電 |
| 動作環境 | |
| 動作温度 | -30 – 50 ℃ |
| 冷却方式 | 自然冷却 |
| 防水防塵 | IP55, IK08;IP67(充電ガン) |
| 塩霧耐腐食性 | IEC60068-2-11, ASTM B117 |
| 湿度 | <95% 相対湿度、非結露 |
| 標高 | 3000メートルまで対応 |
| 設置方法 | 壁掛け/ ポール設置(オプション) |
| 電圧、電流、電力の表示誤差は±5% | |
EV LIFEに関するお問い合わせは公式サイトへ

