相次ぐ異常気象に、昨今、エネルギー資源大国であるはずの米国もたびたび電力不足に陥り、各地で計画停電や停電に直面しています。
その理由の一つは、太陽光、風力、水力といった再生可能エネルギーの電力供給量の割合が増えたこと。脱炭素社会の実現のためには欠かせない取り組みですが、気候条件に左右されがちな自然エネルギーの供給が、必ずしも電力需要量と一致するとは限りません。もう一つは、かねてからいわれている米国の老朽化した送電網で、その需要はますます増大しています。
そんな中、米国国立再生エネルギー研究所(NREL)は、深刻な電力不足を解決する切り札としてEVに大きな期待を寄せています。EVのバッテリーを電力会社の電力網に接続し、相互に利用する双方向充電機能「V2G(ビークル・トゥ・グリッド)」の技術によって、EVを電力需要量が急増した時の予備電源として活用するわけです。
現在、NRELとオランダのライデン大学環境科学研究所はチームを組み、V2Gの導入に向けて、さまざまなシミュレーションを行い、調査・分析を行っています。NRELでは、V2G導入の成否は、いかにEV所有者から賛同を得、彼らが市場に参加してくれるかだと見ていますが、同研究所でバッテリーの劣化に関する研究を行っているポール・ガスパー氏は、以下の3点からV2Gの普及を肯定的に捉えています。
1つは、EVのバッテリーに蓄電した余剰電力を電力会社に売電すれば利益を得ることができ、所有者は必然的にEVの所有コストを抑えられること。2つ目は、災害等の非常時にはEVから自宅に電力を供給でき、電力の「自給自足」を可能にしてくれること。3つ目は、EVの利用状況にもよりますが、運転する機会が少ない所有者にとっては、V2Gによる定期的な放電によってバッテリーを健全な状態に保ち、長持ちさせられること。ガスパー氏は、こうした利点がEV所有者の積極的な市場参加を促すと考えています。
現在、米国では小型車の新規販売のほとんどをEVにするという連邦政府のクリーンエネルギー政策により、2030年までに全米で3000万~4200万台のEVが普及するだろうと想定されています。この所有者たちがV2Gに参加すれば、大規模な蓄電ネットワークが構築でき、電力会社にとっては得難いエネルギー供給源となるだけでなく、供給の調整弁として活用できます。
もちろん、V2Gを最大限活用するためには、充電インフラの整備が喫緊の課題です。また現在、自動車メーカーによってバラバラな仕様となっているV2G部品の規格を統一させる必要もあります。さらに、売電した場合の電力会社の買取価格も標準化させる必要があるでしょう。まだまだ課題は山積みですが、それでも度重なる電力不足に悩む米国では、EVの「走る発電所」としての役割に大きな期待が寄せられています。
メインカットは米国の送電網のイメージ。以前から送電網の脆弱さが社会問題となっていたが、EVは救世主となり得るかもしれない(photo by Anton Petrus/Getty Images)