EVcafeで考える 第32回
by がす
消えていく主力級
モデルSとモデルXが今年の第2四半期でひっそり生産終了になりました。マスクは「名誉除隊」と表現していましたが、実態は販売比率3%未満まで落ちた非効率ラインを畳んだだけの話で、フリーモントの空いたスペースはオプティマスの量産ラインに転用される予定になっています。
サイバートラックはもっと露骨です。年25万台という当初目標に対して、今年1〜5月の米国登録台数は7133台でした。ブルームバーグはこれをフォードのエドセル、つまり自動車史上最大の失敗作の系譜に並べて語り始めています。
オプティマスの汎用ヒューマノイド化にしても、FSDの完全無人化にしても、実用化までにはまだ数年ぶんの計算資源と実地データが必要です。この「物理AIが利益の主役に躍り出るまでの空白期間」を支えるのは、結局のところハンドル付きの量産EVが生むキャッシュフローしかありません。だから今のテスラにとって、普通の車を売り続けることの重要性はむしろ過去最高に上がっています。
新型車で稼げる保証がない
じゃあ次の新型車で稼げるのかというと、そこも怪しいところです。2.5万ドル級の完全新設計モデル、いわゆるモデル2は結局出てきませんでした。蓋を開けてみると、モデル3とモデルYにそれぞれ数千ドル安い「スタンダード」グレードを追加しただけで、新プラットフォーム専用工場の話は静かに立ち消えています。
ロボタクシーも同じ調子です。商用開始から1年経った今の稼働台数は、オースティン・ダラス・ヒューストンを合わせて20台程度にとどまっています。Waymoの3000台という数字と並べると、まだ実証実験の延長にしか見えません。マイアミやオーランド、タンパへの展開も始まっていますが、桁が変わる気配はまだありません。

つまりモデル3とモデルYの二本柱以外、テスラの手持ちの新車カードはどれも本命になり切れていません。それでもテスラは第2四半期の納車で48万台を超え、前年比25%増、アナリスト予想の40万台を大きく上回りました。この数字を支えているのが3列シートのモデルYL、ホイールベースを150mm伸ばした派生車です。既存プラットフォームの引き伸ばしで数字を作れている間は問題が表面化しませんが、この綱渡りがいつまで続くのかというのが素朴な疑問でした。
サイバーキャブから生まれる第三の道
ここで考えたいのが、サイバーキャブのラインを、ハンドル付きの個人向け車に転用するという仮説です。突飛に聞こえますが、調べてみると根拠があります。
まず技術面です。サイバートラックで実用化したステア・バイ・ワイヤは、ハンドルとタイヤの間に金属シャフトを持ちません。操舵はすべて電気信号です。つまりハンドルユニットを取り付けるかどうかは、車体構造そのものを変えずに済むモジュールの差分に過ぎません。サイバーキャブの製造ラインに、ハンドル付き仕様を混流させることは物理的には十分成立します。
次に規模の問題です。サイバーキャブが採用する「アンボックスド・プロセス」は、車体を複数モジュールに分けて並行組立し最後に合体させる次世代の量産手法です。ロボタクシー用途だけで年間数万台規模にとどまるなら、この設備投資は重い固定費のまま残り続けます。個人向け派生車を同じラインに乗せて年間100万台級まで台数を稼げれば、投資回収の絵が初めて成立します。

実際、投資ファンドThe Future Fundのゲイリー・ブラックは今年3月の時点で、規制と安全面のハードルからサイバーキャブがハンドル・ペダルを選択装備するモデルへ転換し、4人乗り化まで起こりうると指摘していました。素人考えで組み立てた仮説とほぼ同じ絵を、業界を追っているアナリストがすでに口にしていたことになります。先を越されていたのは悔しいところですが、逆に言えば筋が悪い仮説ではなかったということでもあります。
答えはミニバンにある
残る論点は車格です。サイバーキャブは2人乗り・バタフライドアという割り切った設計になっています。これをそのまま個人向けにするのか、それとも延長してもう少し実用的なボディに仕立て直すのか。中途半端なクロスオーバーにすればモデルYと確実に潰し合うので、ここは中途半端を避けたほうがよさそうです。個人的に面白いと思っているのは、ハッチバックではなくミニバンに振り切る案です。
モデルYはクーペライクなリアの造形を優先した結果、3列目が犠牲になっています。ここが弱点として残っているところに、Zeekr 009やLi Auto MEGAのような大型EVミニバンが中国で売れまくっているのを見せられると、テスラだけがこの市場に手ぶらで立っている構図が浮かび上がります。サイバーキャブのアンボックスド・プロセスはフラットなスケートボード型シャシーが基本になっていて、その上に背の高い箱型キャビンを載せる構造とは相性がいいところです。全高を稼いだミニバンなら、モデルYの下位互換ではなく、モデルYが取れなかった多人数輸送のニーズをそのまま丸ごと持っていけます。

ここが一番テンションの上がるところで、この箱型キャビンは個人所有のミニバンとしてだけでなく、複数人を乗せるロボタクシーの上位互換、つまりロボバンとしてもそのまま流用できる形になっています。無人で走る多人数輸送車と、ハンドル付きで家族を乗せるミニバンが、同じシャシーから生まれる兄弟車として並びます。サイバーキャブが象徴してきた「ハンドルのない未来」の隣に、その未来の技術をそのまま買える家族向けの車が並ぶことになります。マスクが公の場でこの形を認める日が来るのかは分かりませんが、ステア・バイ・ワイヤという技術とアンボックスド・プロセスの生産構造を見比べる限り、遠くない未来にありえる話だと思っています。

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

