EVcafeで考える 第31回
by がす
こんにちは、がすです。
決算翌日にテスラ株が14%以上落ちましたね。売上は282億ドルで前年同期比25%増。EPSは0.33ドルで予想未達、フリーキャッシュフローは11億ドルのマイナス、設備投資は今年250億ドル超の見込み。数字の並びとしては「投資期の痛み」で説明がつきます。株を落としたのはそこじゃない。ロボタクシーの話です。
一年前のイーロン・マスクは、2025年末までに米国人口の半分がロボタクシーを使えるようになると言っていました。今回の説明会では、経営陣が自分の口で「都市ごとの個別対応が必要だ」と認めました。車両エンジニアリング担当のラース・モラビー氏の言い分が印象的で、連邦の統一枠組みが存在しないので交通の規制環境は都市ごと州ごとに違う、だから一都市ずつ要件を満たしに行くしかない、と。CFOのバイバブ・タネジャ氏も「ソフトウェアだけでなく運営面で解決すべき課題がある」と言いました。
その二日前に、スターリンクV5がサイバーキャブに直接統合されたという発表が出ています。発表の中身はXの投稿二つと断面図だけ。理由の説明はゼロ。Electrekのフレッド・ランバート氏が公開で「なぜ?」と聞いていて、それに対する回答もありませんでした。

引っかかるのはここです。FSDはカメラと車載コンピュータで完結している。テスラのAI担当副社長アショク・エラスワミ氏は今回も、ライダーもレーダーもHDマップも要らない、無人走行38万マイルで重大インシデントはゼロ、これがテスラのAIアプローチの正当性の証明だと胸を張りました。つまり、走行に通信は要らない。要らないものを、なぜ載せるのか。

マスクの説明は「走行」の話をしていない
決算説明会でウォルター・ピーチック氏がスターリンクについて聞いたとき、マスク氏の答えはこうでした。ロボタクシーは至るところをカバーする必要がある、シリコンバレーでさえセルラーが酷いか存在しない場所が多い、自分も通勤の最初の10分〜15分は電波が悪くて通話ができない、ロボタクシーを通信の「バミューダトライアングル」で行方不明にはできない。それと、乗客が車内で4Kのライブスポーツを見られる、セルラーでは成立しないギガバイト単価で。
読み直してほしいのですが、この説明のどこにも「運転が上手くなる」という話は出てきません。行方不明にしない、車内で映画を見る。つまり全部、走行の外側の話です。
私はここを、テスラが実際に無人運行を始めたことによって初めて見えた壁だと読んでいます。走行AIは汎用化した。汎用化しなかったのは運行のほうだった。
運行というのは、乗客が車内で気分が悪くなって嘔吐した時に誰が対応するのか、工事の誘導員が手信号で止めた時に誰が「反対車線に出てもいい」と許可を出すのか、駐車場のゲートで詰まった車を誰が助けに行くのか、事故が起きた時に警察と何分で話せるのか、という部分です。ここは知覚の問題ではないので、FSDのバージョンを上げても一ミリも解決しません。そしてFSDが良くなるほど、残った難所が全部この層に集まる。
同じ電話会議の中に矛盾が入っている
面白いのは、今回のコールの中に噛み合わない二つの発言が同居していることです。
エラスワミ氏は、新都市への展開にかかる手間は相対的に小さく、立ち上げ時間はゼロに向かって減っていく、いずれ都市ごとではなく州単位で運行することになる、と言いました。モラビー氏は、連邦の枠組みがないので都市ごと州ごとに要件が違い、だから一都市ずつ潰していく、と言いました。
どちらも嘘ではないと思います。そして両方が本当だとすると、ボトルネックの位置が一点に特定できる。ソフトウェアの汎化能力ではなく、管轄と運行のほうです。スタックは汎用でも、許認可は汎用にならない。
そのうえで今回いちばん重かったのは、アナリストのアンドリュー・パーコーコ氏の質問です。州レベルでセンサー要件をめぐる規制が動いているようだが、と。モラビー氏の答えは、連邦のFMVSS側は進展していてNHTSAには感謝している、ただ州単位になると、ニュージャージーの件は少し残念だ、というものでした。良い規制は目標を示して解き方は企業に任せるもので、問題の特定より先に解決策を指定してくる規制は困る、とも言っています。
これが本音の核だと思っています。センサー要件が州法に書き込まれた場合、カメラのみの構成はソフトウェア改善では突破できない。ニューラルネットは法律を最適化できません。テスラの最大の武器である「どこでも動く汎用スタック」は、規制の断片化に対してレバレッジがゼロなんです。「全米一気に」ロボタクシー普及へ、が死んだ場所はここだと見ています。

スターリンクは「地上に人を置かないための装備」
Waymoのやり方は逆向きです。複数キャリアのSIMを積んで冗長化し、都市の電波強度を事前に測って弱いエリアを配車ルートから外し、通信が切れたら車載側で最小リスク操縦を発動して路肩に寄せ、それでも動けない車には人間が乗ったチェイスカーが現地に走る。地上に人とインフラを泥臭く敷き詰めることで運行層を埋めています。
テスラはこの都市ごとの地上投資を嫌ってきました。だから運行層を車両側のハードウェアに寄せる。私はスターリンク搭載をこう読んでいます。都市ごとに人を置かないための装備。ここは推論です。
正直に書くと、この装備は今日の問題を解きません。衛星は都市の谷間もトンネルも立体駐車場も救わない。そして車がスタックするのはまさに上空が見えない場所です。今の運行エリアであるオースティン、ヒューストン、ダラス、マイアミ郊外はセルラーが十分に強い地域で、Electrekはそこを突いて「車が持っていない問題を解いている」と書きました。
つまりこの搭載は、将来の足跡のために先に付けている。それは同時に、当面ジオフェンスの外へは出ないという自白でもあります。
もうひとつ、ピーチック氏はサイバーキャブがスターリンクモバイルの地上ホットスポットになれるかと聞いていて、マスク氏は面白い角度だと認めました。車内のスターリンク端末を一種の基地局として使い、地上のスマホやWi-Fiに中継する構想です。車両群が通信インフラの一部になる。テスラとスペースXの統合観測と一直線に並びます。Electrekが推している「マスクが自社間で仕事を回している」という読み筋も、たぶん同時に正しい。

数字で検算してみる
有料利用の累計走行距離は250万マイル、うち無人が38万マイル。Waymoは2025年3月末までに自動運転で2億2000万マイル超。単純比で約580分の1です。
ただ、テスラ側は週次の無人走行マイルが二桁成長を続けていると主張しています。仮に週10%を維持できるなら、580倍まで約67週。1年3カ月です。Waymoも止まらないので追いつく計算にはなりませんが、「指数関数の初期段階だから外部からは理解しづらい」という言い分は、数字を入れると完全な誇張ではありません。台数が数十台のままな理由も具体的に説明されました。サイバーキャブは新しいシャシーなので専用の走行データを溜め直す必要があり、いまはステアリングとペダルを付けた機体でキャリブレーションしている、と。
生成の質より、運用が終わらない
この構造、AI動画の現場にいると身に染みてわかります。
生成モデルの質はこの一年で本当に上がりました。1カットの見た目で悩む時間は明らかに減っています。ところが案件が終わる速度はそこまで変わっていない。終わらないのは、権利確認と、尺合わせと、クライアントの「もう少し爽やかに」の解釈と、納品形式です。歩留まりで言えば、採用に至るカットは今も生成した数の一割前後という感覚で、残りの九割は捨てているというより、九割を捨てる作業そのものが仕事になっている。
モデルが良くなるほど、ボトルネックが運用側に移動する。テスラのロボタクシーで起きているのも、規模が違うだけで同じ形だと思っています。
表向きの理由は、たぶん本音でもある
マスク氏は今回、米国では年間3万から4万人が自動車事故で亡くなっているがほとんど報道されない、しかし我々が一人でも負傷させれば世界的なニュースになり規制当局が即座に活動を止めにくる、と言いました。ペットも轢きたくないとまで言っています。GM傘下のCruise(クルーズ)が、サンフランシスコの一件で全米の許可を失った前例があるので、これは建前ではなく実際の制約です。
ただ順番が逆だと思っています。安全を重視しているから慎重に進めているのではなくて、慎重にしか進められない構造が実運用でわかったので、安全という言葉で語り直している。予想利益の166倍という株価が織り込んでいるのは指数関数のほうで、州ごとの行政手続きの速度ではありません。落ちるのが当然という気がします。
私の立場を書いておきます。テスラが突き当たったのは知覚の壁ではなく、「管轄と運行」の壁です。そしてスターリンク搭載は、その壁を車両ハードで殴るための最初の一手だと見ています。
外すかもしれません。去年の私はもっと楽観的だったので。

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

