特集&エッセイ

イーロン・マスクが語った、テスラのEVを「車以外の使い方」をするぶっ飛んだ発想から分かった未来のテスラとは?

EVcafeで考える 第20回

by がす

「テスラはAI/ロボット工学と持続可能なエネルギー企業である」 イーロン・マスク

 先日4月2日のテスラの第1四半期決算で、イーロン・マスクらテスラ幹部の電話インタビューがありました。その中で私が最もエキサイティングで衝撃的だったのは、「自動運転」でも「ロボタクシー」の進捗でもなく「テスラのEV」を使ったテスラのぶっ飛んだ新しい考え方でした。それは、全てのテスラに搭載されているAIコンピューターで、世界中のテスラEVを使って分散AI推論ができるというのです。

 それはイーロン・マスクの妄想でも、単なる可能性の話でもなく、横にいたテスラの自動運転開発リーダーであるアショク・エルスワミ氏らも進めている、現実的な話でした。

 これは何のことなのか?

 まずはその前提となる、テスラに現在搭載されているAIコンピューターをおさらいしたいと思います。

テスラの自動運転用AIコンピューター「HW3.0」
 テスラの自動運転用AIコンピューター「HW3.0」

 ご存知の通り、テスラの全てのEVには最初から自動運転のためのハードウェア3というAI推論用の非常に強力なコンピューターが搭載されています。(現在は次世代版のハードウェア4が出て新モデルから切り替えられています)。ちなみにこのテスラが車に搭載したハードウェア3はHW3.0とも呼ばれ、テスラが自社でチップの設計から独自開発したものです。テスラのFSD(完全自動運転)用に完全に特化した設計で消費電力も考えられている上、発表された6年前の当時に、他社の5〜6年先を行っていると言われた怪物プロセッサで、他社を圧倒していました。

 このプロセッサを自社開発するために2016年当時テスラはAMD RyzenやAppleでCPUを設計した天才エンジニア、ジム・ケラーを招き入れました。(現在、ジム・ケラーはテスラを離れ、AI半導体の会社のトップとしてライバルのNVIDIAのAI用GPUと戦うべく開発を進めています)そのジム・ケラーがテスラを離れた後も、チップアーキテクチャの巨人と言われたピーター・バノンをテスラのプロセッサの設計リーダーに招き入れ、ハードウェア3(HW3.0)に続くハードウェア4、5の開発が続いています。

2022年テスラのイベント「AIデー」で説明するピーター・バノン
 2022年テスラのイベント「AIデー」で説明するピーター・バノン

 さてその、全てのテスラEVにすでに搭載されている強力な自動運転用のコンピューター、ハードウェア3、4ですが、テスラは当初からAIでの自動運転を目指していたため、このコンピューターのメインは超強力なニューラルネットワークプロセッサ(NPU)です。つまりAI用に推論できるコンピューターとなっています。そのAI推論コンピューターは現在のハードウェア3や4でも強力ですが、今後もその搭載コンピューターはどんどん強力になっていきます。イーロン・マスクは「ハードウェア5はかなり設計が進んでおり、来年末にはクルマに搭載されるはずだ。それでクルマが動いていないときにもAI分散型推論を実行できる」と今回の決算インタビューで言っています。

 つまり、どういうことになるのか?

 こう考えてみてください。

 テスラの低電力で実行できる高度なAI推論コンピューターがすでに世界中で600万台売れている(世界中に分散している状態)。それは今後1千万台以上に増え続けます。そのAI推論コンピューターは分散型として、全てのコンピューターの力を結集して、AI推論のコンピューティングができます。分散されている、1台1台の各コンピューターパワーは小さいのですが、それらが沢山集まった時のコンピューティングのパワーは、非常に巨大でAI用のクラスター(スーパーコンピューターの集合体)に匹敵するか、もしくはそれ以上になります。

 つまり分散クラウドのAWSと同じような、分散のAI推論コンピューターとなります。そのAI推論コンピューターの1台1台が、世界中にあるテスラの各EVというわけです。

 イーロン・マスク 「技術的には、アップルが(iPhoneという)最も多くの分散型コンピューターを持っていると言えますが、それをApple側が勝手に使うことはできません。なぜなら、電話を計算のためにフルパワーで動かしてバッテリーを消耗させることはできないからです。 だからテスラ車にとっては、たとえキロワットレベルの推論コンピューターであっても、携帯電話に比べればとんでもないパワーが使えます」

サイバートラックとイーロン・マスクのイメージAI画像
 イーロン・マスクとサイバートラックのイメージAI画像

 AppleのiPhoneはAIチップを搭載した分散コンピューターともいえるわけです。しかし、仮にその推論計算にスマホを使うとバッテリーが消耗する。そうやって使う人はいないと言うわけです。ところがテスラのEVには巨大なバッテリーがついています。しかも搭載しているテスラのAI推論コンピューター(HW3、4)はテスラが低消費電力で設計したものなのです。

 さらに、企業にあるAI用のスーパークラスターはビルのコンピュータールームに格納されているだけですが、このテスラの推論コンピューターは周囲を走りながら360度読み取る8台のカメラとつながっています。しかも移動できる(車なので)コンピューターというわけです。

 テスラの自動運転ソフトウェアのディレクターのアショク・エルスワミが言うには、例えばAppleはユーザーのiPhoneをコントロールできないが、テスラは自社のEVをコントロールできると言っています。

 アショク・エルスワミ 「ラップトップPCや携帯電話とは異なり、テスラEVは完全にテスラのコントロール下にあります。 ですから、ユーザーに自分の携帯電話で許可を求めるのは非常に面倒なことであるのとは対照的に、テスラは異なるノード(テスラEV集団)に仕事量を分散させるのは簡単です」

 イーロン・マスク「クルマが動いていないときにAI分散型推論を実行できる可能性がある」 

 つまり、全てのテスラEVはAI推論コンピューターが搭載されており、テスラが完全にコントロールできるので、それを分散型のAI推論コンピューターとして活用できる(イコール、AI モデルをトレーニングできる)ということなのです。

 イーロン・マスク「AI モデルをトレーニングするには大量のコンピューターが必要ですが、それを実行するためのコンピューティングは何桁も少なくなります。したがって、将来を想像していただければ、おそらく1億台のテスラのフリートがあり、平均しておそらく1キロワット程度の推論コンピューティングを備えているでしょう。これは、世界中に分散された100ギガワットの推論コンピューティングに相当します」

 大前提として、これからの時代、あらゆるものでAIのトレーニングが必要ですが圧倒的にコンピューター(GPUとそれに使う電力)が不足し、莫大なコストとエネルギーが必要です。

 その解決策として、他社には真似できないテスラのこの「クルマが動いていないときにAI分散型推論を実行し、AIのトレーニングができる」という考えが実現すればどうなるでしょう?

 例えば、自宅充電で夜寝る時に自分のテスラに、充電プラグを差し込んで充電する。その時にアプリから「AIトレーニングに使用」をクリック。充電スピードは少し落ちるが寝ている間なので、時間の余裕もありテスラ車内のコンピューターが稼働しても大丈夫です。

テスラを運転するオプティマスのイメージAI画像
 テスラを運転するAIヒューマノイドロボット(オプティマス)のイメージAI画像

 つまり寝ている間、裏側ではテスラの本社サーバで自分のテスラEV(の搭載コンピューター)がAIトレーニングに貢献するわけです。その貢献した時間や頻度で、テスラの完全自動運転(FSD)が割引になる。時間を増やせばFSD自体が無料になるかも知れない……。

 このFSDが割引になるという例は私の想像ですが、自社の完全自動運転のトレーニングに使うだけという訳ではないようでして、アショク・エルスワミはこう言いました「他の用途に活用して、人間のように科学的な問題を解決したり、誰かの愚かな質問に答えたりすることができます」と。

 これを聞いて私はイーロン・マスクが手がけるChat GPTのライバルである「GROK」が思い浮かびました。テスラEVという分散型のAI推論コンピューターがGROKのAIトレーニングに役立つのは面白いかも知れません。

 かつてアマゾンが自社ECで使っているサーバのコンピューティングの余力の活用に気がついて、「AWSサービス」としてECとは全く違うビジネスを生み出して大成功したように、イーロン・マスクはそれと同じ理屈で、テスラのEVが分散型のAI推論コンピューターになると気がついています。ビジネスとしてはまだ想像の域を出ませんが、テスラの自社のFSD(自動運転)のトレーニングに活用すればそのコストは地球規模で下がるように思えます。

 そして今回のテスラ第1四半期決算では、テスラが公式に同社のエコシステムの資料を公開しました。

テスラのエコシステム資料 
 テスラが公開したエコシステム資料 

 

 この頂点に君臨するのはテスラのEVでもパワーウォールでもありません。テスラのAIヒューマノイドロボット(オプティマス)です。

 このオプティマスには、今後、膨大なAIトレーニング(そのためのAIトレーニング用コンピューターとそのエネルギー)が必要です。FSD(自動運転)だけであれば、あくまで交通道路の世界を理解すればいいのですが(それでも超膨大ではありますが)、オプティマスは道路どころか、家や会社や工場に入り込み現実を理解し、推論して行動することを広げていくために想像を絶する超膨大なAIトレーニングが必要です。

 そのコストとエネルギーが、今後もっと売れて数が増えるテスラEVを分散型AIコンピューターとして活用できれば、そのコンピューティングのパワーでオプティマスのAIトレーニングはますます加速し、より早く実現していきます。

 世界中のテスラEVが貢献することで、AIトレーニング用の巨額なスーパーコンピューターが減れば、テスラのオプティマスは他社が真似できないほど安価で優秀になるかも知れません。

 イーロン・マスクは未来をこう言いました。「テスラが1億台の車両レベルに到達したら、私たちはいつかは到達すると思いますが、テスラユーザーは1台あたり1キロワットの使用可能なコンピューティングと独自のハードウェア6または7を手に入れることができます。そうすれば、テスラは100ギガワット程度の有用なコンピューティングを手に入れることができると思います。これは、おそらくどの企業よりも多いかもしれません」

イーロン・マスクのイメージAI画像
 イーロン・マスクの頭脳のイメージAI画像

 改めて冒頭でのイーロン・マスクの言葉「テスラはAI/ロボット工学と持続可能なエネルギー企業である」から考えると、これからの時代に必要なAIトレーニングのための莫大なコンピューティングとエネルギーを、テスラは自社のEVをそれに使えるという点で自社プロダクトの全てが結びついており「AIも持続できる」という考えを示しました。この考えは自社のAI推論コンピューターを搭載したEVを販売していないNVIDIAも、METAもGoogleもAppleもOpen AIも真似できません。

 イーロン・マスクが仕掛けるAI戦略としての自動運転から、さらに巨大なオプティマスへのAIトレーニングも不可能でないことがわかります。

 今後ますます面白く、エキサイティングになるテスラ、AI、自動運転、ヒューマノイド(オプティマス)を、この新たな視点から見ていこうではありませんか。

 メインビジュアル:テスラロボタクシーのイメージAI画像

(文・AI画像 by がす)

がす(来嶋 勇人)

 福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。

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がすAIデザイナー(イーロンマスクパロディ公認)

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