EVcafeで考える 第22回
by がす
ロボタクシーの発表は、「モデル3」以来のテスラの最重要イベント
こんにちは、がすです。
イーロン・マスクは、テスラのロボタクシーの発表まであと1カ月という2024年9月11日に、このロボタクシー発表イベントが、2016年に行われたテスラ初の量産型価格帯のEVとなるモデル3の発表以来、最も重要なイベントとなるということを認めました。
この空前のイベントに向けて、そのポイントを時系列で追っていきましょう。そしてそれを踏まえて、このテスラ「ロボタクシー」発表イベントの最も重要なポイントとはなんなのか?を考えたいと思います。
ご存知の通りイーロン・マスクは、今年の4月に突如、テスラのロボタクシーを8月8日に公開するとXで告知しました(その後、発表日は10月10日に変更)。ここから狂騒曲が始まりました。
”Tesla Robotaxi unveil on 8/8”(テスラ・ロボタクシー、8/8にお披露目)
この一言に至るまでのイーロン・マスクの信念、そしてハードウェアとソフトウェア開発のチャレンジ、AIでの解決、投資などニュースで流れたものだけでも相当な数にのぼりました。
今回の「ロボタクシー」発表イベントを楽しむためにも、その歴史をあらためて少し振り返ってみます。
自動運転用のハードウェア、コンピューターについて
テスラは10年前の2014年9月から自動運転用のハードウェア、バージョン1.0(HW1.0)の搭載を開始しました。しかし、この時点ではハードの搭載だけで、実際に自動運転が使えるようになったのはその1年後の2015年10月からです。さらに1年後の2016年に「HW2.0」、2019年に「HW3.0」がリリースされテスラに搭載されました。ちなみにこのHW1.0はMobileye、HW2.0はNVIDIAのプロセッサーを利用していましたが、HW3.0からテスラはこの自動運転用のプロセッサーを全て自社で設計しています。そして2024年からはさらに性能が進化したHW4.0が搭載されています。
2019年の「HW3.0」以降、テスラが自社開発しているプロセッサーの性能はすざまじいものがあります。2016年に天才エンジニア、ジム・ケラーが開発指揮をとり、その後はチップアーキテクチャの巨人と言われたピーター・バノンがテスラのプロセッサーの設計リーダーとなって開発した自動運転用のコンピューターです。
そしてこの2019年の「HW3.0」(新車では最新の『HW4.0』になっていますが、HW3.0搭載のテスラもまだまだ日本で大量に走っています)について、少し前にテスラの自動運転チームリーダー、アショク・エルスワミ氏が「現在テスラに搭載しているこの5年前のAIコンピューター(HW3.0)は、最新鋭のアップルM3チップの約8倍のAI推論コンピューティングが可能だ。そして現在も最新のAI技術の上に構築されたエンドツーエンドのニューラルネットワークを実行できる」と語っています。
自動運転のソフトウェアについて
上記のように2019年の「HW3.0」から磨き上げて、2024年には「HW4.0」と高性能化しているAI推論コンピューティングに特化したこのプロセッサーですが、もう確実にこの当時からイーロン・マスクは自動運転はAIで行う(AIでしか実現できない)ということがはっきり分かっており、それに邁進していたわけです。そしてなんと、今から5年も前の2019年の「HW3.0」の発表時に、イーロン・マスクはHW3.0搭載によるロボタクシー構想をすでに語っていました。
イーロン・マスク「(HW3.0へのアップグレードと製造で)テスラが2020年末までに100万台のロボタクシーを保有することが可能になる」
つまり、今思うと(イーロン・マスク自身はよく分かっていたわけですが)、AIで自動運転するためのハードウェア(コンピューター)は2019年には完成し、テスラに搭載されていたわけです。
そして本題は、完成したAI自動運転用のハード(HW3.0、HW4.0)に対応するソフトウェアになります。ご存知の通りテスラはプロセッサーの開発と並行して、自動運転のソフトウェアについても莫大な投資を行い、試行錯誤のチャレンジを続けていました。
テスラの完全自動運転(FSD) V11ベータまでは、人間のプログラマーによって30万行のコードが書かれていました。このコードには、車線内を維持する方法、車線変更、標識、信号機、前を走る車、いつ曲がるのかなど、運転に関するすべてのルールが含まれています。
人間の制御とAI、このテスラが今まで積み上げてきた方向性に加え、もうひとつ進めていたのが、人間の制御ではないエンドツーエンドのニューラルネットでAIが学習し、ハンドルやペダルを直接制御して自動運転する方向性です。
社内でのテストで後者の方が完全に自動運転として機能し、未来があることにイーロン・マスクは気がつきます。そして、エンドツーエンドの完全AIで自動運転する方向へ完全に舵を切ります。そのお披露目は、2023年8月26日にイーロン・マスクが実際にテストドライブしている模様をX(旧Twitter)でライブ放送することで行われました。その完成度と無限の可能性は衝撃的でした。テスラが紆余曲折を経てたどり着いた、AIによる自動運転のブレイクスルーを世界中が目撃したのです。
ついにAI自動運転のソフトウェアが完成したのです。そしてこのFSDのV12から現在もバージョンを重ねてどんどん進化し続けています。
このハードウェアとAI自動運転のソフトウェアのテクノロジーを基礎とし、その結実となるプロダクトが、今回テスラが発表するロボタクシーというわけです。
イーロン・マスクの”Tesla Robotaxi unveil on 8/8”(テスラ・ロボタクシー、8月8日にお披露目)というポストが号令となり、その後出てきたロボタクシーの情報をみていきましょう。
テスラのロボタクシーについて、4月23日のテスラ第一四半期決算発表の電話インタビューの冒頭でイーロン・マスクは「私たちはすでに発表しているように、発表会では専用のロボットタクシー、サイバーキャブを展示する予定だ」と述べて、ロボタクシーがサイバーキャブ(Cybercab)と呼ばれることも示唆しました。
これを皮切りに、テスラがロボタクシーのテストをしていることが続々と明らかになります。
ひとつはテスラが既存のモデル3の横と後ろにカメラを追加し、サイドミラーを削除してテストカーを道路で走らせていることがリークされたことです。
ロボタクシーでは人間がサイドミラーを見る必要がありませんので、サイドミラーはありません。
その後、テスラはイーロン・マスクの報酬パッケージへの投票へ向けて、テスラの数々の素晴らしい道のりを公式ビデオにまとめて5月20日に公開しました。
このビデオはイーロン・マスクの指示で作った動画ではないとのことですが、この中にわずか数シーンですが、ロボタクシー(サイバーキャブ)と思われるシーンがありました。
そして、テスラの公式動画のロボタクシー(サイバーキャブ)画像と先ほどの公道テストと噂されるカメラを追加したテスラ車の画像を合わせると、ちょうどカメラの位置がロボタクシーのモックアップの空間にピッタリと合います。これがロボタクシーのサイドカメラの位置であり、そのサイズ感であることが分かります。
この、5月20日に公開されたテスラの公式ビデオから、ロボタクシー(サイバーキャブ)と思われるシーンを見てみましょう。
まず先ほどの、以前に伝記とCBS放送で公開されていたロボタクシーのモックアップ(前に立っているのはテスラのデザイン責任者のフランツ・フォン・ホルツハウゼン)と、公式ビデオでのモックアップの比較画像です。公式ビデオの方が公開日付としては新しいものになります。
基本的に、ハンドルなし、アクセル、ブレーキペダル無し、座席はフロントのみで共通しています。天井は高くなり、モデルXのサンバイザーを彷彿させるものが付いています。フロントから天井にかけて、テスラのお家芸でもある全面ガラスルーフになるのではないでしょうか。ダッシュボードも新しい公開ビデオの方が広くなっています。ダッシュボードの上には中央部に何か置けるようなデザインになっており、エアコンの送風口のようなラインもあります。ここに液晶ディスプレイも付くことは次の公式ビデオのシーンでも分かります。
手のあたりを見てください。モデル3とY同様のディスプレイが真ん中に付いています。
シートを見ると、非常にクッション性が高そうなシートです。ベンチシートに見えますが、手で押さえている真ん中のシートの写真と、その右の写真を見比べてください。ちょうどシートとシートの間にあるセンターのアームレストが倒れるのが分かります。ベンチシートでも、セパレートでも使えるようです。
ロボタクシーのデザインについて
内装の写真からデザインに繋がる画像がありますので、ここでロボタクシーのデザインについて考えてみます。先ほどのシートの写真の一部を拡大して、ここを見てください。
ドアですね。ガルウィングの斜め上に上がるタイプです。通常のドアより大変コストがかかる部分だと思いますが、ロボタクシーですから狭い場所でもドアが開く利点、ドアを開けた時にぶつかる心配が少ない(センサーの制御が少ない)。そして何よりも、デザイン的にも先進性があり、かっこいい。やはり「乗りたくなる」ことが大切なのでしょう。
それから、リアなのかフロントなのか分かりませんが車体の一部と思われる画像も出ていました。この全体的なデザインから感じるものはなんでしょうか? 右下の角の感じを見てください。そう、サイバートラックではないでしょうか。
それを裏付けるかのようにイーロン・マスクはロボタクシーのことを「サイバーキャブ」と呼んでいます。発表を10月10日に延期した理由のひとつを、イーロン・マスクは「重要なフロントデザインの変更」があったと言っており、当初のモックデザインより、より未来的になると思われます。
大事なのはテスラのロボタクシービジネス
ロボタクシーは、ついついデザインに目がいきがちですが、10月10日の発表イベントで注目したいのは、そのロボタクシーを使ったテスラのビジネスです。
以前書いたこの記事のように、テスラは来るべき自動運転時代に向けたモビリティビジネスの分野で、そのテクノロジーによって先頭に立とうとしています。
自動運転による新車販売数が落ち込んでいくこれからの時代、テスラはこのロボタクシーで何をするのでしょうか? これにはいくつかのヒントが出ています。
まずイーロン・マスクは、「はっきりさせておかなければならないのは、テスラが自動運転EVの軍団を運営するということだ。 つまり、テスラがAirbnbとUberを組み合わせたようなものだと考えればいい」と、今年4月の第1四半期決算の電話インタビューで語っています。
実はイーロン・マスクは、2019年のロボタクシー構想でも同じことを語っていました。
それは、テスラオーナーは、テスラのロボタクシー配車サービスのプラットフォーム「TESLA NETWORK(仮称)」に登録することで、自分の所有するロボタクシーがアプリに表示されロボタクシー配車されます。そうやってテスラオーナーはロボタクシー事業を行うこともでき、収入を得ることができるというものです。いわゆる、自分の家を民泊として貸し出すAirbnbの車版ということです。これには、テスラ自体が持つロボタクシー艦隊が母体となるでしょう。テスラはその直営のロボタクシーで収入を得たり、ロボタクシー自体を売ることで収入を得ます。そして、ロボタクシーを買ってテスラに登録し、ビジネスを展開するテスラオーナーから手数料収入も入ります。
2019年当時には、テスラの試算によると、1マイルあたり0.65ドルを得ることができ、9万マイル走行すれば3万ドル得ることができるという話もありました。これを統合するシステムや、アプリを含めてどう実現するのか? それが、今回のロボタクシーの発表で最も知りたい重要なことなのです。
ロボタクシーが完成すればテスラは10兆ドル企業になる
このテスラがやろうとしているモビリティサービスの収益は、かなりの額に達する可能性があると、モルガン・スタンレーのアダム・ジョナスが語っています。自動運転によるロボタクシー市場は、まだ誰も収益化に成功していない巨大なブルーオーシャンなのです。
そして、この巨大なロボタクシービジネスは、実はAIビジネスの最先端でもあります。テスラのロボットタクシーへの進出は、自動運転というAIで市場に取り組むという、自動車製造業だけにとどまらない位置づけとなっています。そしてそのAIに関しては、Chat GPTを展開するオープンAIも含め、世界のどのAI企業もあまり取り組めていません。取り組みたい分野なのですが、テスラのようにカメラと自動運転用のAIプロセッサを搭載した車を持っていないからです。
イーロン・マスクは、2022年テスラのロボタクシーの会議でこう言いました。「この製品(ロボタクシー)は、歴史的なメガ革命になるものなんだ。これが完成すれば全てが変わる。そして、テスラは10兆ドル企業になる。今この瞬間は、100年後まで語り継がれることになるんだ」
10月10日、テスラが社運をかけてオールインするロボタクシー(サイバーキャブ)の全貌が明らかになります。それは最初に書いたように、何年も前からテスラがハードとAIという自社で積み重ねてきたテクノロジーの集大成を、発表する場となるのです。
さあ10月10日、我々が、テスラの切り開くモビリティの新時代の目撃者になろうではありませんか!
(文:がす)
がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。TikTokでは、「Elon Musk’s Mars Food」が計500万再生でバズり中。
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