特集&エッセイ

「フォードEVの顧客は1万2000台のテスラスーパーチャージャーを利用可能に」

EVcafeで考える 第2回

by がす

 米自動車メーカーのフォードはテスラと提携、来年初めからフォードEVの顧客は米国とカナダの1万2000台以上のテスラのスーパーチャージャーにアクセスできるようになると発表されました。2025 年にフォードは、テスラ規格である北米充電規格 (NACS) コネクタを内蔵した次世代電気自動車も販売します。

 ここ2週間で北米を中心に大変な激震が走りました。アメリカの巨大自動車メーカーであるGMとフォードが、立て続けに自社EVの充電規格にテスラの北米充電規格 (NACS)を採用したのです。そのため、米株式市場では、テスラ株が13営業日続伸と過去最長の連騰になりました。

 GMとフォードがテスラ充電方式を採用したことで、米国のEV充電はテスラが中心となって制圧していく流れになりました。EV充電の国際規格「CCS」を進めている機関であるCharINの威勢は一気にトーンダウン、12日になってようやく「CCSを支持するが、テスラNACSの標準化も支持する」という発表をしました。これは、事実上の敗北宣言と言っていいでしょう。

 CCSのアダプターはテスラのNACSに比べて非常に大きく、インターフェースやアクセスなどユーザー視点からはテスラが勝っているように見えますが、一方でテスラのNACSは通信プロトコルなど業界が構築できるオープンな充電エコシステムにはなっていないという指摘もあります。

 ご存じの通り、かつてのビデオ戦争でVHSとベータが争ったように、常に「良いものだから」という理由だけで市場が独占できるわけではありません。とは言え、テスラの北米充電規格 (NACS)とスーパーチャージャーステーションは素晴らしいもので、スマートな小型プラグに加え、充電プラグを挿すだけでカード決済まで裏側で完了する簡単でスムーズな充電体験、スマホアプリ連携、カーナビでの充電ステーション表示、車側での高速充電のためのバッテリー余熱準備等、すべてが統合され驚くほど洗練されています。直流(DC)急速充電器に限れば、テスラ用(約1万8000基)が全米のEV充電器の大半を占めている状況で、これをテスラはさらに倍に増やすと言っているのです。これら様々な要素を統合して、CCSではなくテスラの北米充電規格(NACS)が採用されたと言えるのではないでしょうか。

テスラの北米充電規格 (NACS)はスマートな小型プラグ(写真提供:テスラ)
テスラの北米充電規格 (NACS)はスマートな小型プラグ(写真提供:テスラ)

 さて、北米のEV充電をテスラのNACSが制圧したことで、今後はどうなるのでしょう? すでに各EV充電の企業がテスラの充電方式の採用へ雪崩をうっています。11日にはEV充電設備の企業EverChargeがテスラのスーパーチャージャー充電規格 (NACS) を完全にサポートすると発表し、翌日はカナダのEV充電プロバイダーFLO社が自社の9万以上の充電ステーションにテスラ方式充電(NACS)を追加すると発表しました。さらにケベック州最大の公共EV充電ネットワークであるCircuit électrique社も充電ステーションにテスラ方式充電(NACS)追加を検討しはじめ、米ブリンク・チャージング、米チャージポイント、豪トリティアムの3社もテスラのコネクターを備えた充電設備を米国で提供すると発表しています。

 14日にステランティス陣営(シトロエン、クライスラー、フィアット、プジョー等)、テスラの充電方式(NACS )への切り替えを検討というニュースが流れ、15日には、メルセデス公式情報ではないものの、ベンジンガからの報告書によると、メルセデス・ベンツもNACSの検討をしているという情報も出ています。

 ここからは予想に過ぎませんが、今回の動きを受けて、韓国EV勢(ヒョンデ、キア、ジェネシス)は、NACSを受け入れると思われます。ただ、米ルーシッドとヒョンデのアイオニックにあるような800Vの高速性能には、スーパーチャージャーV3のパワーアップと、V4登場が必要になってくるでしょう。

 そこで、気になるのは米国で25種類以上のEVを投入し、シェアを高めるという野心を持つフォルクスワーゲンです。彼らのEV充電インフラである米Electrify America(エレクトリファイ・アメリカ)はCCS、CHAdeMOに対応していますが、当然まだテスラ方式充電(NACS)には対応していません。今頃、フォルクスワーゲン本社では喧々諤々、議論をしているでしょうが、今後、対応せざる得なくはなると思われます。問題はフォルクスワーゲンが自社のEVにテスラ方式充電(NACS)を対応させるかどうかです。これはコネクタのアダプターや形状とかの単純な問題ではなく、先ほど書いたテスラの充電インフラからアプリ、様々なデータ、充電場所の宣伝まで「テスラの充電エコシステム」に、フォルクスワーゲンのEVが飲みこまれるということになるので、フォルクスワーゲンが描いている今後のEV戦略に大きく影響を与えます。とはいえ、米国でのユーザー利便性を考えると、今後のフォルクスワーゲンのEVはテスラ方式充電(NACS)を搭載したほうが、テスラのスーパーチャージャーも使えて便利なのは間違いいありません。今回のGM、フォードの搭載を受け、スーパーチャージャーは全米でますます増えていくからです。

 今年の3月にフォルクスワーゲンの新CEO オリバー・ブルームは、フォルクスワーゲンが開発している小型EV「ID.2」の試乗にイーロン・マスクを招待するか? という記者の質問に対して「イーロン・マスクを招待する気は全く無い」と答え、テスラと友好的なライバルになるつもりは無いことをにおわせていました。しかし、今回の米国のEV充電規格の流れからフォルクスワーゲンID.2にテスラの充電コネクタを搭載せざるを得なくなり、テスラの充電エコシステムに飲み込まれるとしたら、なんとも皮肉な話しではないでしょうか。その皮切りになるかも知れない、エレクトリファイ・アメリカのテスラ方式充電(NACS)には注目なのです。

フォルクスワーゲンの新CEO オリバー・ブルーム (Photo by Cathrin Mueller/Getty Images)
フォルクスワーゲンの新CEO オリバー・ブルーム (Photo by Cathrin Mueller/Getty Images)

テスラのスーパーチャージャーは、GM、フォードの搭載を受けて全米でますます増えていく。(写真提供:テスラ)
テスラのスーパーチャージャーは、GM、フォードの搭載を受けて全米でますます増えていく。(写真提供:テスラ)

がす(来嶋 勇人)

 福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

 プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。

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