特集&エッセイ

日本の郵便局、EV化と充電インフラ整備はここまで進んでいました

日本郵便はカーボンニュートラルに向けて郵便車両のEV化を推進

 日本郵便株式会社は、カーボンニュートラル実現に向けて積極的な活動を展開しています。その中心となるのが、大規模な電気自動車(EV)導入と、それに伴う郵便局のインフラ整備です。

 日本郵便サステナビリティ推進部に、同社のEV化の現状と進められている充電インフラ整備についてお聞きしました。

ぽすくまが愛らしい郵便局のEV集配車
ぽすくまが愛らしい郵便局のEV集配車

 日本郵便は、中期経営計画「JPビジョン2025+」において、2030年度までに温室効果ガスの排出量を2019年度比で46%削減し、2050年にはカーボンニュートラルの実現を目指すことを掲げています。この一環として、2021年度から四輪EV1万3500台、二輪EV2万8000台の導入を計画しています。

多くの郵便物の重さにもパワー負けしないEV二輪車
多くの郵便物の重さにもパワー負けしないEV二輪車

 郵便局におけるEV車両導入への取り組みは2008年の実証実験の開始に始まり、2013年・2014年にはEV四輪車50台を先行的に導入。そこから2022年度末までに、東京都を中心に集配用の軽四輪自動車約3400台をEVに、二輪車を約9300台EVに、2023年度には、EV四輪車を約1650台、EV二輪車約7000台をガソリン車両からEVに切り替えました。2024年3月末の時点で、全集配車両におけるEVの比率は四輪が約15%、二輪が20%を占めるまでになっています。

日本郵政のEV車両導入・拡大への取り組み

2008年度EV四輪車の実証実験を開始
2013年度・2014年度  EV四輪車50台を試行的に導入
2017年度本田技研工業株式会社と、環境に配慮したEV二輪車を用いた配達業務の実証実験などについての協業を開始
2019年度~2022年度EV四輪車約3400台およびEV二輪車約9300台をガソリン車から切り替え
2023年度EV四輪車約1650台およびEV二輪車約7000台をガソリン車から切り替え

EV導入の課題を解決するピークシフト

 しかし、これらの大規模なEV導入には課題もありました。大規模郵便局に一斉にEVを導入すれば、局内の電力需要が急増し、地域の電力網に負荷がかかる可能性があります。

 実際に、EV配備数の多い東京都内の局で電力の利用状況をみてみると、冷暖房などと共に、電気をたくさん消費する「郵便区分機」が高稼働する時間帯が、集配担当の局員の方たちが局に戻ってEVの充電を行う夕方と重なることで、局全体で大きな電力ピークとなっていることがわかりました。

集配担当の局員の方たちがEVの充電を行う夕方に局全体で大きな電力ピークとなっていることが判明
集配担当の局員の方たちがEVの充電を行う夕方に局全体で大きな電力ピークとなっていることが判明

Yanekaraとの協業によるYaneCube導入

 そこで重要な役割を果たしたのが、株式会社Yanekaraとの協業です。Yanekaraは2020年6月設立の東大発スタートアップで、EV充放電の遠隔制御に関わるハードウェアからIoT、クラウドソフトウェアまでを開発し気候変動に取り組んでいる会社です。日本郵便は、このノウハウを活用し、郵便局の電力管理とEV運用の最適化を図り、電気コストを削減する新しいプロジェクトを立ち上げました。

 その具体的な取り組みの一つが、2022年に東京都中央区の晴海郵便局で行われた実証実験です。郵便集配業務に特化した郵便局に配置されていた16台の四輪EV※を対象に、Yanekaraの開発した先進的な充電管理システム「YaneCube(ヤネキューブ)」を導入しました。この、EV普通充電コンセントに後付けで接続するだけで充電制御ができるシステムは、クラウドで管理することで自動的に電力需要の少ない夜間に充電を集中させ、日中のピーク時の充電を抑制します。

※2023年度末時点で、晴海郵便局に設置されているEVは四輪EV27台、二輪40台

Yanekaraの充電管理システム「YaneCube」
Yanekaraの充電管理システム「YaneCube」

 晴海郵便局では、EV導入前の2019年のピーク時の数値は594kWでしたが、2021年のピーク時の数値は、EV導入により630kWと36kW増加。そこで、2022年に「YaneCube」を実証実験により導入しました。

「YaneCube(ヤネキューブ)」は、EV普通充電コンセントに後付けで接続するだけ
「YaneCube(ヤネキューブ)」は、EV普通充電コンセントに後付けで接続するだけ

 日本郵便サステナビリティ推進部の佐久間誠係長によると、その実証実験の結果は期待以上でした。「実証実験において晴海局では、夕方に帰局した後、EVの充電を21時からにシフトする設定を行いました。それにより、1日あたり37.8kWの電力削減と年間約45万円のコスト削減効果が確認されただけでなく、局内の電力需要ピークを平準化することにも成功しました。また、平均気温が高かった2022年に、ピーク時は700kWまで上昇することが想定された1日の消費電力も、ピークカットにより662kWに抑えられるという成果が得られました」

晴海郵便局におけるYaneCubeを使用した実証実験の結果
晴海郵便局におけるYaneCubeを使用した実証実験の結果

 現在、YanekaraのYaneCubeに関しては、東京都の晴海郵便局と銀座郵便局の二局で運用をしていますが、今後日本郵便は、郊外と地方合わせて新たに数局での試行を検討しており、運用状況を見て今後の展開を考えていきたいとのこと。

大規模郵便局への太陽光パネル設置

 このような集配車両のEV化や電力需給調整などと共に、日本郵便が目指すのは太陽光パネルによる自家発電システムです。同サステナビリティ推進部では、大規模郵便局の屋根に太陽光パネルを設置して自家発電し、発電した電力を自家消費することにより電力コストの削減と環境負荷対策を推進していくことを計画しています。

 現在、太陽光パネルの設置は、東京都江東区にある郵便専門局の東京国際郵便局で進められており、南関東支社管内の郵便局や東北支社管内の郵便局なども候補に上がっています。同時に、一部の小規模な郵便局などへの太陽光パネル設置も進められています。

「将来的には、太陽光パネルによる自家発電とYaneCubeのような電力需給調整を絡めたより効率的な電力消費を考えています」と佐久間係長は語ります。

沼津郵便局に設置された太陽光パネル
沼津郵便局に設置された太陽光パネル

蓄電池を使った再エネ電力の活用へ

 また、日本郵便が電気需要に関して取り組んでいるプロジェクトに、産業用蓄電池の活用があります。

 この取り組みについて2024年10月9日に発表されたのが、株式会社パワーエックスによる、岡山県総社市の岡山郵便局における再エネ電力サービス「X-PPA」の供給開始です。

 蓄電池による電力の最適運用(電力取引市場の変動と郵便局の電力需要の変動に合わせた最適なタイミングでの蓄電・放電)と、日中の太陽光電力を蓄電池にためて夜に供給するオフサイトPPAによる再生可能エネルギーを中心とした電力供給で、年間約1000トンの温室効果ガス排出量の削減および電力コストの削減を目指しています。

 岡山郵便局は、岡山県および広島県の一部エリアから全国に届けられる郵便物の区分・分配機能を担う地域区分局です。そこにパワーエックスの定置用蓄電池「Mega Power」1台を設置。風力発電などのベース電源に加え、日中に太陽光によって発電された電力を蓄電池に貯め、電力需要の高まる夕方以降の時間帯に「夜間太陽光」として供給する電力を組み合わせることで、局全体のエネルギー効率を向上させ、再生可能エネルギーの利用を促進しています。

岡山郵便局に導入されたパワーエックスの定置用蓄電池「Mega Power」
岡山郵便局に導入されたパワーエックスの定置用蓄電池「Mega Power」

郵便局へのEV急速充電器の設置と一般開放

 そして、EVユーザーにとって最も気になる日本郵便の計画が、全国の郵便局への急速EV充電器の設置と、その一般開放です。「いくつかの充電事業者の方々から提案が来ています」と佐久間係長が述べるように、今後、その展開が実現する可能性はあるようです。2021年から東京電力ホールディングスとの提携で開始されている実証実験では、栃木県の小山郵便局と静岡県の沼津郵便局で、EV用の急速充電器を地域へ開放。沼津郵便局には特定の企業への充電サービスを行う急速充電器も設置されています。

沼津郵便局は、急速EV充電器を地域に開放
沼津郵便局は、急速EV充電器を地域に開放

 こうして様々なアプローチでEV化とそのインフラ整備に向けて準備を進める日本郵便ですが、佐久間係長は、実際に集配用のEVを見たお客さまの反応に大きな手応えを感じています。 
「ぽすくまがプリントされている集配用のEV四輪車やEV二輪車をお客さまが街で見られる機会が増えていることで、『郵便局も環境について意識しているんだね』との声も聞きます。日本郵便のカーボンニュートラルに対する方向性や想いが、EV集配車両によって伝わればと思います」

メインカット:Photo by Saya Hayashi

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