2025年、テスラは待望のロボタクシーサービス開始、FSDの世界展開、新型モデルの投入など、次々と新たなマイルストーン到達を達成しました。この1年をふり返り、EVcafeでは、テスラ系インフルエンサーとして有名な「がす」氏を迎え、編集長駒井とともに2025年の「テスラ10大ニュース」をセレクト。以下、ランキングで振り返ります。
10位 テスラ「パワーウォール」が累計生産100万台を達成

テスラの家庭用蓄電システム「パワーウォール(Powerwall)」が、累計生産台数100万台を突破しました。2015年の初代発売から約9年での快挙となります。
最新モデルの「パワーウォール3」は、蓄電容量13.5kWh、出力11.5kWを実現。太陽光発電システムとのシームレスな統合により、家庭のエネルギー自給自足を強力にバックアップします。北米や欧州、オーストラリアを中心に世界中で普及が進んでおり、日本市場においても2020年の参入以来、テスラならではのデザイン性とコストパフォーマンスで着実にシェアを広げています。
がす氏: 「パワーウォールが100万台に達するまで約9年。家庭用蓄電池の分野でも、テスラが世界トップクラスの規模になったのは感慨深いですね。日本でも設置事例がどんどん増えていますが、より導入しやすい環境が広がってほしいです」
駒井編集長: 「私の住んでいる内房エリアでも、パワーウォールを施工する家が増えています。パワーウォール1基の容量は13.5kWh。モデル3(RWDモデル)のバッテリーが約50〜60kWh前後ですから、車1台分の約4分の1〜5分の1の容量ということになりますね。私も1基運用中ですが、これを2基に増設して、より余裕のあるバックアップ電源を構築したいというユーザーも増えています」(以下敬称略)
9位 米国・欧州で廉価版「モデルY / モデル3 スタンダード」を発売

テスラは2025年、販売台数のテコ入れ策として、北米および欧州市場で「スタンダード」グレードを発売しました。価格は米国でモデルYが3万9990ドル、モデル3が3万6990ドルからに設定。欧州でもモデル3を3万6990ユーロで投入し、BYDや欧州メーカーの小型EVに対抗します。
この新グレードは、従来の合成皮革を布製の内装に変更し、一部の電動装備(シート調整やミラー)を簡素化。バッテリー容量の最適化とともに徹底したコスト削減を図り、普及帯でのシェア奪還を狙う戦略モデルとなっています。
がす: 「ロボタクシー事業は2025年6月に公道デビューを果たすなど進展していますが、収益への貢献はまだ先の話。だからこそ、テスラは今、主力のEVを台数ベースで売らなければなりません。直近の決算では減収減益が続いており、足元の販売不振を打開するための『背に腹は代えられない』一手といえます。装備は簡素化されましたが、空力改善などで電費性能が維持されている点は、実利を取るユーザーに評価されているようですね」
駒井: 「米国ではインフレとEV補助金の対象外となるモデルが出たことで、新車へのハードルが上がっています。そんな市場環境に合わせ、あえて『内装の質を落としてでも安く出す』という選択をしたわけですが、テスラにとってはブランドイメージを削る苦渋の決断だったでしょう。日本では補助金が手厚く、質感を求めるユーザーも多いため、廉価版を導入する必要性は低いかもしれません」
8位 テスラ全車両にAIアシスタント「Grok」を統合開始

テスラは2025年、xAI社が開発する対話型AI「Grok」を車両システムに統合しました。12月の「ホリデーアップデート」により、AMDプロセッサ搭載車両から順次利用可能となっています。
従来の定型的な音声コマンドとは異なり、Grokは「曖昧な目的地設定」や「複雑な経由地の提案」など、自然な会話を通じたナビゲーション設定が可能です。また、リアルタイムの交通情報やX(旧Twitter)の最新トレンドを反映した情報提供、スケジュール管理など、車内体験を「賢い相棒」との対話へと進化させています。
がす: 「北米では盛り上がっていますが、日本のユーザーはまだこの恩恵を受けられない状況です。これだけ待たされているのは納得がいかないですよね。日本はFSD(完全自動運転)の導入も遅れていますし、アップデートが少ない期間は月額料金(プレミアムコネクティビティ等)の割引があってもいいのではと感じます。ただ、Grokは人型ロボット『オプティマス』の脳にも採用されており、自動運転の制御AIと、会話を司るGrokという『両輪』でテスラのAI戦略が完成していく流れは非常に興味深いです」
駒井: 「PCでしか使ったことはありませんが、Grokでのリサーチ結果は非常に優秀ですね。Grokが搭載されたら、テスラのナビがより人間らしく、使い勝手の良いものに変わるかもしれません」
7位 テスラ、Dojoプロジェクト終了。次世代「AI5」への全面転換と統合戦略

テスラは2025年、独自開発のスーパーコンピュータ「Dojo」専用チップの開発を終了し、次世代チップ「AI5」を中心とした新戦略へ舵を切りました。これまで「学習用(Dojo)」と「車載推論用(AIシリーズ)」で分かれていたアーキテクチャをAI5で一本化し、開発コストの削減と効率化を図ります。
AI5は、エヌビディア製GPUに匹敵する学習能力を持ちながら、車載時の推論処理でもAI4比で約40倍の性能向上を目指しています。このチップは将来的に、自動運転車両(HW5)だけでなく人型ロボット「オプティマス」にも搭載される予定です。
がす: 「Dojoという『巨大な学習装置』で培ったノウハウを、そのままAI5という『小さなチップ』に凝縮して車に載せるイメージですね。これまでは学習は外(Dojo)、推論は車内と分かれていましたが、完全自動運転にはより高度なリアルタイム処理が必要。だからこそアーキテクチャを統合したわけです。今後、AI5やその先のAI6はオプティマスとも共通の『脳』になります。また、新型ロボタクシーが最新のAI5ではなく、現行のAI4でも展開可能だと明言されたのは、既存のテスラオーナーにとっても非常にポジティブなニュースでしたね」
駒井: 「自社製チップにこだわりつつも、Dojoのような巨大インフラの開発リスクを切り離し、半導体の設計そのものにリソースを集中させる。この柔軟な方向転換こそテスラの強みです。AI4でも十分なパフォーマンスが出せると判断したことで、ロボタクシーの早期実現への現実味が増したと言えるでしょう」
6位 サイバートラック、韓国・中東で販売開始。世界展開への第一歩

テスラのサイバートラックは2025年、北米以外での本格的な販路拡大を開始しました。韓国では8月に正式発売(価格は約1億4500万ウォン〜)され、10月にはサウジアラビアやUAEなど中東市場でもデリバリーが始まりました。
砂漠地帯での走破性やステンレスボディの耐久性が中東市場で高く評価される一方、右ハンドル仕様の開発については慎重な姿勢を見せています。北米での販売が一段落した今、グローバル市場での需要喚起が生産台数維持の鍵を握っています。
がす: 「サイバートラックのインパクトは絶大ですが、米国ではアーリーアダプターへの納車が一段落し、販売に急ブレーキがかかっています。テスラが悩んでいるのは『実用性』と『価格』のギャップ。当初の低価格設定は実現できず、実航続距離も400kmを切るケースが多い。特にピックアップに『安さと長距離走行』を求める保守的な層には、今の仕様はまだマッチしきれていないのが現状ですね」
駒井: 「中東や韓国のような新しい物好きの市場には合っていますが、米国の『レッドステート(保守層)』でのEV普及は壁にぶつかっています。フォードがF-150ライトニングの生産中止を決めたのは、まさにその象徴。トラック乗りにとっての、給油中のスタンドでのコミュニケーションも含めた従来のスタイルを変えるのは想像以上にハードルが高いのかも知れません」
5位 中国限定「モデルYL」と「DeepSeek」搭載モデルを発売

テスラは2025年、中国市場のニーズを徹底的に反映した新型「モデルYL」を発売しました。現行のモデルYをロングホイールベース化し、中国のファミリー層から要望の強かった「2+2+2」の3列6人乗りレイアウトを実現。最大航続距離は751km(CLTC)に達します。
さらに、車載ソフトウェアには中国発の生成AI「DeepSeek」とバイトダンスの「Doubao」を統合。これにより、中国語による極めて高度な自然対話や、座席ごとの音声認識による空調・エンタメ操作が可能となりました。BYDら現地メーカーの「スマートコクピット」に対抗する、テスラ史上最もローカライズされた一台となっています。
駒井: 「ついにテスラが中国市場に徹底的に合わせてきましたね。2列目が独立したキャプテンシートの6人乗り構成は、非常にゆとりがあって完成度が高い。3世代で移動する中国の富裕層・ファミリー層には、これ以上ない選択肢になったはずです」
がす: 「中国市場での販売回復の切り札ですね。驚いたのはAI戦略です。イーロン・マスク氏のGrokではなく、あえて現地の『DeepSeek』を採用した。各席に配置されたマイクで、誰が話しているかを識別してAIが応答する。この快適さとスマートさは、間違いなく日本やアメリカ市場でも評価されるはずです」
4位 ハリウッドに「テスラダイナー」正式オープン。EV充電をエンタメへ

テスラは2025年7月、ロサンゼルスのハリウッドに初の実店舗「Tesla Diner & Drive-In」をオープンしました。1950年代のレトロな雰囲気と近未来的な「宇宙船」のようなデザインが融合した2階建ての施設には、80基のV4スーパーチャージャーが併設されています。
屋上の展望デッキからは、2枚の巨大LEDスクリーンで上映される映画を鑑賞でき、充電時間を「待ち時間」から「エンターテインメント」へと変貌させました。メニューはクラシックなアメリカ料理を中心に、オーガニックなKombucha(コンブチャ)なども提供。さらに店内では、人型ロボット「オプティマス」がサービスをサポートするなど、テスラの描く未来のライフスタイルを体現したランドマークとなっています。
がす: 「単なる充電スタンド付きの飲食店ではなく、将来のロボタクシーが自動で充電しに来て、ロボットが清掃する『24時間稼働の無人ハブ』のプロトタイプという側面もある気がします。こういうワクワクする施設はぜひ日本にも作ってほしい。テスラオーナー以外も観光地として楽しめる場所になるはずです」
駒井: 「日本なら、横浜のみなとみらいや、あるいはいっそ高速道路の大きなサービスエリアと一体化させるのも面白そうです。車を運転しない人にとっても、観光地として訪れてみたいというニーズは十分にあるでしょうね」
3位 日本市場での新型「モデルY」登場と「モデル3」航続距離766kmへの進化

テスラは2025年、待望の新型モデルY(Juniper)と、航続距離を大幅に強化したモデル3ロングレンジ改良版を日本市場に投入しました。年始に発売された新型モデルYは内外装を刷新し、静粛性と乗り心地を向上。モデル3ロングレンジは空力性能の最適化により、日本国内のEVで最長クラスとなる766kmの航続距離を実現しました。
がす: 「テスラオーナーがさらに増えた一年でしたね。この新型モデルで一気に裾野が広がった気がします。特に新型モデルYは、先進的でありながら荷物もたくさん積める『最高状態のテスラ』に仕上がっています。モデル3も価格は50万円ほど上がりましたが、航続距離が大幅に伸びただけでなく、廃止されていたウインカーレバーが復活しました。これなら新しく買う人も十分に納得できるアップデートだったのではないでしょうか」
駒井: 「新型モデルYのフロントマスクは、薄型の一文字ライトなどが少し新型クラウンに似た雰囲気もあり、日本車に慣れた層にも受け入れられやすいデザインですね。モデルチェンジが少ない中で、これだけ鮮烈に印象を変えてきたのはチーフデザイナーのフランツ・フォン・ホルツハウゼンの功績でしょう。また、モデルYやモデル3の補助金による低価格化もあり、購入層が完全に『アーリーマジョリティ(一般層)』へ移行したことを実感しますね」
2位 FSDが8カ国で提供開始。テスラ、完全自動納車を実現

テスラの「監視付きFSD(フルセルフドライビング)」は、2025年12月現在、アメリカ、カナダ、中国、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国の7カ国、およびプエルトリコ(アメリカの自治領)の計8カ国で正式に提供されています。さらにヨーロッパや日本でも限定的なテスト運用が始まり、正式導入に向けた準備が進められています。また、米国の一部地域では、購入した車両が工場から自律走行で顧客の自宅まで配送される「完全自動納車」サービスも実現しました。
駒井: 「日本での自動運転の普及には、それこそトランプ大統領の圧力に期待したいですね。『日本もやれっ!』という(笑)。ただ、国内にテスラに対抗できるような自動運転プレイヤーがいない中、そんなハイリスクな技術が定着するのかという懸念はありますね」
がす: 「韓国などでも開始された『監視付き自動運転』は、日本でも開始されそうな気配ですね。ただ、果たしてそこに80万円以上払うかという(コストの)問題はあると思います」
1位:ロボタクシーのパイロット運用をスタート

テスラは2025年、テキサス州やカリフォルニア州などでロボタクシーサービスのパイロット運用を開始しました。現在、専用アプリから呼び出しが可能で、一部地域にて完全無人の自動運転車両による送迎テストが行われています。将来的な料金は従来のライドシェアの約60%程度を目指しており、運用開始から数カ月で多くのデータが蓄積されています。使用車両は現在「モデルY」が主流ですが、将来的には量産予定の「サイバーキャブ」が中心となる見込みです。2026年以降には他州への展開も計画されています。
がす: 「ロボタクシーも今後、事故が全く起こらないということはあり得ません。飛行機などと同じで、事故を起こしたときにどうするかも含めて、社会制度と法律がしっかり整備され、人々の許容が得られれば各国で認められていくと思います。インフラ整備や交通ルールの策定も重要な課題ですね」
駒井: 「日本人にはまだまだ、自動運転に乗りたくないという意見も多いですからね。普及していくには時間がかかるかもしれませんね」
番外編 テスラ、国内高級EV市場から事実上の撤退。モデルS・Xの販売終了

テスラは2025年3月、フラッグシップモデルである「モデルS」および「モデルX」の日本向け生産を同月末で終了すると発表しました。2014年のモデルS日本上陸から約11年、テスラブランドの象徴として君臨してきた両モデルですが、今後は在庫車のみの販売へと切り替わります。
背景には、グローバルでの右ハンドル仕様の生産中止と、日本国内におけるモデル3・モデルYへの需要集中があります。
駒井: 「モデル3、モデルYは数年前から『左ハンドル限定』での販売を強行していましたが、ついに完全に幕引きとなりましたね。プレミアムセグメントで右ハンドルを用意しないというのは、日本の輸入車市場では極めて異例。自動車メーカーとしての効率を最優先し、合わない市場からはサッと引く。テスラらしいと言えばそれまでですが、SやXの象徴的なスタイルが好きだったファンには寂しい決断です」
がす: 「経営判断としては、儲からないフラッグシップを維持するより、モデル3やY、そして将来の廉価版にリソースを振る方が合理的だということでしょう。ただ、本当はブランドの顔として続けてほしかったですけどね。これでテスラの日本ラインナップは完全に『実用・普及型』へシフトしました。今後はこのリソースが、日本の複雑な道でのFSD(完全自動運転)早期実現に繋がることを期待したいです」
【2025年 テスラ10大ニュース 対談ゲスト】

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー240万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。TikTokでは、「Elon Musk’s Mars Food」が計500万再生でバズり中。
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