特集&エッセイ

テスラ、ついに完全自動運転を実現か? 「占有ネットワーク」等の技術で道路を予測できる仕組みが、テスラのニューラルネットワークに統合されつつある!?

EVcafeで考える 第5回

by がす

 先日、7月13日の人工知能の新会社xAIのTwitterスペースの会話の中で、イーロン・マスクが口を滑らせました。

(Photo illustration by Scott Olson/Getty Images)
(Photo illustration by Scott Olson/Getty Images)

 イーロン・マスク「テスラがAIで何を理解したかについてあまり詳しく話すことはできませんが、おおまかに言うと私たちが思っていたよりも完全自動運転は、はるかに単純でした。私たちテスラのAIチームはその(完全自動運転)の答えがどれほど単純であるかを理解できていませんでした。チームは愚かすぎました」

 イーロン・マスクが以前は、あれほど難しいとぼやいていた完全自動運転を「単純だったことが分かった」と言ったのです。これには驚きました。しかも全体を通してイーロン・マスクは自信がみなぎっていました。実はこの兆候はいくつかの発言を振り返ると出てきます。さらに別の場所でも、この発言を裏付けるようなニュースも出てきており、今までのイーロン・マスクの完全自動運転に対するリップサービスとは違ったものを感じました。

 確かに「単純だと分かった」からといって「すぐに可能になる」わけではありません。ただし、実現への道筋は見えたのだろうという印象は受けました。

 まず振り返ると、先ほど書いた通り、ちょうど2年前の2021年7月にイーロン・マスクは完全自動運転の難しさをこぼしていました。その真逆ともいえる発言をしていたのです。

 イーロン・マスク 「自動運転は、現実世界のAIの大部分を解決する必要があるため、難しい問題です。それほど難しいとは思っていませんでしたが、振り返ってみればその難しさは明らかでした。現実ほど自由度の高いものはありません」

 それから1年後の2022年、テスラはイベント「AIデー2」での自動運転の説明の中で「占有ネットワーク」関連の技術導入を披露します。あえて簡単に説明すると、カメラの画像から予測して立体物を作り、さらにその動きも予測するというものでした。

 その後、最近2023年5月以降の、イーロン・マスクの完全自動運転についての発言や、それに関連する出来事を時系列で並べるとこうなります。

⚫︎5月16日 テスラ年次株主総会2023にて

イーロン・マスク 「完全自動運転ベータ版は『超指数関数的に』成長しています」

⚫︎6月16日 パリで開かれたテクノロジーカンファレンスにて

イーロン・マスク 「テスラは完全自動運転車の実現に近づいています」

⚫︎6月18日 テスラの自動運転チームのリーダーであるアショク・エルスワミが自動運転に関する CVPR ワークショップで講演

⚫︎6月27日 Twitterにて

イーロン・マスク 「テスラ完全自動運転(FSD)は、バージョン12でベータ版を終了する(製品版になる)」

⚫︎7月1日 テスラ公式サイトにて

テスラが複数の国(日本含む)で、完全自動運転(FSD)の準備に向けた自動運転のテストドライバーの求人を開始

⚫︎7月6日 上海の世界人工知能会議にて

イーロン・マスク「テスラの現段階の状況は、人間の監督無しでの完全な自動運転の実現に非常に近づいていると思います。これは単なる推測ですが、恐らく今年後半には完全自動運転が実現すると思います、レベル4か5になると思います」

⚫︎7月10日 テスラの自動運転開発用のスーパーコンピューター “Dojo” が起動

⚫︎7月15日 Twitter スペースにて

イーロン・マスク「私たちが思っていたよりも完全自動運転は、はるかに単純でした」

⚫︎7月20日  テスラ第2四半期決算会見

イーロン・マスク「大手自動車メーカーにテスラ完全自動運転ソフトウェアをライセンス供与するための初期の協議を行っています」

6月18日にテスラの自動運転チームのリーダーであるアショク・エルスワミの講演が下記のYoutubeで公開されています。

 この講演では、以下の要素を前提に語られています。

・テスラの完全自動運転(FSD)ベータは現在アメリカとカナダで40万台ある。

・2億5千万マイルの走行データがある。

・テスラ車の周囲の搭載された8台のカメラで360度の映像が記録される。

・レーダー、LIDAR、超音波センサー、HD地図は無い。

・最新のニューラルネットワークをベースとしたAI技術で自動運転する。

 このアショク・エルスワミの自動運転の講演内容を大まかにまとめるとこうなります。

「テスラ車に搭載された8台のカメラから周囲360度の動画を取り込んで、現実世界(道路)の3D 空間に立体物(他の車や人や信号機など)がどう配置されているかを予測する『占有ネットワーク』という技術で、その情報をリアルタイムで正確に処理できます。同じアーキテクチャを、車線や道路の予測など、運転に必要な他のタスクにも使用できます。予測しにくい車線などもテスラの自動運転チームは、最先端の生成モデリング技術を使用して車線を予測できます。それらの技術で同じ場所を走る複数のテスラ車からリアルで高精度な立体の道路地図が作れます。
 上記に加えてニューラルネットワークには、映像から車線、道路、信号機のラベル付けが追加されます。それによって、ニューラル ネットワークは、過去の動画記録から将来の動画を予測できるのです。車両周囲の 8 台のカメラすべてで予測し、独自に奥行きと動きを理解することができます。
 テスラの自動運転チームは、世界中のどこでも人間のように、速く、効率的で安全に運転できる自動運転システムを構築するために、運転のさまざまな問題を解決することに取り組んでいます。これらのモデルをAIトレーニングするには、大量の計算能力が必要です。そこでテスラは、自社製のAIトレーニング ハードウェア “Dojo ” でコンピューティングの世界リーダーになることを目指しています。
   将来予測できるこの自動運転システムは今も最適化中であり、まだテスラの顧客に出荷されてはいませんが、2023年後半には準備が整うかもしれない。この『占有ネットワーク』などで将来予測できる自動運転システムは、高解像度マップを使用しないため、地図(位置の精度)はそれほど重要ではありません。使用される地図は低解像度であり、どの道路や車線を使用するかさえ分かれば十分なのです」

 つまり、この占有ネットワーク技術での交通予測は、2022年に開催されたテスラの人工知能イベント第2回「AIデー」の時よりさらに進み(同時に車線等は他の予測技術も取り込みながら)、テスラのニューラルネットワークへの統合がうまくいっているということです。だからこそ、イーロン・マスクは、自動運転の実現にかつてないほどの自信を見出しているのではないでしょうか。

 イーロン・マスクが自動運転は難しいと言っていた2021年頃、テスラは完全自動運転(FSD)の初期バージョンで、AIベースの画像認識に取り組んでいました。テスラ車に搭載した8台の各カメラからの各フレームがAIに取り込まれて「車」、「トラック」、「歩行者」、「標識」、「赤信号」…… など判断していました。それがすべて組み合わされてAI上に道路を作ることができます。これがイーロン・マスクの言っていた「現実世界」にある無数のオブジェクト、モノです。

テスラが認識していた「現実世界」にある無数のオブジェクト(photo:Scharfsinn86:Dreamstim.com)
テスラが判断していた「現実世界」にある無数のオブジェクト (photo by Scharfsinn86:Dreamstim.com)

 現実世界の認識だけでなく、それを元にあらゆる交通状況でAIが判断して動作できるようにするためにニューラルネットワークのトレーニングがあります。しかし、完全自動運転の開発を進める中、テスラはこれが想定以上にとんでもないことだと気が付き始めたのだと思います。ロジック的には可能ですが、処理するデータがあまりに天文学的すぎるからです。それでもテスラは、Dojoというスーパーコンピューターの半導体まで自社で設計、製造して、それを実現しようと進めました。

テスラ独自のAI GPU Dojo
テスラ独自のAI GPU Dojo

 ちょうどその少し前の2020年に、イーロン・マスクからの自動運転チーム参加の誘いを断り、自身で自動運転の開発企業 Comma.aiも設立していた天才ハッカーのジョージ・ホッツが、テスラがやろうとしているこの自動運転の解決方法について「直感だがあまりにも巨大すぎて、企業ではなく人類が解決できるかどうかという大きさの問題になりかねない」と言っていたことからも、当時、テスラがAIで解決しようといた自動運転の問題の巨大さが分かります。

2016年に自動運転に関するテクノロジーを開発会社 Comma.aiを立ち上げた、ジョージ・ホッジ (Photo by Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch)
2016年に既に自動運転に関する開発企業 Comma.aiを立ち上げていた、ジョージ・ホッジ (Photo by Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch)

 しかしその後、テスラの自動運転チームは、研究とテストを進める中でこの「占有ネットワーク」等での予測技術にたどり着き(予測しにくい車線なども最先端の生成モデリング技術で解決し)。従来の車載カメラの動画ラベリングから現実世界を把握。そして、ついにテスラは道路上で起こりうる様々なケースの推論と判断など、これらすべてを「ひとつ」のニューラルネットワークに統合できるめどがついたのではないかというわけです。

 それを裏付けるようにアショク・エルスワミは、今後の完全自動運転(FSD)の新バージョンでは「占有ネットワーク」が統合されて、年末を目標にリリースされると言っています。イーロン・マスクの言う「恐らく今年後半には、完全自動運転が実現する」というタイムラインとも合っています。

 さらに、先日7月20日の決算発表で、オーナーが既に購入済みの完全自動運転ソフトを新しく購入したテスラ車に移動することも、期間限定で1回のみOKと発表しました(完全自動運転ベータ版が流通していない日本の対応は現在不明です)。テスラの完全自動運転には莫大な開発費がかかっているため、イーロン・マスクは、今までこの移動を頑なに承諾しませんでした。今回の異例の措置は、完全自動運転のリリースへ向けた自信の表れのような気がします。

テスラでは、2023年9月30日までに、乗り換えたた場合、一回限り、購入済みのFSDのオプションを新車に移行できます。「提供元:Tesla, Inc. 」
テスラは、2023年9月30日までの期間、一回限り、購入済みの完全自動運転ソフトを新車に移行できると発表しました (写真提供元:Tesla, Inc. )

 さて日本ですが、テスラからまだ何も発表はありませんが、もちろん日本でも完全自動運転(FSD)はリリースされる予定は変わっておりません。現在、日本でもテスラで完全自動運転(FSD)は絶賛販売中です。米国のようにベータ版が広く多くのユーザーにテストされるかは不明ですが、日本でもテストをする可能性は高いと考えられます。

 自動運転の市場は、国際市場調査会社の米SDKIによると2035年には450億ドル(約6兆円)規模まで拡大すると言われています。テスラは、現在、すでに8台のカメラと自動運転用のコンピューターを搭載した大人気のEVを世界中で販売しており、すでに莫大な2億5千万マイルの走行データを持っています。そのカメラ画像からAIで処理する自動運転のソフトを開発し、アップデートできる仕組みを持ち、自社で自動運転のニューラルネットワークをトレーニングするスーパーコンピューターのチップも設計し、実際に稼働させているのです。こんな会社はテスラだけです。

 このイーロン・マスクの自動運転への莫大な投資は、テスラEVをテスラEVたらしめる所以と考えており、その最大かつ最後のピースとも言えます。イーロン・マスクの言葉通りに、本当に「今年後半には完全自動運転が実現する」のかどうか、注目したいと思います。

 EVcafeでは気になるテスラの「自動運転」についても引き続き、独自の視点でも追いかけていきます!

がす(来嶋 勇人)

 福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

 プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。

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