特集&エッセイ

次はワイヤレス(非接触)EV充電!  テスラがワイヤレス充電に110億円も投資した訳は?

EVcafeで考える 第8回

by がす

 もしも、非常に高性能で使いやすいEVの「ワイヤレス」充電ステーションが普及したら、テスラのNACS充電プラグ規格はいらなくなりませんか? だってプラグ自体を使いませんから。

 テスラが2023年3月に開催した投資家向けイベント「インベスターデイ」で、テスラの充電インフラのシニアディレクターであるレベッカ・ティヌッチが、「One more thing」(もうひとついいですか)と言って公開した写真がテスラ車の下にあるワイヤレス(非接触)充電器でした。(彼女はGMがテスラのNACS充電方式を採用した際にGMのバーバラCEOと並んでテスラ代表としてコメントしていたテスラ充電インフラの重要人物です)

2023年3月のテスラ「インベスターデイ」

出典:2023インベスターデイより(提供元:Tesla, Inc. )

 このテスラのワイヤレス充電器は、各ニュースメディアが取り上げて話題になったので覚えている人も多いと思います。でもその時は、テスラはiPhoneやアンドロイド端末を自宅や車内で充電できるワイヤレススマホ充電器も普通に売っていていますから、「自宅充電用のワイヤレス版ウォールコネクターの新製品でも出るのだろう」、「便利そうだけど充電効率どうなのだろう?」とかくらいしか感想がなかったと思います。

 しかし、その3カ月後、テスラがドイツのハイテク企業ワイフェリオン(Wiferion)社を買収したことで、そんな安直な話ではないと分かりました。

 買収金額は7600万ドル(約110億円・推定)。テスラがワイヤレスタイプの新ウォールコネクター製品の販売だけに110億円も投資するわけがないと思いますので、実はこのインベスターデイでテスラが見せたワイヤレス充電器の写真は、ワイフェリオン買収ニュースが流れる前に本当の理由がバレないようにする事前の印象操作のような気さえしました。

 以前、テスラは自社の命運を握る新型4680バッテリーの開発にあたって、バッテリー技術会社の米マックスウェル・テクノロジーズを買収しましたが、その時の買収金額は240億円。その半分以下の規模感とはいえ、非接触充電のワイフェリオンもかなりの投資額といえます。

 さて、テスラも認めた「今後、間違いなくやってくる」このEVのワイヤレス充電について、テスラが投資した本当の理由を考えたいと思います!

 EVのワイヤレス(非接触)充電とは

 EVに限りませんが、このワイヤレス(非接触)で充電するという研究はかなり古くからされており、20世紀初頭にニコラ・テスラが考案したテスラコイルから世界システムという無線で電力を送るという構想からスタート。その後も様々な研究が続いていて、2017年の時点でその方式は、磁界やレーザー、超音波など6種類あると言われていました。

 テスラが買収したワイフェリオン社は、一般的な「電磁誘導充電」方式を使っています。この電磁誘導の原理はコイルを組み込んだ電気回路に電流を流すと、磁界が発生するというもの。これに、コイルを組み込んだ別の電気回路を近づけると、そこでも同様の磁界と電流が発生し、その磁界と電流が移ることで充電ができるというわけです。

 ちなみにワイフェリオン社はテスラの後付けワイヤレス充電を開発しているWiTricity社とライセンス契約もしており、WiTricityはさらにこの磁界を共振させて電力を遠くに送電するという特許を持っているそうです。

WiTricity社ワイヤレス充電の紹介動画

 すでにEVのワイヤレス(非接触)充電の開発競争は始まっています

 当時、まさかテスラが取り組むとは思っていませんでしたが、ワイヤレスのEV充電については、私のEVニュースのX(Twitter)でも3年前から以下のようなニュースを取り上げてきました。

・2020年1月 BMWがプラグインハイブリッドBMW 530eのワイヤレス充電でグリーンカーテクノロジーを受賞

出典:BMWグループプレスリリースより

・2020年2月 イギリスの工業都市ノッティンガムで政府補助金6億円を使ってタクシーのワイヤレス充電トライアル実施

・2020年5月に中国がWiTricity の技術を使用したEVのワイヤレス充電の新しい国家規格を発表

・2020年5月 ワシントン州でLink Transit社とワイヤレス充電のMomentum Dynamics社は、4 台の高出力 300 kWワイヤレス電器で電力を供給する 12 台の電気バスを運用。

・2020年7月 イスラエルのワイヤレス充電のスペシャリストであるElectReon Wireless社が、新しいワイヤレス充電プロジェクトの開発と実装のために、70億円調達

・2020年7月 オーストラリアのLumen Freedom社が世界で初めて電気自動車のワイヤレス充電技術の公共使用の認証を取得。

・2021年1月 ElectReon社、公道を走行中に長距離電気トラックを充電できる世界初の動的ワイヤレス充電を発表。

出典:electreon.プレスリリースより:アスファルトで覆う前の充電コイル

出典:electreon.プレスリリースより:管理ユニットを地上と地下の両側に配置して走行中に充電されるトラック

・2021年7月 米国運輸省の承認では初の「EVをワイヤレスで充電する舗装」がインディアナでテスト。

・2021年9月 ミシガン州ホイットマー知事は、EVをワイヤレスで充電するための国内初の道路を持っていると発表。

 これらのここ2〜3年ニュースは、ほんの一部です。各ワイヤレス充電の企業は多くの自動車メーカーと協業や、ライセンス供与をしています。トヨタも、メルセデスもBMWもボルボもライセンスEV充電の研究開発を進めていることが分かります。

 それから後半のニュースにもあるように単なるワイヤレスEV充電だけではなく、道路にワイヤレス充電装置を埋め込んで、EVがその道路を走行しながら充電できるという高度な技術も研究が進んでいる状況です。

 ワイヤレス(非接触)EV充電のメリットや考え方

 テスラが買収したワイフェリオンの商品は、先ほど言ったような道路にワイヤレス充電装置を埋め込んで走行しながら充電する製品ではなく、通常の停止したEVにワイヤレス充電する製品で、非常に小型化で安全で、高効率にワイヤレス充電ができるものです。

 気になる充電効率は、「最初から最後までの充電効率は最大 93%(平均91%)です。これまでのアプリケーションでの最悪の測定値は 89% であり、それでも非常に良好な有線ケーブルでの充電効率と同レベル」(ワイフェリオンH Pより)とのこと。

 その他、ワイフェリオンのメリットとして、非接触なので摩耗がなく、定期的なメンテナンスが不要。様々な種類の電圧に対応しているため様々な車両に充電可能というポイントがあります。

 EVのワイヤレス充電のメリットについては、こう考えることができます。

 現在、主流である有線ケーブルでの充電にとって代わるものではなく、追加されるものとして捉える。例えばEVを車庫や駐車場、道路脇など、どこに停車してもそこで、わざわざケーブルも差し込むこと無く、サクッとすぐに自動でワイヤレス充電ができるとしたら、便利な充電インフラになるのではないでしょうか?

 あまり意識せず手間なく常にちょこちょこ継ぎ足し充電できるイメージ。このインフラ構築がEVワイヤレス充電のメリットのような気がします。

 テスラがワイヤレス(非接触)EV充電を取り組む本当の理由

 以前EVcafeで、もうすぐ完全自動運転が実現しそうだという記事を書きました。テスラがここへ来てワイヤレス充電に取り組む本当の理由は、完全自動運転EVである無人の「ロボタクシー」用のインフラ構築のためだと予想しています。道路脇など色々な場所の地面に埋め込まれたワイヤレス充電があれば、ロボタクシーが停まってちょくちょく充電するのは理にかなっています。

 それから、この記事の冒頭で「もしも、非常に高性能で使いやすいEVのワイヤレス充電ステーションが普及したら、テスラのNACS充電プラグ規格はいらなくなりませんか? だってプラグ自体を使いませんから」と書きましたが、EVの充電はご存知の通りプラグの形状の話ではなく、プラグをEVに挿すことで行われる通信処理などの連携も込みの話なので、そう単純ではありません。

プラグをEVに挿すことで通信処理が行われるテスラのNACS(提供元:Tesla, Inc. )
プラグをEVに挿すことで通信処理が行われるテスラのNACS(提供元:Tesla, Inc. )

 もし仮に売れているEVに独自のワイヤレス充電装置を組み込み、行政の承認も得て、世界中の主要都市の道路脇や駐車場の地面にワイヤレス充電を埋め込んで、インフラを整備できたらテスラのNACS充電プラグ規格に頼らない、取って代わるようなEV充電インフラができるかも知れませんが、それは不可能でしょう。

 まずはテスラのワイヤレスNACS(仮称)は、テスラのスーパーチャージャーステーションに従来のケーブル型と並行して追加されることとなるでしょう。そして、自宅車庫やスーパーや映画館の駐車場、コインパーキング、近隣の道路脇に拡大されていくかも知れません。

 そんなインフラが整って、我々はEV充電インフラというのは充電方式の規格ではなく、充電の「場所」こそがEVインフラだと改めて気がつくのかも知れません。

 最後に「One more thing」(もうひとついいですか)。テスラがワイヤレス(非接触)EV充電を取り組む本当の理由のもうひとつは、テスラのAIロボット、オプティマスの充電用です。

テスラのAIロボット、オプティマス 出典:Tesla Youtubeより

 オプティマスが自分でNACS充電ケーブル手にとって、自分に挿して充電する姿はクールかも知れませんが、ワイヤレス充電できればもっとスマートです。

 多くの様々な企業が以前からワイヤレス充電に取り組んでいますが、今回、テスラが取り組むということは、つまりこれに賭ける価値があるとテスラが判断したということです。そこにはロボタクシーやオプティマスがスコープに入っていることは間違いないでしょう。

 イーロン・マスクは、ワイヤレス充電の写真を見せたインベスターデイの最初に、地球が今日の80億人を支えることができる持続可能性への道があると語っており、そのためにテスラを地球規模にスケーリング(拡大生産)しようとしています。その中の新たなピースとしてワイヤレスEV充電が入りました。

 ワイヤレスEV充電によって今後、どういう世界が作られて、我々の生活がどうなっていくのか、楽しみで仕方ありません。

 EVcafeでは気になるテスラの「ワイヤレス充電」についても引き続き、独自の視点で追いかけていきますのでお楽しみに!

がす(来嶋 勇人)

 福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

 プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。

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