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八王子の225世帯マンションが1.2億円のEV充電設備設置へ。EVが5台しかないマンションの管理組合は、どうやって住民の合意形成を行ったのか?

大規模EV充電器設置に関する「住民の合意形成」を獲得したスキーム

 東京都が推進する「ゼロエミッション東京」の実現に向けて、都内では電気自動車(EV)用充電設備の設置が急ピッチで進められています。特に集合住宅においては、2030年までに6万基の充電器設置を目標に掲げ、2025年4月以降は新築の集合住宅への設置が義務化されることになりました。この動きを受け、既存のマンションでもEV充電設備の導入を検討する管理組合が増えつつあります。 

 そんな中、東京都八王子市にあるグレーシアパーク八王子みなみ野の管理組合が、先進的な取り組みで注目を集めています。同マンションは、2000年11月に竣工した11階建て225戸の大規模マンションで、住民によって構成される管理組合を法人化し修繕積立金を資産運用するなど、住民の経済的負担を削減しつつマンション自体の資産価値を向上させていくための活動を実施しています。

八王子市にあるグレーシアパーク八王子みなみ野
東京都八王子市にあるグレーシアパーク八王子みなみ野

 同管理組合は、回収率8割を超える住民へのアンケートや、バーベキュー大会などのイベントを通じて住民の合意形成を高め、マンションの長期修繕計画を、国や地方自治体の補助金、助成金を活用して効率的に行う試みを続けています。充電事業者のユビ電と提携し、2025年1月に導入を予定している大規模EV充電設備設置に関しても、2024年1月の総会で住民の合意形成を獲得。最近では住民を対象としたEV試乗会を実施するなど、積極的なアプローチで補助金獲得へ向けての準備を進めています

住民を対象としたEV試乗会には4車のメーカーが協力
住民を対象としたEV試乗会には、複数の自動車メーカーが協力

 同マンションへのEV充電器導入の旗振り役でもある、グレーシアパーク八王子みなみ野管理組合法人長期修繕委員会の茂木克介さんは、今回のEV充電設備導入の合意形成に至るまでの道のりを次のように語ります。

「3年前、住民へのアンケートでEV充電器設置について質問したところ、EVの普及もまだまだだったこともあり、『EV充電設備などいらない』という意見が7〜8割近くありました。しかし、EV充電器を設置しなければ、住民のEV購入にはつながりません。実際にマンションに充電器を入れる際にどれくらいのコストがかかるかを調べると、電気工事に総工費の約8割以上がかかるとわかりました。そこで、それに関して多くの補助金が出るうちに工事ができるようプロジェクトを進めていきました」

試乗会でEVの説明を受ける管理組合の茂木克介さん
試乗会でEVの説明を受ける管理組合の茂木さん

 茂木さんをはじめとした管理組合のメンバーは、自分たちのリサーチ結果を情報開示して住民の意見を聞く作業を3年にわたって繰り返しました。その結果、2023年8月に実施したアンケートでは、7割の人がEV充電設備は必要だと考えるようになり、「もしEVの設備がマンションにあったらEVの購入を検討する」という回答が6割強に達しました。

グレーシアパーク八王子みなみ野の管理組合はアンケート協力のお願いなど、日々多くの情報を住民に発信
グレーシアパーク八王子みなみ野の管理組合は、アンケート協力のお願いなど、日々多くの情報を住民に発信

「これらの結果を受けて、補助金前提の条件付き議案として総会に提出しました。すると、車を持っていない高齢の方々までもが『未来のことを考えると必要だね』と言ってくれたことが印象に残っています」と茂木さんは振り返ります。

 そして、地道な活動が実り、2024年1月の総会では、補助金前提の条件付き議案として、約89%の住民が「EV充電器設置に賛成」となりました。

住民の声を集めるご意見箱
住民の声を集めるご意見箱

住民の生活の質を上げるためのEV充電器設置という考え

 ここで注目なのは、現在同マンションでEVを保有するのは5世帯だけということです。将来的には、住民以外へのシェアなどの収益モデルも見据えたEV充電設備の設置が、マンション自体の資産価値を上げることにつながると住民の理解を得たのです。

 以下が、グレーシアパーク八王子みなみ野管理組合がEV充電器設置の合意形成に向けて行ってきた活動です。

2023年3月 東京都が主催するEV充電器設置に関する無料相談会へ参加し情報収集

2023年4月 マンションアドバイザーとの相談

2023年5月 東京ビックサイトで開催されたマンション総合EXPOに参加(EV関連の業者との人脈づくり)

2023年6月 5社のEV充電事業者へEV導入に関するプロポーザルを実施

2023年7月 アンケート配布

2023年8月 アンケート集計結果で7割以上が「EV充電設備は必要性あり」との回答

2023年9月 参加希望者による意見交換会開催。理事会で総会議案にすることを決定

2023年10月 総会議案作成開始。パートナー企業をユビ電に決定

2024年1月 通常総会で議案を上程し可決

 このような時間をかけた丁寧な合意形成プロセスを経て、グレーシアパーク八王子みなみ野は、2025年1月の設置を目指し、敷地内の全駐車区画にEV普通充電器を導入する大規模プロジェクトに着手しました。

 具体的には、EV充電制御盤のWeCharge HUBを12面、3.2kW普通充電コンセントを全274区画に設置する計画で、総工費は約1億2000万円で1億円の補助金を見込んでいます。

全274区画に普通充電器を設置
駐車場の全274区画に普通充電コンセントを設置予定

 同マンションの事業者として選ばれたEV充電インフラ事業を展開するユビ電の取締役COOの白石辰郎氏は、積極的なグレーシアパーク八王子みなみ野の取り組みについて語りました。

「昨年のある日、珍しく、マンションの管理組合さんからRFP(提案依頼書)が届いたんです。そこには、このマンションの名前、世帯数、管理組合の運営方法、そしてEV充電に関する興味について記載されていました。そして、1カ月間ぐらいの期間で提案を出してほしいという内容でした」

 ユビ電は、EV充電事業者5社に送られたというこのRFPにより提案を実施。最終的には価格面で他社が優位だったにもかかわらず、ユビ電が選ばれました。その理由は、管理組合との綿密なコミュニケーションと仕様の調整にあったといいます。

ユビ電の取締役COO、白石辰郎氏
ユビ電の取締役COO、白石辰郎氏

 白石氏は、同管理組合の活動全般についても高く評価しています。

 「このマンションの管理組合さんは、自分たちのマンションを自分の家として当たり前に見ていらっしゃる方々で、とても素晴らしいマンションの管理をされています。エレベーターの高速化や窓サッシの断熱性能向上など、補助金を活用しながら住宅の性能を上げ生活の質を向上させる取り組みを積極的に行っていて、これはマンション管理組合としては非常に珍しい活動で、素晴らしい事例です」

グレーシアパーク八王子みなみ野に設置予定の3.2kW普通充電コンセント
グレーシアパーク八王子みなみ野に設置予定の3.2kW普通充電コンセント

 白石氏によれば、グレーシアパーク八王子みなみ野の取り組みの特筆すべき点は、単にEV充電設備を導入するだけでなく、住民のライフスタイルの質的向上を目指している点にあります。

 「自宅で充電できることの利便性は計り知れません。皆さんの活動からは、ガソリンスタンドの営業時間を気にせず、自宅で安価な電気で充電できるライフスタイルを、マンション住民に提供したいという想いが伝わってきます」

試乗会が行われた駐車場でのユビ電、白石氏
EV試乗会が行われたマンションの駐車場で充電設備の説明をするユビ電、白石氏

マンションで試乗会、EVメーカーをも巻き込んだアプローチ

 2024年8月、グレーシアパーク八王子みなみ野の管理組合は、ユビ電やEVメーカーと協力してEV試乗会を開催しました。EVメーカーはトヨタ、レクサス、日産、テスラの4社が協力し、225世帯中、26世帯の住民が参加。参加者は自宅周辺の走り慣れたルートで複数のEVを乗り比べる機会を得ました。

エントランスで住民を乗せるする試乗車
試乗会ではエントランスで住民をピックアップ。テスラはモデル3とモデルYで参加

 試乗会に参加した住民からは、「実際に乗ってみて、EVの静かさと加速の良さに驚きました」「自宅で充電できるなら、EVへの買い替えを真剣に考えたいです」といった前向きな感想が多く聞かれました。また「環境にも優しいし、将来的にはEVが主流になると思うので、マンションに充電設備があるのは大きな魅力ですね」という声もあり、実施後のアンケートにおいては、参加者の73%の住民が「EVの購入意欲が高まった」と回答し、93%が次回開催を希望しています。

各メーカーの担当者がEVにエスコート
各メーカーの担当者が参加者をEVにエスコート

トヨタからは人気のクラウンPHEVが参加
トヨタは注目度の高いクラウンPHEVで参加

レクサスのEVも住民には大人気
レクサスのEVも住民には大人気

各メーカーはそれぞれのブースを設置
各メーカーは、それぞれのブースを会場周辺に設置

 この試乗会に参加したユビ電の白石氏は、「現在、このマンションでEVを所有しているのは5世帯程度ですが、こういったイベントを通じて、マンションの方々がEVの魅力や利便性を体感することで、今後のEV普及に大きく貢献すると考えています」と述べています。

 また、自身も試乗会に参加した管理組合の茂木さんは、実際にハンドルを握りEVの魅力を堪能。「参加者の方々からも次の開催を希望する声が多いので、今度はマンション以外の近隣の方々も参加できるような形で試乗会をしたいと思いました」と街をも巻き込んだEV化プロジェクトへの想いを語りました。

走り慣れた道を色々なEVで走り比べ
試乗会参加者は、日頃走り慣れた道を色々なEVで走り比べ

レクサスのハンドルを操る茂木さん
レクサスRZ300eの走りを体感する管理組合の茂木さん

 グレーシアパーク八王子みなみ野をはじめとして、独自のアプローチでEV充電設備の導入を試みるマンションの管理組合が増えてきています。EVcafeでは、今後もさまざまなマンションの取り組みを紹介していきます。

グレーシアパーク八王子みなみ野 EV試乗会 Gallery

住民を対象としたEV試乗会には4車のメーカーが協力
各メーカーはそれぞれのブースを設置
グレーシアパーク八王子みなみ野に設置予定の3.2kW普通充電コンセント
レクサスのEVも住民には大人気
各メーカーの担当者がEVにエスコート
レクサスのハンドルを操る茂木さん
試乗会でEVの説明を受ける管理組合の茂木克介さん
エントランスで住民を乗せるする試乗車
試乗会が行われた駐車場でのユビ電、白石氏
全274区画に普通充電器を設置
八王子市にあるグレーシアパーク八王子みなみ野
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(Photo by Saya Hayashi)

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