EVcafeで考える 第34回
by がす
こんにちは、がすです。
先週(2026年8月4日)、スペースXが上場後初めての四半期決算を発表しましたね。売上高78億ドル、前年比92パーセント増と伸び率は市場予想を上回りましたが、全社としてはまだ黒字化していません。それでも赤字幅は前年から半分近くまで縮んでいて、この改善の中身を掘っていくと、いまAI業界全体が抱えている「計算資源の奪い合い」を逆手に取った、なかなか皮肉な構造が見えてきます。連結の営業損失は5億4100万ドルまで縮小しているんですが、この改善を牽引しているのがどの部門かというと、実はロケットでもスターリンクでもなく、AI部門の赤字幅がかなり縮んだことが大きいんです。売上25.6億ドル、前年比247パーセント増。営業損失は12.6億ドルとまだ赤字ですが、去年よりずっとマシになっています。
稼いでいるのはGrokではない
なぜ赤字が縮んだのか。ここがこの決算の一番の読みどころだと思っています。AI部門というのはxAIとGrok、それにデータセンター事業を含む区分なんですが、実態を見ていくと、Grokが伸びて黒字化に近づいたわけではありません。むしろ逆で、xAIが自社のGrok学習用に建てたメンフィスのデータセンター、コロッサス1が、社内利用ではほとんど使われていなかったという話があります。稼働率にして1割程度という報道もありました。標準的なデータセンターの稼働率が3〜4割台とされているので、かなり低い水準で持て余していたことになります。
それをどうしたかというと、余った計算資源をそのままAnthropicとGoogleに貸し出しました。Anthropicが月額12.5億ドル、Googleが月額9.2億ドルという規模で、合わせると年間260億ドル超の契約になります。要はxAIがGrokの学習用に使いこなせなかった設備を、ライバルであるはずのClaudeやGeminiの運営元に又貸ししている構図で、この賃料収入がAI部門の赤字を埋めています。Grokで勝つ前に、大家業で先に黒字化しそうな勢いというのは、なかなか皮肉な展開だと思います。

超重すぎる設備投資
とはいえ設備投資は重いです。今四半期の資本的支出は183.7億ドルで、これは売上高78億ドルの2倍以上にあたります。売上を稼ぐより先に、それを大きく上回る規模でキャッシュが出ていっている構造で、うち158.3億ドルがAI関連。前四半期の101億ドルから跳ね上がっていて、これは市場も嫌気したポイントらしく、決算発表後の時間外取引で株価は下落しました。加えて、開発中の次世代機スターシップや、より大容量化する次世代スターリンク衛星の展開にも並行して資金を投じ続けなければならず、当面はこの重いキャッシュアウトが続く前提で見ておいた方がよさそうです。売上は市場予想を上回ったのに、これだけ設備投資が膨らむと投資家は身構えます。ここはGoogleやMetaといった他のAI大手が抱えている悩みと構造は同じで、スペースXも例外ではなかったということでしょう。
本当の稼ぎ頭はスターリンク
それでも稼ぎ頭は相変わらず通信部門ことスターリンクで、こちらは売上43億ドル、前年比66パーセント増、営業利益16.6億ドルと、三部門の中で唯一黒字を出しています。契約者数は1200万人、平均月額単価は66ドル。日本円で1万円弱という水準は、国内大手キャリアの平均的なデータ通信料金をはっきり上回っています。地上回線が届かない船舶、航空機、法人向けの高単価プランが押し上げている面が大きいです。
この稼ぎを支えている一番の理由は、実は打ち上げ能力そのものだと思います。ファルコン9はこの半年で78回打ち上げていて、単純計算で3日に1回のペース。1回の打ち上げで20機以上のスターリンク衛星を軌道に投入できます。低軌道通信衛星をめぐっては中国の国家プロジェクトやアマゾンのカイパー、ヨーロッパ発のワンウェブなど参入組も少なくありませんが、この打ち上げ頻度に追いつけるところがありません。むしろ他陣営の一部がファルコン9を借りて自分たちの衛星を打ち上げているというねじれた状況すらあります。スターリンクの独占的な立場は、当面揺るがない構造だと見ていいと思います。

いよいよ目前に迫るロックアップ解除
問題はこの先の需給で、8月6日には上場時にロックアップされていた株式の最初の解除タイミングが来ます。対象は最大9億1150万株、時価にして1200億ドル超。株価はすでにIPO価格の135ドルを割り込んで推移していて、そこにこれだけの供給が乗ってくると、下押し圧力が重なる可能性があります。イーロン・マスク本人が売ることは考えにくいですが、初期のベンチャー投資家やIPO以前からの株主にとっては、含み益を確定させる機会でもあります。
とはいえ、全体としては悪い決算ではなかったと思います。AI部門はまだ赤字ですが、余っていた計算資源を貸し出す事業がここまで急拡大しているのは、xAI単体では埋めきれなかった巨大インフラを収益化する道筋が見えてきたということです。加えてスターリンクの契約者数は1年で倍増していて、宇宙からの通信網という土台はむしろ強くなっています。ロケットも通信もAIも、結局は「宇宙を基盤にしたインフラ企業になる」というスペースXが掲げてきた方向性の上に乗っている話で、短期的な株価の上下はあっても、事業の骨格自体は着実に固まってきている、というのが今回の決算を見た正直な感想です。

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

