特集&エッセイ

革新的なテスラの自動車製造方法。他メーカーが有効活用するのが難しい本当の理由とは? 後編「自動車業界の概念を破壊したギガプレス」

EVcafeで考える 第7回

byがす

 前編で紹介した、テスラの革新的な自動車製造方法 ”ギガプレス” のスタートは、イーロン・マスクが「ミニカーを作る方法で実物の車を作る」と表現したことから始まりました。

 イーロン・マスクは「パンケーキを焼くように車を作っていく」と言いました。その後、2020年4月にテスラは、モデルYのシャーシ部品を製造するために2台の巨大な鋳造マシンを購入。

 2020年8月、イーロン・マスクは、それが「史上最大の鋳造機」だと言いました。

 この巨大な鋳造マシン(ギガプレス)は、イーロン・マスクが発表する前から、テスラが鋳造マシンメーカーのIDRA社に打診して共同で研究をして実現しました。鋳造マシンメーカーは世界に10社くらいあるそうですが、テスラのこの突拍子もないアイディアをIDRA社以外の会社は断ったそうです。当初は、IDRA社も半信半疑だったようですが、テスラと共同でチャレンジすることになります。その研究の中で、テスラは鋳造マシンで作る安全性の高いフレームの特許も取得しました。

 さらには、テスラは、鋳造マシンの熱処理と変形を回避するために、鋳造専用の合金を開発し「ダイキャスト用アルミニウム合金」という名前で特許も取得しています。

メガテキサスでの製作の様子
ギガテキサスでの製作の様子 (提供元:Tesla, Inc. )

 通常、自動車メーカーは鋳造マシンを使いませんから、そういった材料の研究開発を行いませんが、イーロン・マスクはスペースXでロケット製作に使う合金を研究、開発しており、その経験が、テスラでのギガプレス用の合金の開発にも役立ったと言われています。

 2021年にイーロン・マスクは、サイバートラックのリアシャーシを9000トン級の超巨大ギガプレスで鋳造すると発表。実際に2023年現在、テスラはサイバートラックの製造でもすでにギガプレスを使用しています。

 テスラの各ギガファクトリーでは、現在、分かっているだけでフリーモントに2台、ギガベルリンに2台、ギガ上海に5台、ギガテキサスに3台が稼働しており、モデルYの製造スピードは、競合他社が製造する電気自動車の約3倍の速さとなります。

テスラの公式サイトにアップされたギガベルリンのギガプレス、ドローン撮影動画。巨大な鋳造マシンで製造される工程を見ることができます

 他のメーカーがギガプレスを活用するのが難しい本当の理由

 ギガプレスは、今後、建設予定のメキシコ工場にも導入されると言われており、まさにテスラは、世界中の工場で従来の製造概念を破壊し、革新的な製造方法を実現しているのです。

 最近のニュースでは、トヨタがこのテスラの「ギガプレス」と同様の鋳造マシンを導入予定と発表。トヨタ以外にも、GM、ヒョンデ、ボルボ、NIOがテスラを真似しようと大型ギガプレス機の製造を各鋳造機械メーカーに依頼していると言います。

トヨタが発表した新モジュール構造、そこではギガキャスト(ギガプレスの別称)が採用される予定
トヨタが発表した新モジュール構造、そこではギガキャスト(ギガプレスの別称)が採用される予定

トヨタが発表したギガキャスト(右)と従来工法(左)
トヨタが発表したギガキャスト(右)と従来工法(左)

 しかし、ここに大きな盲点があります。

 ギガプレスという鋳造マシンを導入する最大の理由は「コストダウン」にありますが、それを使用する必要があるくらいEVを大量生産する、つまり、それだけの需要が必要ということになります。

 イーロン・マスクは、2019年に行ったテスラ決算時のインタビューで、テスラのモデル3について「モデル3は、広告費ゼロで200億ドル以上の収益を生み出せる。これほど大きな需要があるEVを生み出すのは至難の業だ」と言いました。

2016年の予約受付開始日にはテスラストアに行列ができたモデル3。テスラは「生産地獄」を克服し2018年に13万9782台の生産に成功しました (Photo by Spencer Platt/Getty Images)
2016年の予約受付開始日には、テスラストアに行列ができたモデル3。テスラは「生産地獄」を克服し、2018年にモデル3を13万9782台生産することに成功しました (Photo by Spencer Platt/Getty Images)

 テスラは、モデル3を大ヒットさせ、その後に発売したモデル Yは、カローラを抜いて2023年第1四半期に世界で最も売れた車となりました。また、サイバートラックは、予約が190万台超えたというニュースが流れています。

 これほどの強い需要を持つEV商品を揃えたテスラだからこそ、ギガプレスをフル回転させることができ、その導入目的であるコストダウンも実現できるのです。

190万台を超える予約が入っているといわれるテスラのサイバートラック
190万台を超える予約が入っているといわれるテスラのサイバートラック

 つまり、そういう「売れる」EV商品が無ければ「ギガプレス」を真似して導入しても真のコストダウンは実現しません。大ヒットEVの存在と、それをギガプレスで大量生産することで生じるコストダウンは、連動しているのです。

 他社がテスラのギガプレスを真似て、ギガプレス(鋳造マシン)を導入することは簡単かもしれませんが、大ヒットEVを開発することは容易ではありません。

 そんなわけで、テスラファンとしては期待を込めて、まずはE Vメーカー各社が、ギガプレス導入の意味を生み出す、大ヒットEVを開発できるのか? お手なみ拝見といこうではありませんか。

 テスラギガプレスについては、本記事の前編「革新的なテスラの自動車製造方法。他メーカーが有効活用するのが難しい本当の理由とは? 前編『イーロン・マスクと生産地獄』でも紹介しています。

がす(来嶋 勇人)

 福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

 プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。

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