EVcafeで考える 第14回
by がす
イーロン・マスク「BYDのEVは最近、競争力が非常に高くなっています。」(2023年5月)
https://x.com/elonmusk/status/1662294768049696769?s=20
こんにちは「がす」です。
最近、BYDの名前をYouTubeやニュースでよく目にするようになりました。それらはだいたい「BYD対テスラ」というお題目のパターンですが、そんなに単純な話でもないように思いましたので、今日はそれを少し、がす流に考えてみたいと思います。
BYD(ビーワイディー)といえば串刺しにしても発火しないという安全な「ブレード(刃)バッテリー」が有名ですが、スタートは電池の会社でした。
元々、電池を作っていた中国企業BYDですが、その得意な技術を活かして2003年に自動車産業に参入しました。現在はEV、PHV車だけでなく大型蓄電池を含めたトータルエネルギーソリューションを提供する、時価総額でホンダ+パナソニックを超える巨大企業になっています。
BYDを面白いと感じる最大のポイントは、電力制御する半導体(パワー半導体)までも内製化にこだわって垂直統合している点です。この辺、最初はなんとなくテスラにも似た印象を受けました。
そのBYDは今年(2023年)1月には日本市場に参入し、440万円のEV(ATTO 3)販売を皮切りに、9月にはコンパクトEVのドルフィンを、363万円という魅力ある価格で販売開始しています。
BYDの去年(2022年)の決算を見ると売上高は約8兆704億円、純利益は約3163億円という超巨大企業です。近年ではBYD独自のプラグインハイブリッド技術を使ったPHV車が人気です。つまりテスラと違って純粋なバッテリー式のEV(BEV)のほかに人気のPHV車の好調がBYDの急成長を支えています。
今年の7月から9月までの純粋なバッテリー式のEV(BEV)の販売を比較しますと、BYDの販売台数43万1603台に対してテスラの出荷台数は43万5059台。テスラが工場アップデート(新型モデル3対応)のために工場を止めていたとはいえ、BYDのEV販売数がテスラに肉薄している様子がうかがえます。
EVの販売競争という観点からだけ見ると、確かにBYDとテスラは競合に見えますが、テスラはBYDと提携しており、BYDから大量のバッテリーを買ってモデル3やYに搭載しています。つまり、BYDにとっては、テスラは大切なお得意様でもあります。逆にテスラにとって、BYDはテスラEVを売るために重要なバッテリーサプライヤーでもあるのです。
その良好な関係を裏付けるのが、両社のトップの発言です。BYDの執行副総裁である廉玉波はインタビューで「われわれは現在、イーロン・マスク氏と良い友達」(2022年6月)と答えていますし、BYDアメリカ社長のステラ・リーは「私たちの競争相手である敵は(テスラではなく)内燃エンジン車です」(2022年12月)とまで言っています。
さらには今年の3月にマスコミから「BYDがテスラにバッテリー供給終了」のニュースが流れた際も、BYDがすぐにその報道を否定しました。それを聞いたイーロン・マスクまでもが「その報道は誤りだ。テスラとBYDの関係は良好だ 」とX(Twitter)できちんと否定したほどです。
つまりBYDとテスラはEV販売ではライバルの側面がありながらも、お互いを大切なビジネスパートナーと考えている関係というわけです。
そこに付け加えるとすると、BYDが仲良くしているのはテスラだけではありません。メルセデスベンツは自社のEVにBYDブレードバッテリーを使用する予定ですし、BYDとの合弁会社でEVの開発もしています。また、BYDとトヨタも3年前から電気自動車の研究開発合弁会社を作り、EVを開発してトヨタbZ3を発売しました。
元々バッテリーサプライヤーから自動車も作るようになったせいなのか、BYDは自社以外にも積極的に自社のバッテリー技術や製品を使って、大手自動車メーカーと協業することができる強さを持つ企業というわけです。
あえてテスラ対BYDを考える
BYDとテスラの違いを理解する上で、開発投資が分かりやすいです。BYDはバッテリーからスタートした企業で、その開発投資の中心は当然バッテリーで、EVバッテリー世界市場2位です。テスラは自社で開発した新4680バッテリーを製造していますが、このEVバッテリー市場のトップ10ランキングにすら入っていません。
世界のEV用電池の年間累計使用料
出典: 2023年9月の Global Monthly EV and Battery Monthly Tracker、SNE Research
参照記事:ブルームバーグ「世界のEVバッテリー市場、中国のCATLとBYDで半分余り占める」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-11/S2CKLVDWRGG001
しかし、そもそもテスラはEVバッテリー世界シェアのランキングなんぞに入ろうと思っていません。それは現にそうしているように(当初からパナソニックと組んでいるように)、バッテリーが得意な他社からも調達すればいいからです。テスラの新4680バッテリーも開発テスラがして、製造は自社以外にもパナソニックやCATLにも新4680を製造してもらいます。
テスラがEVバッテリー市場で世界シェアを狙うことに興味がない理由は、リチウムイオン電池の技術は開発しつくされており、今後は革命的なテクノロジーが見えにくいとイーロン・マスクが判断しているからだと思います。もちろん新4680バッテリーのように開発は続けますが、テスラがより開発投資の優先順位上げたいのは、AIや自動運転といった分野といえます。
テスラとBYDは、その良好な関係の側面から見ると協力企業ですし、EVの販売数から見ると競合企業と言いました。あえて、EV販売数の対決として考察しますと、やはりひとつ大きなキーワードがあります。
それは「自動運転」です。
実はBYDはこの自動運転について「人間が運転しない完全な自動運転技術は、基本的には不可能だと考えています」という発言をしています。
出典:CNBC ”Chinese EV giant BYD says self-driving tech is more valuable for factories than cars”
https://x.com/Gusfrin92486024/status/1648796279731019776?s=20
ここがテスラと真逆なところなのです!
イーロン・マスクが言うには、EVは「完全自動運転」できるEVかどうかで最後の勝負が決まるとして、完全自動運転やそれが搭載されたロボタクシーに全賭け(オールイン)しようとしています。そんな中で2カ月前にテスラはエンドツーエンドのニューラルネットでAIが学習し、ハンドルやペダルを直接制御して完全自動運転する段階に到達しました。
完全自動運転に興味がないBYDと、完全自動運転を実現しようとしているテスラ。これが最終的にEVの販売数にどう影響し、両社のEVの売上対決を左右する要因になるかどうかは分かりません。
BYDのブレードバッテリーも素晴らしいと思うのですが、テスラに新4680があり、他社のバッテリーがある中でEVバッテリーの競争はますます厳しくなるはずです。
そんなわけで、完全自動運転にオールインしているテスラがそれを実現すると踏んで、私はこの販売数の勝敗は最終的にテスラに傾くと予想しています。
がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。
プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。
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