EVcafeで考える 第35回
by がす
ニュースによると、テスラは2026年中に日本国内の納車拠点を7カ所から11カ所へ、6割増やします。8月中に横浜と神戸、年内に関東と名古屋にもう1カ所ずつ。整備拠点にいたっては14カ所から30カ所超へ、2倍以上です。

輸入車ブランドが1年でここまで国内の物理拠点を増やす例を、私は他に知りません。私自身モデル3に乗っていますが、コンビニのスーパーチャージャーはファミリーマートだけかと思いきや、7月にセブンイレブン川崎子母口東店にも設置されたニュースを見たときは少し笑ってしまいました。コンビニで買い物のついでに急速充電する時代が、気づいたら来ていました。
この拠点ラッシュ、表向きの説明はシンプルです。売れすぎて納車が崩壊したから。それは事実です。ただ、この投資を世界のテスラの動きと重ねて見ると、もうひとつ別の絵が浮かんできます。今日はその話を書きます。
表向きの理由は本当に正しい
まず公式ストーリーを確認しておきます。2025年、テスラの日本販売は初めて年間1万台を超えました。補助金の増額と急速充電無料キャンペーンで需要が跳ね、注文はオンラインで無限に受けられるのに、車を物理的に渡す場所が有明などの既存拠点に集中してパンクした。納車待ちが伸び、現場が混乱した。だから拠点を増やす。
物流側も動きました。7月から愛知の三河港(豊橋の神野ふ頭)で陸揚げを開始しています。横浜の大黒ふ頭に次ぐ第2の輸入拠点で、受入能力は従来の2倍、年間約4万8000台。テスラジャパンは四半期ごとに最大6000台規模の輸入を予定していると言っています。三河港は輸入車の取扱台数33年連続日本一で、日本に入ってくる輸入車のおよそ2台に1台がここから陸揚げされる港です。フォルクスワーゲンもポルシェも使っている場所なので、輸入車を日本仕様に仕上げるインフラが最初から揃っています。ゼロから作る必要がない。関東と関西の中間という立地なので、西日本への陸送も短縮できます。
ここまでは「急成長した販売会社が供給網を整えた」という、まっとうな経営判断の話です。日経の記事もその文脈で書かれています。異論はありません。
ただし、日本で同時に走っているもうひとつのプロジェクト
問題は、この拠点投資と同じ時期に、テスラジャパンが何をやっているかです。
FSDの日本テストです。2025年8月から都内で公道テストが始まり、2026年4月には国内のテスラ車にFSD v14.2.2.5がシャドウモードで配信されました。走行には介入せず、裏でデータだけ集めている状態です。6月には横浜と大阪を勤務地とする自動運転テストドライバーの求人まで出ています。橋本理智社長は2026年中の国内実装を目指すと明言しています。
つまり日本では今、「物理拠点の倍増」と「自動運転のデータ収集・実装準備」が同時進行しています。この二つを別々のニュースとして読むこともできます。私は同じプロジェクトの表と裏だと読んでいます。
ロボタクシーはソフトだけでは動かない
なぜそう読むか。テスラのロボタクシー構想は、FSDが完成すれば成立するものではないからです。
無人のタクシーは、パンクしても自分で直せません。カメラが汚れても自分で拭けません。誰かが車内にゴミを残しても自分で掃除できません。運転手がいないということは、これまで運転手が無償でやっていた保守作業を、すべて事業者側の物理インフラが引き受けるということです。回収し、洗い、点検し、充電し、翌朝また街に送り出すヤードが要ります。実際オースティンの無人運行も、車内に監視員がいないだけで、テスラが遠隔で監視し、地上の拠点で車両を維持しながら回しています。無人化とは「運転の無人化」であって、「運用の無人化」ではありません。
それで、日本で新設されている大型デリバリーセンターの要件を見てください。広い駐車場、高出力の充電設備、整備ピット。納車拠点の要件と、フリート運用拠点の要件は、ほぼ同じです。昼は納車場、将来は夜間のフリート回収基地。同じ土地と建物が二度使えます。
コンビニのスーパーチャージャーも同じ構図で読めます。国内のスーパーチャージャーは2026年5月末で150カ所744基。ファミリーマートの設置店に続いて、セブンイレブンとの提携で「生活動線上の充電」が本格的に広がり始めました。オーナー向けには買い物ついでの充電ですが、無人タクシーの視点では、乗客を降ろした後に近くで数十分だけ継ぎ足す「スキマ充電」の網になります。無人車両の収益性は稼働率で決まるので、充電のためだけの長距離回送は許されません。街のあちこちに小口の充電ポイントが散っていること自体が、フリート運用の前提条件です。


とはいえ、オースティンの現実
ここで冷や水も浴びておきます。本場テキサスのロボタクシーは、6月にオースティン都市圏全域へのカバー拡大が発表されて話題になりましたが、実際に走っている無人車両は20台前後です。テキサス州への登録台数でも42台。イーロン・マスクは1000台と言っていました。比較対象のWaymoは米国全体で約3000台、週50万回の有償運行です。イーロン・マスク自身、本格的なスケールはFSD v15の書き直し待ちで、2026年末か2027年初と言っています。
だから「日本の拠点投資はロボタクシー開始の準備だ」とまで言うと、言いすぎになります。日本での無人運行には法整備も要りますし、米国本体がまだ数十台の段階です。順当に見て数年は先です。
私の読みはもう少し手前にあります。これは準備ではなく布石です。テスラの投資には昔から二重帳簿的なところがあって、ひとつの支出が今日の理由と明日の理由を同時に満たすように設計されています。ギガファクトリーは車の工場であると同時に電池事業の基盤でしたし、スーパーチャージャーは販促装置であると同時に他社に開放して収益源になりました。今回の拠点倍増も、今日は納車崩壊の収拾という完全に正当な理由で建てられ、明日はフリート運営会社への転換の土台になります。納車問題が解決した後にこの資産が遊ばない設計になっている、というのが本質だと思います。
もうひとつ、時間軸を締めてくる材料があります。Waymoが160億ドルを調達して、進出先にロンドンと並んで東京を挙げていることです。無人タクシーの主戦場が東京に来ることは、もうテスラの選択ではなく既定路線になりつつあります。そのとき地上側で何が要るか。車両を大量に受け入れる港、回収と整備のヤード、街中の充電網です。テスラは今、それを納車問題という名目で先に敷いています。三河港経由で四半期6000台を受け入れる体制は、販売台数のためだけにしては少し大きい。
外れたらまた白状します。スペースX株の件みたいに。ただ、納車拠点のニュースを「売れたから増やした」で読み終えるのは、この会社に対してはたぶん浅すぎます。

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

