2026年9月3日、テスラの完全専用ロボタクシー「サイバーキャブ」がテキサス州オースティンで正式にロールアウトしました。ハンドルもペダルもない2人乗りという時点で十分に異色ですが、SNS上のマニアたちが実車を細かく観察していくうちに、ボディ設計もサイズ感も駆動方式も、これまでのテスラの常識からことごとく外れていることが分かってきました。
Tesla has released a new Cybercab tutorial video. pic.twitter.com/9jYchJhSWU
— Sawyer Merritt (@SawyerMerritt) September 4, 2026
きっかけは、自動車専門アカウント Nic Cruz Patane(@niccruzpatane)が7月に投稿したポストでした。曰く、サイバーキャブのホイールは「前輪駆動車としては見慣れない構成」だといいます。前輪は18インチのスチールホイールに215/60R18、後輪は21インチ(アルミホイール)に225/60R21という異なるサイズを組み合わせたステッガード(前後異径)仕様です。しかもホイールの上にはゴールドのカバーが被さり、外周はゴムのリップでタイヤ側面と接しています。
The @Tesla Cybercab has a unique wheel setup, especially for a Front-Wheel Drive vehicle.
— Nic Cruz Patane (@niccruzpatane) July 9, 2026
Up front, there are 215/60/18 tires on 18” steel wheels. On the rear, there are 21” wheels with 225/60/21 tires.
I’m looking forward to learning about this setup and the reasoning behind… pic.twitter.com/JvrdC0LbW4
「前輪駆動」という一言に、実はこの車の本質が集約されています。今回はこの投稿を手がかりに、サイバーキャブのボディ・サイズ・駆動方式がいかにテスラ史上でも突出してユニークか、公式のライダーガイド/コンプライアンスガイドや各種報道をもとに整理してみます。
サイズは日本車のプリウスやカローラに近い
「ロボタクシー専用車」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、ウェイモのようにルーフやボディのあちこちにセンサーやカメラが突き出た、いかにも「自動運転車然とした」いかつい姿ではないでしょうか。ところが実際のサイズを見ると、そのイメージとはかなり違います。テスラが公開したライダーガイドによれば、全高140.8cm、全幅175.4cm、最低地上高14.4cm(全長は公式資料に記載がなく、海外メディアの実測に基づく非公式値でおよそ444.5cm)です。
全幅175.4cmは、トヨタ・プリウス(全幅178cm・全高142cm前後)やカローラセダン(全幅174.5cm・全高143.5cm前後)といった、日本のコンパクト〜ミドルセダン級のボディです。テスラ「モデル3」と比べ、全長で約6%、全幅で約5%、全高で約2%小さい。
テスラの量産モデルとして史上最小(初代ロードスターを除く)
車重は約1412kgと、これも現行テスラの中では最軽量です。テスラの量産モデルとしては、事実上「史上最小」と言い切ってよいサイズ感ですが、唯一の例外が2008年発売の初代ロードスターです。ロータス・エリーゼをベースにした2人乗りスポーツカーで、全高112.7cm・車重約1305kgと、こちらは別格の低さと軽さを誇ります。特殊な立ち位置の一台として、今回は比較の対象から外して考えるのが妥当でしょう。
テスラ初の前輪駆動車という大転換
そしてもう一つ、今回の投稿が示唆する最大のポイントが駆動方式です。サイバーキャブは前方に単一モーター(219馬力・163kW)を搭載する前輪駆動(FWD)で、これはテスラの市販車としては初めてのFWD車にあたります。
初代ロードスターはリアミッドシップ・後輪駆動、モデルS/3/X/Yは後輪駆動(後方シングルモーター)またはデュアルモーターの四輪駆動、サイバートラックも四輪駆動と、これまでテスラは一貫して「後輪、あるいは前後モーターの四駆」という考え方を貫いてきました。前輪駆動オンリーは、サイバーキャブが初めてです。
理由は明快で、パフォーマンスよりも「ロボタクシーとしての経済性」を極限まで突き詰めた結果です。リアのサブフレーム・ドライブシャフト・2基目のモーターを丸ごと省くことで、モデル3比で約340kgもの軽量化を実現しました。電費はEPA基準で165Wh/mile(約103Wh/km)と、世界でもっとも効率のいいEVと言われる「Lucid Air Pure」より約28%優れた数値を叩き出しているといいます。市街地での発進・停止・小回りを繰り返すロボタクシーの走行サイクルには、後輪駆動的な「パワーをかけた際の自然な荷重移動」よりも、軽量でシンプルなFWDのほうが理にかなっている、というテスラの判断がうかがえます。
前18インチ・後21インチという異例の足回り
冒頭のホイールの話に戻りましょう。前輪駆動車で前後異径のステッガード仕様というのは、実はかなり珍しい組み合わせです。一般にステッガードホイールは、パワーを路面に伝える駆動輪側を太く大径にする高性能後輪駆動スポーツカーの専売特許のようなもの。非駆動輪であるはずの後輪の方を大径(21インチ)にし、駆動輪の前輪を小径(18インチ)にするサイバーキャブの構成は、その常識と逆を行っています。

考えられる狙いは、前輪を小径・軽量にすることで操舵応答性を高めつつバネ下重量を抑え、後輪は扁平率60%の分厚いサイドウォールを持つ21インチタイヤで乗り心地の快適性を担保する、という役割分担です。素材面でも前輪はスチール、後輪はアルミホイールと使い分けられており、コストと軽量化のバランスを取っていると見られます。両ホイールにはゴールドの化粧カバーが被せられ、外周のゴムリップがタイヤと密着する構造になっている点も、量産ロボタクシーらしい合理性と、見た目のデザイン性を両立させる工夫といえそうです。
バタフライドアも「乗降のしやすさ」を突き詰めた結果
サイバーキャブのドアはドアハンドルを持たず、上方向にせり上がるように開くバタフライ式です。見た目のインパクトばかりが注目されがちですが、この開閉方式を選んだ一番の理由はデザインではなく、乗り降りのしやすさにあります。

テスラは全米盲人連盟(National Federation of the Blind)の年次大会にサイバーキャブを持ち込み、アクセシビリティを設計上の最優先事項の一つに位置付けていることを明らかにしました。上方向に開くバタフライドアであれば、車椅子を車体に対して真横に平行付けでき、一般的な横開きドアのように扉自体が乗降スペースを遮ることがありません。さらにシートの高さを車椅子の座面の高さに合わせて水平移乗をしやすくし、乗降を助けるグラブポイント(つかまる場所)を配置、ドア開閉ボタンや非常停止ボタンには点字表記も用意されています。ハンディキャップのある方だけでなく、荷物を抱えた乗客や高齢者にとっても、扉が進路を塞がない分だけ乗り降りしやすい設計といえるでしょう。

ドアの開閉自体もかなり自動化されています。乗客のスマートフォンを検知するとドアが自動で開き、シートベルトを締めると自動で閉まります。そして目的地に到着してトリップが終了した際も、乗客がうっかり閉め忘れてそのまま立ち去ってしまえば、自動的にドアが閉まる仕組みになっており、ドアの閉め忘れによるトラブルを未然に防いでいます。なお停電時に備えて、両ドアには電力を使わずに開けられる機械式のリリースレバーも備わっています。
ボディ設計そのものも型破り
駆動方式やホイールだけでなく、ボディの作り方自体もテスラの中で異質です。ルーフパネルは塗装工程を経ず、成形段階で顔料を練り込んだポリウレタン製で、色付けと同時に成形が完了します。樹脂部品同士は接着や締結ではなく超音波溶着でつながれ、量産コストと軽量化を突き詰めた設計思想がうかがえます。
サイドミラーは廃止されカメラに置き換えられ、リアウィンドウも存在しません。充電も物理的なポートを使わず非接触の誘導充電方式を採用しています。ルーフには一般的な自動運転車によくある出っ張ったセンサーポッドがなく、8つの車外カメラ(フロントグリル上、リアナンバー上、両ドアピラー、フロントガラス上部左右、両フロントフェンダー)と1つの車内カメラに機能を分散させています。後部の荷室はハッチバック状に開きます。
ルーフ後端に埋め込まれたスターリンクアンテナ
サイバーキャブのボディには、スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」の受信アンテナも組み込まれています。場所はルーフ後端、テールランプ上あたり。外から突き出たお椀型のアンテナではなく、薄い長方形のパネルとしてボディに沈め込まれており、連続したガラスキャノピーの流線形を崩さない設計です。テスラは今年7月にレンダリングで統合構想を先出しし、8月には実車での搭載を公開していました。

これを可能にしているのが、前述したポリウレタン製のルーフパネルです。金属と違って電波を通す(RF-transparent)特性を持つこの素材だからこそ、アンテナを外部に露出させずボディ内側に埋め込めるわけです。搭載されているのは最新世代の「スターリンク V5」端末とされ、通信速度375Mbps超、従来のV4比で体積35%減・重量62%減(約1.1kg)、消費電力35〜50W、風速265km/hまでの耐風性能を備えるといいます。

用途は自動運転そのものを支えるためではありません。テスラのAshok Elluswamy副社長は、サイバーキャブの自動運転スタックが安全に作動するうえでスターリンク接続は必須ではないと明言しています。実際の役割は、(1)携帯電話の電波が届きにくいエリアでもリアルタイムに地図データを更新するナビゲーション用途、(2)車両・乗客・テスラの運行チームを結ぶ双方向通信によるカスタマーサポートやインシデント対応、(3)車内で4K動画のストリーミングも快適にこなせる高速な乗客向けWi-Fi、の3つです。自動運転の「安全網」というより、乗客体験と車両運用を支えるレイヤーとして統合されている、と捉えるのが正確でしょう。
まとめ
サイバーキャブは「小さなロボタクシー」という第一印象こそシンプルですが、掘り下げるほどにテスラの常識をいくつも塗り替えている一台であることが分かります。サイズ感は日本のプリウスやカローラに近いコンパクトセダン級、テスラの量産モデルとしては(ロードスターを除いて)史上最小・最軽量、駆動方式はテスラ初の前輪駆動、前後異径のステッガードホイールという異例づくしの足回り、バタフライドアもデザインではなくアクセシビリティを起点にした設計、そしてルーフには電波を通す樹脂パネルを利用してSスターリンクアンテナまで埋め込まれています。ロボタクシー事業の経済性と「誰もが乗りやすく、どこでもつながること」を突き詰めた結果として生まれた、極めて合理的かつ異端な一台といえそうです。
(EVcafe編集部)

