EVcafeで考える 第55回
by がす
2026年10月20日の夜、スペースXの決算を眺めていて、ひとつの数字で手が止まりました。ロケットの売上が、全体の1割前後しかない。
ロケットの会社だと思っていた会社の決算で、ロケットがいちばん小さい部門になっていました。いちばん大きいのは、決算資料で「SI」と呼んでいる部門です。スーパーインテリジェンスの略で、マスク本人は説明会で「SpaceX SI、セクシー、まあ何でもいいけど」と流していました。売上の半分がここで、去年の同じ時期の9倍です。
これだけ見れば答えは簡単に見えます。スペースXはAIの会社になった。私も最初はそう読みました。
それで、決算説明会を聞いていたら、イーロン・マスクがいちばん熱を込めて話したのは、AIのモデルの話でも、Grokの話でもありませんでした。なんと、「タービンの羽根」の話です(笑)。ロケット屋がガスタービンの羽根を鋳造している。この話を聞いて、「何の会社になったのか」の答えは決算の数字とは別のところにあると思いました。先に結論だけ言うと、スペースXは何にもなっていません。2002年の創立当時のままです。そちらは最後に書きます。
売上の半分は、AIを動かす計算機の貸し出し
SI(旧AI)部門の中身は、前回の記事で書いたとおりです。データセンターを自分で建てて、半分を自分たちのGrokに使い、残り半分をよその会社に貸す。借り手にアンソロピックやグーグルの名前があるのも同じです。今回の決算でわかったのは、その貸し賃がさらに上がっていることでした。CFOのブレット・ジョンセンによると、1ワットあたりの値段は前の四半期に言っていた幅の上限を超えていて、新しく置いたAIを動かす計算機は1年かからずに元が取れる。契約は短期で、更新のたびに値上がりしているそうです。
マスクはこの状況を、モンティ・パイソンのチーズ屋のコントで説明していました。客が「このチーズは」「あのチーズは」と聞くたびに、店主が「ありません」と答えるやつです。スペースXは自分たちのAIを動かす計算機の一部をよそのクラウドに逃がして、空いたぶんを学習に回そうとした。それで大手クラウドに片っ端から聞いた。最新のGPUは、ない。ひとつ前の世代も、ない。グーグルのTPUも、ない。古い世代なら海外にあるかもと言われて、確認したら、ない。
世界中でAIを動かす計算機が売り切れています。そして、売り切れの世界で新しい在庫を作れる会社が、いちばん高い値段で貸せる。ここまではわかりやすい話です。わかりにくいのは、なぜロケットの会社(スペースX)にそれができて、ほかの会社にできないのか、のほうでした。なぜだと思いますか? これが面白い。
ロケットエンジンの鋳造チームが、タービンの羽根を作っている
イーロン・マスクの説明はこうでした。SI(旧AI)を広げるときの制約は、チップより、電力と冷却と設備のほうにある。GPUは、高いし奪い合いですが、お金を積めば買えます。しかし、買ったGPUを動かす電気のほうが、作れない。
電気を作るにはガスタービンが要ります。タービンのメーカーに聞くと、本体はできるのに、羽根だけが12カ月から18カ月遅れると言われるそうです。これは以前からイーロン・マスクがYouTubeのインタビューでも語っていたことです。「ブレード」と「ベーン」と呼ぶガスタービンの羽根で、高温のガスに耐える特殊な金属を鋳造して作る。これを作れる工場が世界にほんと少なくて、しかもこのタービンの羽根が足りない状況は悪くなる一方だと。
それで、スペースXにはロケットエンジン用の鋳造チームがいます。ラプターエンジンの部品は、タービンの羽根よりもっと厳しい条件で使うので、イーロン・マスクに言わせると「(スペースXは)地球上でいちばん進んだ鋳造技術を持っている」。その人たちに、羽根を作れないかと頼んだ。本人の言葉では、ロケットエンジンに比べれば「ずっと簡単」だそうです。羽根が自前で作れると、電力の立ち上げが他社より1年以上早くなる。「よそが高度な鋳造工場を建てない限り、この点でスペースXと競争するのは無理だ」と言い切っていました。
マスク本人は今、週に4日メンフィスにいるそうです。夜も昼も、データセンターの現場で。AIの会社のCEOの時間の使い方としては変です。建設会社の社長の時間の使い方です。

ここが今回の読みどころだと思っています。スペースXのSI部門が売っているのは、AIではありません。売っているのは、「物を早く建てる力」です。イーロン・マスクは説明会で、地球から軌道に運ぶ質量の9割を取っているチームを、そのまま地上のAIを動かす計算機の設置に回したと言っていました。本人のたとえは「ヤンキースがリトルリーグで試合をしているようなもので、フェアじゃない」。ロケット打ち上げで世界の9割を取ったのも、ロケットが好きだったからというより、人より早く大きな物を建てて動かすのが異常にうまい集団だったから。その集団が建てる物をロケットからデータセンターに変えたら、AIの売上がロケットの売上を追い抜いた。それだけのことに見えます。
合併の相手は、同じ種類の会社
合併の話も、この日の説明会で動きました。イーロン・マスクによると、スペースXとテスラの両方の取締役会が、株主の求めで特別委員会を作った。委員会は独立取締役だけで、マスク本人は利益相反の対象役員なので入れない。「二つのグループが話しているのに、自分はその会話にいられない奇妙な儀式(odd kabuki dance)だ」と言っていました。質問された瞬間の第一声は「地雷原でタップダンスをしている気分だ」。
合併したら何がいいのか、マスクは理由を並べました。スーパーインテリジェンスのソフト、チップの設計、テラファブ、ロボット、軌道への輸送とStarlinkの通信。読み返して気づいたのは、この一覧に車(EV)がないことです。それから、どれも「作る物」か「建てる物」だということ。テラファブは工場、ロボットはフリーモントに建てる年100万台のライン、軌道への輸送はルイジアナに20基以上の発射塔を建てる計画。
テスラも、同じ性格の会社です。上海の工場は着工から1年たたずに車が出てきました。それと、メンフィスの現場には、もうテスラがいます。テスラの委任状を見ると、2025年にxAIから4億ドル強の売上があって、ほとんどがメガパック、つまり大型の蓄電池です。送電線が間に合わないあいだ、データセンターを電池で動かした。電気の問題を、タービンの羽根はスペースXの鋳造で、電池はテスラの工場で、別々の会社として同じ問題を解いている状況というわけです。
なので私には、この合併が「車とロケットを一緒にする話」にも「AIとAIを一緒にする話」にも見えません。同じ建設現場で別の名札を付けて働いている人たちの、名札をそろえる話に見えます。マスクが「協力で得られるものが多い」と言ったのは、たぶん字面どおりの意味です。
持ち上げる前に、冷静になります
「建てる力」は、お金を食います。この四半期の設備投資は約200億ドルで、次の四半期は350億から400億ドルの見込みだとCFOが言いました。手元の現金は530億ドルです。AIを動かす計算機は1年かからずに元が取れるという説明は本当だとしても、建てる速さに現金がついていくかは、来年の決算まで誰にもわかりません。稼ぎ頭も、今のところまだスターリンクです。SI部門は売上こそ最大ですが、営業利益はカーソル買収の株式報酬が重くて薄い。
それと、イーロン・マスクが「2027年末の年間売上の見込みは、1000億ドルから1兆ドルのあいだ」と言った場面。幅が10倍あります。CFOが思わず「クレイジーな話のあとで」とこぼしていて、ここは正直、私も笑いました。
合併のほうは、本人がクギを刺しています。確実だと思っている人がいるが、それは言い過ぎだと。委員会は条件に合意していないし、合意する保証もない。テスラ側は、投票した株ではなく発行済みの全株式の過半数の賛成が要るので、かなり高いハードルだとも言いました。前回の記事で「合併宣言はもう済んでいる」と書いた私としては、これを聞いて少し決まりが悪い。部品が先に一つになっているという読みは変えませんが、書類のほうは、本人が言うとおりまだ何も決まっていません。
予想を書いておきます。12月の株主総会までに合併の発表がある確率は、前回の3割から2割に下げます。委員会ができたのは前進ですが、できたばかりで条件未合意なら、2カ月では間に合わない。2027年中の発表は7割で据え置きですね。
2002年、モスクワ
スペースXができた経緯は、ファンならご存じだと思います。2002年、30歳のイーロン・マスクは、ロシアへ中古の大陸間弾道ミサイルを買いに行きました。欲しかったのは、火星に小さな温室を送るためのロケットです。本人は買う側のつもりでした。向こうは本気にせず、値段は会うたびに上がり、最後は手ぶらで帰ることになった。伝記には、ロシア側の設計者に靴へつばを吐かれたという話まで出てきます。帰りの飛行機で、マスクはノートパソコンを開いて、自分で作ったらいくらになるかを計算し始めました。それがスペースXの原点です。
この会社の出発点は、技術でも夢でもなくて、「売ってもらえなかった」という一点です。売ってもらえないから、自分で作った。作ってみたら、それまで誰も作れなかった帰ってくるロケットになって、気がつけば世界中が買いに来るようになった。軌道に運ぶ質量の9割は、そうやって取ったものです。
それから24年。同じ人が、今度は計算機を借りに回りました。世界最大のクラウド各社を片っ端から当たって、どの店にもチーズがない。それで、またやった。ロケットの鋳造チームにタービンの羽根を作らせて、電力ごと自分で建てた。今、そのAIを動かす計算機を借りようとして行列を作っているのは、あのとき貸してくれなかった会社たちです。イーロン・マスクの言い方では「全員にイエスと言ったら、何倍にも貸せる」。モスクワで相手にされなかった男の前に、グーグルとアンソロピックが並んでいる。この逆転が、今回の決算でいちばん痛快なところです。
それと、もうひとつ。計算機の貸し賃が入る先は、同じ会社の財布です。その財布から、ルイジアナに20基以上の発射塔が建ち、スターシップが来年は週に一度、年末には週に二度飛ぶようになる。イーロン・マスクは説明会で、完全に再利用できるロケットだけが、人類が地球の外で暮らし続ける唯一の方法だと言いました。2002年に温室ひとつを火星に送りたかった男が、火星へ行くロケットの資金を、AIのライバルたちに払わせている。しかも相手は、喜んで列に並んでいる。
スペースXは何の会社になったのか。最初に書いた通り、答えは「何にもなっていない」です。売ってもらえないものを自分で作って、作った途端に売る側に回る。2002年にロケットでやったことを、2026年にAIを動かす計算機でもう一度やっただけです。社名のSpaceも部門名のSIも、この一つの癖に付いた別々の名前にすぎません。
決算説明会の冒頭、スペースXのIR担当者が最初に読み上げたのは「宇宙の本質を理解するために、意識の範囲と規模を広げなければならない」という一文でした。売上の半分がAIになった四半期でも、この会社が最初に口にするのはこの言葉です。そのあとに流れた動画は、先月軌道に着いたフライト14と、来月のフライト15でロケットを丸ごと発射塔で受け止めるシミュレーション。成功すれば、軌道まで行ったロケットを一機まるごと回収した、人類で最初の会社になります。
ロケットは、売上の1割になりました。それでもこの会社は、決算の最初にロケットが帰ってくる映像を流しました。AIで稼いだお金で何を建てているのかは、言葉で説明するより、あの映像のほうが早い。来月、そのロケットが帰ってきます。

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

