特集&エッセイ

CATL「M3Pバッテリー」採用で、テスラ新型モデル3ハイランドがより快適で豪華に?

EVcafeで考える 第4回

by がす

 こんにちは、がす、です。

 さて、7月7日にテスラのギガ上海工場で、電池組立ラインの従業員の解雇(レイオフ)が始まったというニュースが、ブルームバーグ・ニュースの報道で流れました。

 「テスラはまたコストダウンしているのかな?」程度に思った人も多いかもしれませんが、実はこのニュースは、テスラの中国の新型モデル3の方向性が判明した重要なニュースだったのです。

テスラのギガ上海工場で、電池組立ラインの従業員のレイオフがはじまりました(写真提供元:Tesla, Inc. )
テスラのギガ上海工場で、電池組立ラインの従業員のレイオフがはじまりました(写真提供元:Tesla, Inc. )

 このニュースとつながるのは、中国にある世界最大手のEV用のバッテリーメーカー、CATLの動向です。先週から、CATLの新しいバッテリー「M3Pバッテリー」が新型モデル3に搭載されるという情報が流れていましたが(現時点では、テスラ側からの発表はありません)、ギガ上海の電池組立のレイオフのニュースを聞いて、それが確実になったと思いました。

 この「M3Pバッテリー」は、2022年7月にCATL主催のカンファレンスで量産することが発表されました。(その2年前には、テスラの協力の元、CATLがこの新バッテリーを開発しているというニュースも流れていました)。「M3Pバッテリー」は、新材料がポイントでLFPバッテリーの系列ですが、リン酸鉄リチウムよりエレルギー密度が高く、三元系リチウムバッテリーよりコスト面で優れていると言われています。

世界の展示会で注目を浴びるCATLの技術  (Photo by Sean Gallup/Getty Images)
世界の展示会で注目を浴びるCATLの技術  (Photo by Sean Gallup/Getty Images)

 CATLは2022年に、「M3Pバッテリー」を搭載した中型EVでは、航続距離700km (435マイル)以上を目指していると言っており、中国メディアの情報では新型モデル3ハイランドではバッテリー容量を60kWhから66kWhに増強するということなので、CATLの「M3Pバッテリー」を搭載した新型モデル3の航続距離は700kmと、現行のモデル3より大幅に伸びることが予想されます。

 ここまではバッテリーの話なのですが、「ギガ上海工場の電池組立ラインの従業員解雇(レイオフ)」のニュースから読み解くと、CATLはこの「M3Pバッテリー」だけを単にギガ上海に納品するのではなく、CATL社内で組み上げられた構造パック(モデル3の車体の一部に組み込まれた形)で納品するのでは、と考えられます。

 つまり、以前から発表されていたCATLの「M3Pバッテリー」の優秀な性能と低コストおよび量産力をテスラが認め、しかも、自社のラインもスキップし、M3P構造パックごとCATLに注文することをテスラは決断したということです。そして、その「M3Pバッテリー」はテスラの重要な新型モデル3に投入されます。

 ここまで聞いて、「ん?」と思うのは私だけではないでしょう。「テスラが開発した新しい4680セルのバッテリーはどうなるの?」と思った人も多いかもしれません。裏を返せば、ギガ上海で作る新型モデル3などには、自社の「新4680バッテリー」を使用しないということをテスラが決断したということになるのです。

テスラの「新4680バッテリー」 (Photo by Alamy/アフロ)
テスラの「新4680バッテリー」 (Photo by Alamy/アフロ)

 ギガテキサスでは「新4680バッテリー」を搭載したモデルY、サイバートラック、テスラセミが製造されます。「新4680バッテリー」は、既にパイロット版も含めて100万個以上生産され、ギガテキサス産のモデルYに搭載して販売しています。しかし製造、販売しながらも「『新4680バッテリー』の性能、量産ラインも含めて、まだまだ改良の余地がある」とイーロン・マスクは語っています。現実的には、全世界で販売するテスラEV全てに供給するには、「新4680バッテリー」はまだ全然足りません。それはテスラも以前から分かっており、テスラ以外にも日本のパナソニックやLG Energyなども、テスラの「新4680バッテリー」を生産するために工場などに莫大な投資をして準備していますが、それはまだ先のこととなります。そういった状況を以前から分かっていたため、テスラは発売から6年を経過したモデル3のモデルチェンジをする必要がある中、新型モデル3ハイランドに搭載するのを、「新4680バッテリー」ではなく、CATLの「M3Pバッテリー」にすることは、恐らく以前から計画されていたことだったのでしょう。

ロサンゼルスのピーターセン自動車博物館「Inside Tesla」展示で展示されているテスラモデルY用のテスラ4680バッテリーパックの詳細図 (Photo by Newscom/アフロ)
ロサンゼルスのピーターセン自動車博物館「Inside Tesla」展で展示されているテスラモデルY用のテスラ「新4680バッテリーパック」の詳細図 (Photo by Newscom/アフロ)

 日本で売られているモデル3はギガ上海製ですから、日本で発売される新型モデル3ハイランドもCATLの「M3Pバッテリー」となります。(既に現行のモデル3のLFPバッテリーもCATL製です)。だからと言って「な〜んだ、テスラの『新4680バッテリー』じゃないのか」とガッカリする必要はありません。というのは、先ほどのイーロン・マスクの発言にあるように「新4680バッテリー」は、まだその真価を発揮していませんし、おそらくそれができたとしてもバッテリーによって性能の差が出ないようにテスラは調整してくるはずです。そして、テスラの「新4680バッテリー」の主目的は性能ではなくて、「コストダウン」にあるということを思い出してください。そして、「コストダウン」という目的は、「新4680バッテリー」でなくともCATLの「M3Pバッテリー」で達成できるということです。

 さて、その「コストダウン」についてです。テスラの自社EVのコストダウンは単に利益を増やすことだけが目的ではないことにも注目してください。テスラのコストダウンはEVそのものの価格をさげたり、競合EVと戦うためでもありますが、テスラはコストダウンした分を他のよりよい装備や性能に還元していく傾向があります。つまり、今回CATLの「M3Pバッテリー」を構造パックごと新型モデル3ハイランドに投入してコストを下げることで、より快適で豪華になる内装、噂にある新型モデル3に搭載されるベンチレーションシート(シートクーラー機能)、噂されるサウンドシステムなどの内部の搭載コンピューターなどが、値段を上げずに実現される可能性があるということなのです。

 今回のテスラの決断で、新型モデル3ハイランドの登場がますます楽しみな状況となりました。9月生産開始とのことですので、引き続きEVcafeでもそのニュースを追いかけたいと思います!

参照記事: Bloomberg「テスラ、上海工場で電池手掛ける一部従業員のレイオフ開始-関係者

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-07-07/RXES0ST1UM0W01

がす(来嶋 勇人)

 福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

 プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。

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