特集&エッセイ

凄かった「イーロン・マスクの週末」。しかし、何かやり残してないか? 「モデル2」はどこに行った?

by EVcafe編集長 駒井尚文 @tesla365days

 2024年10月2週目の週末は、「イーロン・マスクの週末」となりました。まず、日本時間で10月11日(金)のお昼頃に、テスラが「We, Robot」というイベントを実施し「ロボタクシー(サイバーキャブ)」、「ロボバン」という2つの自動運転EVを、また、人型ロボットの「オプティマス」の最新型を披露しました。

テスラが「We, Robot」で披露した「ロボタクシー(サイバーキャブ)」(右)と「ロボバン」(左)

 そして10月13日(日)の夜には、スペースXが全長120メートルの超大型ロケット「スターシップ」の5回目の打上実験を実施。打上は見事成功し、打上後に発射台まで帰還してきたブースターロケットを「メカジラ」と呼ばれる発射台のチョップスティック型触手がキャッチするという離れ業を披露して、世界中から大喝采を浴びました。

 もちろん、テスラもスペースXもイーロン・マスクが経営する会社です。そして同じ週に実施されたこの2つのイベントは、いずれも「10年に1度、見られるかどうか」という類のイベント。ここで、イーロン・マスクから提示された未来は大まかに3つ。「自動運転の自動車で、人々が安価に簡単に移動できる未来」「人型ロボットが、自宅や仕事場などで人間を手助けしてくれる未来」「人類が、火星まで到達し、そこで生活できるかも知れない未来」といったところでしょう。

イーロン・マスクが提示した人型ロボットが人間を手助けしてくれる未来

 さて、その週末のイベントで個人的にとても気になったのは、「We, Robot」におけるロボタクシー(サイバーキャブ)の発表です。これに、かなりの物足りなさを覚えたのです。

 EVcafeでは10月8日に、「We, Robotでテスラが3つの新しい車両を発表するかもしれない。その3つとは『モデル2』『ロボタクシー(サイバーキャブ)』『サイバーバン』です」というアナリストの予測を紹介しました。

 実際にはどうだったでしょうか? 「ロボタクシー(サイバーキャブ)」と「サイバーバン(ロボバン)」については、確かにプロトタイプモデルがお披露目され、聴衆は熱狂していました。イーロン・マスクは、ステアリングもペダルもない車とそこに搭載されたFSDソフトウェアが人々を運ぶ、新たなモビリティの時代の到来を宣言。

 しかし、これまでのテスラ車でもっとも安価でもっともコンパクトな車両となるはずの「モデル2」(通称)は発表されませんでした。個人的に、とても残念でした。何故ならば、私もその車を購入したいと思っているからです。そしてテスラの株主大勢にとっても、これはバッドニュースとなりました。

 投資家の不満を代弁すれば、「そもそもFSDだっていつ完成するか分からないのに、そのFSDに運転を任せるロボタクシーなんて、何年後に販売できるか分からないよね。それより、世界中でバカ売れ確実な『モデル2』をとっとと出してくれよ!」という感じではないかと。

 この不満を裏付けるように「We, Robot」イベントの翌日のナスダック市場で、$TSLA株は8.78%もの下落を記録してしまったわけです。

話題の「We, Robot」イベントの翌日、$TSLA株は8.78%の下落に

 モデル3よりも安価でコンパクトで、テスラ車の販売台数を飛躍的に伸ばす可能性を秘めたモデル2(通称)は、どこに行ってしまったのでしょうか?

 状況を整理するために、2023年に出版された評伝「イーロン・マスク」に戻ってみましょう。下巻の第80章に「自律運転にオールインする」という章があります。2022年の夏、マスクたちは次の新型車種についての結論を出そうとしていました。ハンドルやペダル、サイドミラーなどを装備した車を作るか、真に自律的な車にするのか。つまり、ロボタクシーを作るか、モデル2を作るのか。

 こんな会話が行われたようです。

 ホルツハウゼン「ハンドルなしで進め、FSDが完成しなかったら、道を走らせることができなくなります。簡単に取り外せるハンドルとペダルを用意するのがいい」

 イーロン「だめだ。ミラーなし、ペダルなし、ハンドルなしだ。責任はオレが取る」

 ホルツハウゼン「小さいヤツにしますから。簡単に取り外せて、設計に支障が出ないような」

 イーロン「この車はまごうかたなきロボタクシーにする。そのリスクを取る。この製品は、歴史的なメガ革命になるものなんだ。これが完成すればすべてが変わる。そしてテスラは10兆ドル企業になる」

ウォルター・アイザックソン著の評伝「イーロン・マスク」に掲載されたロボタクシーのコンセプト

 イーロン・マスクは、ロボタクシーとモデル2の両方に使えるボディを作るというホルツハウゼンの案を却下しました。それでもホルツハウゼンは、ひそかにこの企画を進めます。テスラが年率50%で成長するためには、安価な小型車が必要だと。2万5000ドルの車とロボタクシーなら、プラットフォームも組立ラインも同じものにできると。

 しかし、イーロン・マスクはこの車が「興奮するような製品じゃない」とあまり乗り気ではありません。

 当初、メキシコに新しくできる予定だったギガファクトリーで製造するはずの新型車でしたが、イーロン・マスクは2023年5月に、とりあえずオースティンで作ることを決断。そうすれば、自分も精鋭部隊も超自動化高速組立ラインのすぐ横にいることができる。要は、ホルツハウゼンに妥協したようだと。

 以上が「イーロン・マスク」下巻80章の要約です。

 この内容を読み直したあと、改めてサイバーキャブの写真を見てみましょう。自動運転ではなく、自分で運転する車「モデル2」だと想定して。

サイバーキャブ

 サイバーキャブは、現行のモデル3をひとまわり小さくしたようなスタイルです。では、どれぐらい小さいのか。

テスラ モデル3

 サイバーキャブのインテリア、センターコンソール部分をご覧ください。ドリンクホルダーがタテに2つ並んでいます。

ドリンクホルダーがタテに並ぶサイバーキャブのインテリア

 モデル3では、ドリンクホルダーは横に2つ並んでいます。なので、車幅はモデル3より、少なくとも10センチは小さくなるはずです。もっと小さいかも知れません。

モデル3のインテリアではドリンクホルダーが横に並ぶ

 また、サイバーキャブは2シーターです。モデル3の後部座席のピッチはおよそ70センチほどあるので、その分を詰めると全長は4000mm程度というところでしょうか。そして、全高をモデル3と同じとすれば、サイズの予測はこうなります。

 サイバーキャブ 全長×全幅×全高 4000x1750x1440mm(ざっくりの予想です)
 モデル3 全長×全幅×全高=4720x1850x1440mm

 サイバーキャブは、テールゲートやルーフがガラスではありません。テスラらしくない外観ですが、もしも自家用型のモデル2が派生するなら、そっちはこれまで通りガラスを使う可能性も考えられます。

テールゲートやルーフがガラスではないサイバーキャブ

 「モデル2」は、サイバーキャブ同様の2シーターでも売れそうですが、2+2のシートレイアウトも用意すれば、さらに売れるでしょう。かつて、北米仕様のモデルYに7人乗りがあったように、2+2は十分可能な印象です。

 以上、まだまだ語りたいことはたくさんありますが、個人的には「サイバーキャブ ≒ モデル2」だとジャッジしました。あくまで個人的な意見です。コンパクトなモデル2は、道路の狭いアジアやヨーロッパで大ヒットするのは間違いありません。

街にも馴染むデザインのサイバーキャブ。「サイバーキャブ ≒ モデル2」であれば、コンパクトなモデル2はアジアやヨーロッパで大ヒットする可能性も

 我々の日本市場を考えてみましょう。ライドシェアさえ満足に普及させることができない日本です。自動運転も実現する可能性がまったく感じられません。EVの普及状況についても、例のごとく完全にガラパゴスな日本の道路を、サイバーキャブが走り回る未来は1ミリも想像できません。ならば、自分で運転するからモデル2を早く売ってくれ!ってなりますよね。

 そして、「興奮するような製品じゃない」というイーロン・マスクの不興をよそに、彼の右腕であるカーデザイナー、フランツ・フォン・ホルツハウゼンが見事な匠の技を披露したのが「We, Robot」イベントの隠れた真実ではなかったかと思うのです。

 次にイーロン・マスクが投資家の前に登場するのは10月23日の決算発表です。これは楽しみになってきました。決算の内容そのものよりも、モデル2に関するイーロンの発言に大注目ですね。

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