ステランティスは2026年5月21日、2030年までの5カ年戦略計画「ファストレーン2030(FaSTLAne 2030)」を発表しました。総額600億ユーロ(約11兆円)を投じる事業立て直し計画で、米国ミシガン州オーバーンヒルズの北米本社で開いた投資家向け説明会で明らかにしました。急速なEV移行路線を転換し、バッテリーEVと並んでハイブリッドや内燃機関車を幅広く残す「多様な駆動方式(マルチエナジー)」へ舵を切った点が注目されます。
計画の柱となるのが、2030年までの車種展開です。全ブランドで60車種以上の新型車を投入し、さらに50車種を超える改良を行います。新型車と改良車を合わせた110車種超のパワートレイン別内訳は、バッテリーEVが29車種、プラグインハイブリッドおよびレンジエクステンダー方式のEVが15車種、ハイブリッド車が24車種、内燃機関・マイルドハイブリッド車が39車種です。純粋なバッテリーEVは全体の3割弱にとどまり、エンジンを積む車が多数を占めます。EVへの全面移行を急ぐのではなく、多様なパワートレインで顧客の選択肢を広げる狙いがうかがえます。
この方向性は、前経営陣からの大きな路線転換にあたります。ロイターの記事によると、14ブランドをほぼ手付かずで残し新技術開発に多額を投じたカルロス・タバレス前CEOと異なり、アントニオ・フィローザCEOは、収益性の高いブランドへの集中と、高額な技術開発の外部委託に踏み込んでいます。実際、自動運転技術ではスタートアップのウェイブに開発を委ねるなど、自前主義からの転換が鮮明です。
なかでも力を入れるのが米国市場です。最重点とする北米では、11車種の新型車を投入して販売台数を35%増やすほか、価格を抑えた新商品として4万ドル以下を7モデル、3万ドル以下を2モデル投入します。ブランドおよび商品への総投資額360億ユーロのうち60%を北米に配分する計画です。高価格路線で顧客離れを招いた前体制からの軌道修正がうかがえます。
生産体制も見直します。欧州では生産能力を80万台以上削減し、稼働率を現在の60%から2030年までに80%へ引き上げます。欧州の工場は需要に対して設備が余り、稼働率が6割程度まで落ち込んでいました。ロイターは、ステランティスがこの余った生産能力を活用し、欧州では中国メーカー、米国ではタタ・モーターズ傘下のJLRといった他社の車を請け負う受託生産に乗り出して、新たな収益源に変えようとしていると報じています。提携の拡大もこの一環。出資比率51%のリープモーター・インターナショナルを通じてリープモーターとの協業を広げ、東風汽車とは中国の合弁会社DPCAでプジョーとジープ計4車種を生産します。ソフトウェアやAI、バッテリー技術では、クアルコム、NVIDIA、Uber、CATLなどとの提携を進めます。
EV計画自体は維持されます。欧州では、手ごろな価格の都市向け新世代EV「E-Car」の生産を、イタリアのポミリアーノダルコ工場から開始します。今回の計画が示すのは、EV一本化を急ぐのではなく、市場や各国の政策の動向を見極めて複数の駆動方式を併存させる路線への転換だと言えます。

