スペースXは、2026年5月22日のスターシップ打ち上げのタイミングで、2つの有人フライバイミッションについて発表しました。まず月周回フライバイを行い、その後スターシップ初の惑星間有人ミッションとして火星フライバイを行う計画で、両ミッションに搭乗するのは、世界初の有人極軌道ミッション「Fram2」のミッション・コマンダーを務めたチャン・ワン氏です。発表は、スターシップの打ち上げ中止(翌日への順延)が決まった5月21日の中継中というサプライズのかたちで行われました。
メインとなる火星フライバイミッションは、スターシップ初の惑星間有人飛行です。チャン・ワン氏がミッション・コマンダーを務め、地球〜月系を離れた後に火星をフライバイして帰還する、約2年間に及ぶ深宇宙ミッションとなります。
Fram2’s Mission Commander @satofishi is set to fly aboard Starship’s first interplanetary human spaceflight mission → https://t.co/7ehxZJSGXd pic.twitter.com/YkzvgDxMC9
— SpaceX (@SpaceX) May 21, 2026
その事前ステップとして、チャン・ワン氏はまず、デニス・チトーとアキコ・ティト夫妻とともにスターシップの月周回フライバイミッションに搭乗します。月面から最接近距離200km以内を通過する約1週間のミッションで、深宇宙・長期飛行に向けたスターシップのシステム実証を目的としています。
今回の発表には、スペースXとフライバイ計画の長い歴史が重なります。
デニス・チトー氏は2001年に自費で国際宇宙ステーションを訪れた「世界初の宇宙旅行者」として知られていますが、火星への夢は20年以上前から持ち続けていました。2013年、チトー氏は非営利団体「Inspiration Mars Foundation」を設立し、既婚夫妻2名を乗せた火星フライバイミッションを計画。2018年1月の打ち上げを目標に掲げましたが、NASAとの協力交渉が実らず資金調達も難航し、構想は2015年頃に実現することなく終わりました。
一方で月周回フライバイの夢を追ったのが、日本の実業家・前澤友作氏です。前澤氏は2018年9月にスペースXとの契約を発表し、スターシップに8名のアーティストを乗せて月を周回する「dearMoon」プロジェクトを始動させました。2023年の打ち上げを予定していましたが、スターシップの開発が想定より遅れたことで時期は延び、前澤氏は「いつ打ち上げられるかが依然として不明」として2024年6月にキャンセルを発表しました。
ティト夫妻の月フライバイ計画が初めて公表されたのは2022年のことです。デニス・チトー氏と妻のアキコさんがスターシップでの月周回フライバイに搭乗予定であると発表され、今回のチャン・ワン氏の合流はその続報となります。
こうした経緯を経て、スターシップは今回初めて2つの民間有人フライバイミッションを正式に発表するに至りました。スペースXはこれまでに、ドラゴン宇宙船で20か国78名の宇宙飛行士を20回にわたって安全に輸送した実績を持ちます。

スターシップ自体の開発は着実に進んでいます。最新世代のスターシップV3は2026年5月22日に12回目のテスト飛行を実施し、大半の目標を達成しました。有人の惑星間ミッションに向けては、宇宙空間での燃料補給の実証、2年間の長期滞在を支える生命維持システム、深宇宙での放射線対策といった技術開発が引き続き進められています。発表時点で打ち上げ日程は示されていません。
なお、今回の発表はスペースXがSECに評価額1兆7500億ドル(約270兆円)でIPO申請書を提出した翌日に行われています。宇宙旅行の未来を民間に開くというビジョンが、着実に現実へと近づいています。

