EVcafeで考える 第36回
by がす
2026年8月上旬、テキサスから大型ニュースが立て続けに出ました。まず8月6日、テスラとスペースXが共同で進める半導体工場「テラファブ」の建設地がグライムズ郡に正式決定。第一期投資168億ドル。その翌日、今度はテスラがフォートベンド郡に総額101億ドル、日本円で約1.6兆円の太陽電池工場の建設を申請していたことが判明しました。社内コードネームは「Project Crystal Sun」。
1週間で合計270億ドル。景気のいい話ですが、正直、最初にこの太陽電池工場のニュースを見たときの感想は「え、今更?」でした。
テスラは2016年にソーラーシティを買収していて、ニューヨーク州バッファローに太陽光パネル工場を持っています。ソーラールーフの立ち上げに苦労して、事業としてはずっと地味な存在でした。EVとMegapackが主役になった今、なぜ太陽電池に過去最大級の投資金額をぶち込むのか。
調べていくと、これはバッファローの延長線上の話ではまったくないことが分かってきました。
バッファロー工場との決定的な違い
申請書に記載された設備リストを見ると性格の違いが分かります。インゴット製造装置、ウェハー製造装置、コーティング、メタライゼーション、印刷ライン、セル検査、クリーンルーム。つまり原料のシリコンの塊から最終モジュールまで、全工程をひとつ屋根の下でやる構えです。
ここが重要なところで、米国の「太陽光パネル製造」と呼ばれるものの大半は、実はアジアから輸入したセルを組み立てるだけのモジュール工場です。バッファローも基本はその型でした。インゴットからモジュールまでの一貫生産は中国のやり方で、テスラはそれをテキサスで丸ごと再現しようとしています。
敷地は約3050エーカー、ヒューストン郊外のリッチモンド近郊。常用雇用9712人。2026年着工、2028年完工、2029年第1四半期に商業生産開始。テスラの求人情報には「2028年末までに、米国の土地の上で原材料からの太陽電池製造100GWを展開する」と書かれています。
年間100GW。バッファローの生産能力の300倍前後です。今更どころか、規模の桁が3つ違う話でした。
関税のジレンマと、機械だけ買うという抜け道
なぜ内製なのか。マスク自身が今年1月のダボス会議で答えを言っています。米国の太陽光モジュールへの関税障壁は極めて高く、太陽光導入の経済性が人為的に悪化している、と。中国は年間1500GWの太陽電池生産能力を持ち、実際に年間1000GW以上を設置している。米国の平均電力消費が約500GWなので、中国は太陽光だけで米国の全電力を賄える計算になります。
それで、テスラが取った手が面白い。完成品のパネルには重い関税がかかりますが、パネルを作るための製造装置は関税免除の対象です(2024年に301条関税から除外され、免除は2026年11月まで延長されています)。3月のロイター報道によると、テスラは蘇州マックスウェルなど中国メーカーから約29億ドル分の太陽電池製造装置の調達交渉を進めていました。
中国のパネルは買えない。なら中国の機械を買って、テキサスで自分で作る。関税の壁を製造装置ごと迂回する戦略です。しかもこの8月、トランプ政権はポリシリコンに価格フロアと15%の追加関税を発表しました。輸入品はどんどん高くなる。国内一貫生産の価値は上がる一方です(もっとも、中国側も商務省がPV関連の輸出管理を強めていて、マックスウェルの輸出許可が下りるかはまだ不透明ですが)。
それでも残る疑問。100GWは誰が使うのか
ここまでは「米国内製造回帰」の話として綺麗にまとまります。ただ、私が引っかかったのはこの生産規模です。米国の全発電容量が約1300GW、うち太陽光は135GW程度。そこに単独で年間100GWの生産能力を積む。Megapack併設の地上設置需要だけで消化できる数字には見えません。
補助線を引くと見え方が変わります。スペースXは今年1月、FCCに対して100万機のAIデータセンター衛星の打ち上げ認可を申請しました。3月のテラファブ発表イベントでは、マスクがミニAIデータセンター衛星のレンダリングを公開しています。1機あたりの電力は100kW。
計算してみます。100kW掛ける100万機で、ちょうど100GW。
テスラの太陽電池工場の年間生産目標と、構想中の衛星コンステレーション全体の電力規模が、桁までぴったり合います。工場のフル生産1年分が、コンステレーション1周分。私はこれを偶然とは読みません。宇宙用の太陽電池は従来ガリウム砒素系の超高コスト品で、年間数GWの量産すら無理な世界でした。スターシップの打ち上げコストを前提にすれば、安いシリコンセルを地上で爆量生産して宇宙に運ぶほうが合理的になります。そのための原料一貫工場です。
テキサスに並んだピース
地図を見ると、配置の意図も分かります。グライムズ郡にテラファブ(AI半導体、年間1TW分の演算能力が目標)。フォートベンド郡にCrystal Sun(太陽電池100GW)。ウォーラー郡ブルックシャーにMegapack工場。オースティンにギガテキサスと本社。ボカチカにスターベース。全部テキサス州内、ヒューストンを中心に車で数時間圏内です。ボカチカは少し遠いかな、でも6時間です。

こうして並べると、マスク帝国の各社がもともと持っていた得意技が、全部この一点に向かって噛み合っていることに気づきます。テスラの太陽電池とバッテリーとFSDで鍛えた省電力AIチップ。xAIのコロッサスで培った超大規模データセンター運用。スペースXのスターシップと、スターリンクで実証済みの数万機規模の衛星自律運用。
NVIDIAはチップは作れてもロケットを持っていません。ボーイングは衛星は作れても先端AIチップを内製できません。グーグルやマイクロソフトは地上のデータセンターで電力不足に直面しても、宇宙にメガワット級の計算機を打ち上げる手段がありません。半導体、太陽電池、蓄電池、ロケット、衛星運用、AIモデル。この6枚を全部自前で持っている企業グループは、世界にひとつしかありません。
冷や水も浴びせておきます。スペースXのS-1にはテラファブについて「一般的な枠組みであり拘束力のあるコミットメントはない」と書かれています。100GWを2028年末までに、というのもマスクのタイムラインですから、素直に信じるほうがどうかしています(私はサイバートラックの発売時期を信じた人間なので、この手の割引には慣れています)。テラファブの当初発表額も250億ドルから168億ドルの「第一期」に化けました。
それでも、州への申請書、FCCへの認可申請、中国装置メーカーとの調達交渉、郡への1000万ドルの前払い。ここ半年で積み上がっているのは構想ではなく書類と支出です。バラバラに見えていたニュースを並べ直すと、太陽光、バッテリー、AIチップ、ロケット、衛星網が一枚の絵になり、宇宙×AI×エネルギー複合体として実際に動き始めた。1.6兆円の太陽電池工場は、その絵のいちばん地味で、いちばん欠かせないピースだと私は読んでいます。

がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。

