EVcafeで考える 第15回
byがす
こんにちは、がすです。
テスラのサイバートラックの納車が、いよいよ来月、2023年11月30日に開始されます。納車は2024年以降になるだろうと思われたサイバートラックですが、テスラはこの今までにない異例づくしのEVトラックを、「まずは出す」ことを優先すると決断しました。
https://www.tesla.com/cybertruck-delivery-event
異例づくしというのは、今までにないということですが、それは単純にサイバートラックのポリゴンのような新しいデザイン文法だけが理由ではありません。
テスラは、今までどんな自動車メーカーも使ったことのないフィンランドのサプライヤー「Outokumpu Oyj社」から、新しいサイバートラックの外装用ステンレス鋼パネルを調達し、この型破りな電気自動車に採用しました。
中身も通常は数十点以上の板金部品で作られるフレームを、丸ごと鋳造で一体物として作る製法「ギガキャスティング」で製造します。さらには重量の重いEVであるサイバートラックのコストダウン策として、高電圧パワートレインになる「800ボルトアーキテクチャー」を採用します。
バッテリーにはテスラが開発した新4680バッテリーセルの強化版を使用します。テスラは新4680バッテリーセルを既に2000万個生産しています。
https://x.com/Tesla/status/1712141348038488439?s=20
しかし、その新4680バッテリーセルは、まだテスラが目標とする生産量、歩留まり率までいっていません。まだサイバートラックにまわせるほどの生産量は担保できていないのです。テスラは、ギガテキサス製モデルYの一部のモデルに4680セルを使用していますが、今回、そのモデルの販売を停止してまでサイバートラックに割り当てようとしています。
つまり、製法から内部からバッテリーまで、テスラにとってあらゆることが新しい試みであるEVを、急ぎ発売しようとしているわけです。
なぜイーロン・マスクはこんなにもサイバートラックの発売を急ぐのでしょうか?
その答えの前に、サイバートラック発売のインパクトの大きさは、10月18日のテスラの決算発表に関するイーロン・マスクの発言で、あらためて浮き彫りとなりました。その内容に驚く人も多かったと思います。
イーロン・マスク「私はこのクルマ(サイバートラック)に乗ったことがある。素晴らしい製品だ。サイバートラックの量産、そしてサイバートラックのキャッシュフローを黒字にするためには、非常に大きな課題があることを強調しておきたい」
サイバートラックは当分の間、テスラにとって全然儲けにならないEVということです。テスラはサイバートラックを発売することで、当面はお金を失うことになり、プラスのキャッシュフローを生み出すまでに1年半かかるとイーロン・マスクは予測しています。
テスラのサイバートラックの価格は、この原稿を書いている10月30日の時点で、テスラから公式にまだ発表されていません。2019年当時のテスラのサイバートラックの公式予約ページには、後輪駆動のベースモデルの価格は3万9900ドルで、2モーターバージョンの価格は4万9900ドルでした。
サイバートラックは、どうやら当初予告していた価格では販売できそうにないようです。最近、予約ナンバーが500番以内に入っている複数の予約者(米国)に、テスラから購入確認の連絡が来ているようです。
彼らによれば、トライモーターモデルで9万8990ドル(約1484万円)とのことでした。発表当時と比べるとインフレによって経済状況も変わっています。そしてテスラが開発中に細部を作りこんでいく過程では、800V採用やさらに巨大なギガキャスティング製法の試みなど、色々とテスラ社自体の生産の進化にもつながるチャレンジが含まれていて、むしろ抑えられた価格ではないか、と私は思いました。モデルX Plaidが1600万円ですから、「色々新しい試みを織り込んだ割には、そのラインを越えなかった」という印象です。
先ほどのイーロン・マスクの発言からサイバートラック(トライモーター)は9万8990ドル(約1484万円)で、ほとんど儲けがない。つまり赤字ということです。しかし、その価格をつけたということは、生産量やコストダウンによって、発売後に黒字化していく自信があるということでもあります。
当初は物珍しさや話題性で高くても売れるでしょうが、売れ「続け」なければならない。本当はもっと工場の製法や、サプライヤー、バッテリーなどを先にコストダウンしてから発売したいと現場は思っていたはずです。「このままでは売れ続けなければならないから不安」だと。
そんな事情もあるかと思うのですが、テスラはあれほどやらないと言っていたEVの広告を開始しています。
https://x.com/Gusfrin92486024/status/1716560173714842013?s=20
広告に関するイーロン・マスクの考えが変わった背後には、タイミング的に見てもサイバートラックの販促を広告でしたいからだとみています。実際、テスラはサイバートラックをアイスランドに持ち込んで、氷上を走る公式ビデオを大規模に撮影していて、これは、みんながサイバートラックを欲しくなるような広告に仕上がるはずです。
https://x.com/Gusfrin92486024/status/1693380731844899320?s=20
そして発売を急ぐ理由のひとつには、テスラの「完全自動運転」の完成があります。テスラはAIの完全自動運転を実現し、2023年の年末、もしくは2024年早々には大きく発表するはずです。つまり、すでに発売されているテスラのEVでも、ダウンロードすれば自動運転が利用できるということなので、今までにないインパクトを伴ってテスラ車が売れる理由になりそうです。
そのラインアップにおいてサイバートラックが「開発中」よりは、すでに発売されていて「注文すれば買える」状態である方が、完全自動運転が使えるという機能も加わり、サイバートラック自体の販促としても非常に効果的です。
あわせて、テスラは一刻も早くサイバートラックを大量に公道に走らせてAI自動運転用に学習する走行データが大量に欲しいと思われます(サイバートラックは他のテスラEVと違ってフロントバンパー真ん中にカメラが追加されています)。
さて、賽は投げられたわけですが、11月30日の納車イベントで、テスラの未来を背負った、異例づくしのサイバートラックがついに世に送り出されます。テスラと、イーロン・マスクは我々にサイバートラックをどう伝えてくるでしょうか?
私はX(旧Twitter)でのライブ放送でこのイベントを観たいと思いますが、イーロン・マスクがここまでの賭けに踏みきったサイバートラックが、ついに発売され、ユーザーの手に渡ることを「まずは」祝いたいと思います!
引き続きEVcafeではサイバートラックのニュースを独自の視点で追いかけていきたいと思いますので、よろしくお願いします!
(写真提供元:Tesla, Inc. )
がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。
プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。
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