米国郵政公社(USPS)が2024年8月より新型の電動配達車両を導入し、ジョージア州アトランタで運用を開始しました。この取り組みは、老朽化した現行車両の問題を解決すると同時に、郵便サービスにおける環境への配慮を示す重要な一歩となっています。
現在USPSが使用している主力配達車両は、1987年に導入されたグラマン社製の「ロングライフ・ビークル(LLV)」です。これらの車両は当初の想定寿命25年をはるかに超えて使用されていて、現在、多くの問題を抱えています。
LLVは燃費効率が極めて悪く、1ガロン(約3.8リットル)あたりわずか9マイル(約14.5キロメートル)しか走行できません。また、メンテナンスコストが高く、夏季には車内が灼熱地獄と化し、古風な電動ファンだけでは冷却が追いつかず過酷な労働環境を配達員に課してきました。
さらに、ミラーの調整が難しく、完璧に合わせないと車両周囲の視界が確保できないという問題もあります。そして、最も深刻なのは、2023年だけで約100台の車両で火災が発生し郵便配達員と郵便物の安全を脅かしたことです。
これらの問題を解決するため、USPSはEVを中心とした「次世代配達車両(NGDV)」の導入を開始しました。新型車両は、その独特な外観から話題を呼んでいます。背が高く不格好な形状で、大きなフロントガラスと、アヒルのくちばしのようなボンネット、そして巨大なバンパーが特徴的です。
しかし、その外見とは裏腹に、新型車両は機能性と快適性において大きな進歩を遂げています。エアバッグ、360度カメラ、死角モニター、衝突センサー、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)などが標準装備され、郵便配達員の安全性が大幅に向上しています。そして、これまでの配達車両に搭載されていなかったエアコンが全新型車両に装備されています。
AP通信によると、新型車両の導入に対する郵便配達員の反応は非常に好意的なようです。ジョージア州アセンズの郵便配達員アビス・ストナムさんは、「(デザイナーたちは)外観を考慮しなかったのは明らかですね」と冗談めかして述べつつも、新車両のエアコンを使った時の感想を「本当に、天国が目の前に吹き付けてきたような気分でした」と振り返りました。
別の配達員リチャード・バートンさんは、大型の荷物スペースを特に気に入っていると述べています。これにより、より多くの荷物を一度に運ぶことができ、配達の効率が向上します。また、車内で屈む必要がないため、腰痛のリスクも軽減。バートンさんは、古い車両が交通渋滞中によく故障したという問題も指摘しており、新型車両の信頼性向上に期待を寄せています。
全国郵便配達員協会のブライアン・レンフロー会長は、「組合員たちは新しい車両に熱狂しています。かつてのジープから現行のグラマン車への移行時と同じように、大きな前進だと感じています」と述べ、ルイス・デジョイ郵政長官の迅速な導入への取り組みを評価しています。
USPSによると、現在の22万台以上の老朽化した郵便車両を、2028年までに10万6000台新しくする予定で、そのうち少なくとも6万6000台がEV配送車両となります。具体的には、6万台のNGDVのうち少なくとも75%(4万5000台)がEVとなり、さらに2万1000台の市販のEVも導入する計画です。
この大規模な電動化計画は、バイデン政権の支援を受けています。USPSの発表によると、インフレ削減法に基づく30億ドルの資金提供を含む、今後5年間で96億ドルの投資が行われる予定です。USPSは、2026年以降に購入する新型配達車両を100%電気自動車にすることを目指しています。
デジョイ郵政長官は、「私たちには週6日間で1億6300万の配達先に郵便物と小包を届けるという法定の義務があります。それをより環境に配慮した方法で達成できるのであれば、そうします」とコメントしています。また、この取り組みにより、USPSは2030年までに炭素排出量を40%削減することを見込んでいます。
USPSの新型EV配達車両の導入は、アメリカの郵便サービスに、安全性と効率性の向上、環境への配慮、そして従業員の労働環境改善を同時に実現する、大規模な公共サービス電動化のモデルケースとして注目を集めています。
写真イメージ:USPS