米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領との電話協議によって、世界から注目を浴びるロシア。ウクライナ侵攻による経済制裁のため、EVを含む自動車の輸出制限が続く中、現在、同国の自動車・EV市場は、どのようになっているのでしょうか?
ロシアの市場調査会社オートスタットは、2024年12月に、2025年の新車自動車販売台数が前年比約10%減の143万台になるとの見通しを発表しました。その背景には、高インフレや廃車費用の高騰による価格上昇圧力があります。
しかし、この全体的な市場縮小の中で、EV市場は異なる様相を見せており、特に中国メーカーの存在感が際立っています。
オートスタットの調査によると、2024年7月1日時点でのロシアにおけるEVの登録台数は約9万台に達しています。その内訳は、バッテリー式EV(BEV)が56.2%、プラグインハイブリッド(PHEV)が43.8%です。注目すべきは、2023年のBEV新車販売台数が前年比4.7倍の1万4089台と大きく伸び、2024年も1~9月だけで前年の通年実績並みの1万3961台を記録していることです。
この急成長するEV市場において、中国メーカーの躍進が顕著です。BEV登録台数のシェアを見ると、2024年7月時点で日本の16900台(33.4%)に次いで中国が13800台で27.3%を占めています。しかし、新車販売に限れば、中国メーカーの存在感は更に際立ちます。特に、ジーカー(Zeekr)は2024年1~8月の販売台数が5621台と、前年同期比7.6倍という驚異的な成長を遂げています。
ロシアの新車BEV販売上位10ブランド
(2022~2024年) (単位:台)
ブランド | 生産国 | 2022年 | 2023年 | 2024年(1-8月) |
ジーカー | 中国 | 21 | 3741 | 5621 |
エボリュート | ロシア | 252 | 2028 | 990 |
モスクビッチ | ロシア | 2 | 575 | 921 |
VW | ドイツ | 418 | 2103 | 920 |
テスラ | 米国 | 1037 | 1268 | 561 |
アバター | 中国 | n.a. | n.a. | 538 |
FAW | 中国 | n.a. | n.a. | 452 |
BYD | 中国 | 115 | 508 | 410 |
ホンダ | 日本 | 24 | 336 | 314 |
BMW | ドイツ | 115 | 416 | 264 |
ボヤ | 中国 | 12 | 707 | n.a. |
紅旗 | 中国 | 48 | 626 | n.a. |
※1:ロシア産EVは中国メーカーのSKD(セミノックダウン)
※2:表は2022年の上位10種をベースに作成
出典:オートスタット・インフォ資料から作成
ロシア新聞の記事によると、ロシアの自動車ディーラーのエクスポカー・グループのアレクサンドル・コワレフ広報部長は、ジーカーの人気の背景について、「ジーカー001の外観はポルシェ・パナメーラに類似しているので、購入者はこのEVを廉価版ポルシェと見なしているためです」と分析しました。

市場の構造変化も進んでいます。オートスタットのツェリコフ社長は「状況が2025年に大きく変わり、市場に構造的変化が起きる」と指摘しています。実際、高インフレや高金利、輸入車の実質的な廃車費用の高騰、世界的なブランド車の正規供給台数の不足といったマイナス要因が存在します。
一方で、ロシア国内でのEV生産も徐々に拡大しています。2023年の生産台数は約7900台と、前年の1800台から4.4倍に増加しました。しかし、その実態は中国車のSKD(セミノックダウン)生産が主体となっている点に注意が必要です。
この状況に対し、ロシア政府は国内EV産業育成に向けた取り組みを強化しています。2024年2月には並行輸入に対する規制を強化し、中国EVメーカーを輸入許可対象から除外しました。さらに、2025年以降はEVに対するリサイクル税を現行の20倍に引き上げる方向で検討が進められています。
その中で国内メーカーの動きもあります。 2023年12月に初の国産EV電気自動車Avtotor Amberを公開したロシアですが、2025年から年間約5万台の生産を計画しているというそのEVのデザインは、ロシア内外のSNSで「世界で最も醜い車」「ジャガイモかな?」などの散々な批判を受けました。

その後、ロシア最大手のアフトヴァースは2024年9月に同社初のEVとなるラーダe-ラルグスの製造を開始し、50%という比較的高い現地調達率を達成。e-ラルグスは、国産バッテリーを搭載したロシア初の電気自動車で、ファミリー用の乗用車と商用車の両方がラインナップする予定です。

ラーダe-ラルグスには、定格出力50kWの永久磁石同期電動モーターを搭載(短時間でピーク出力120kWに達することができる)。2つのトラクションリチウムイオンバッテリーをエンジンルームと車体床下に配置することで5人乗りの客室と560リットルのトランクを確保しています。また、最高速度は145 km/hで、0-100 km/h10秒未満の加速性能を実現しているとのことです。
しかし、この国産EVの生産計画には大幅な遅れが生じており、2024年の当初計画1972台に対し、実際の生産は数十台にとどまる見通しです。


ロシアのEV市場の今後を左右する要因として、中国メーカーの現地生産体制の確立、政府の産業育成政策の実効性、高インフレや高金利などの経済環境の影響、充電インフラの整備状況が挙げられます。特に注目されるのは、2025年以降に予定されているリサイクル税の引き上げが市場に与える影響です。この政策変更により、特に低価格EVセグメントでの競争環境が大きく変化する可能性があります。
市場関係者からは、一部消費者の大幅な所得増加やロシア経済への資金流入といったプラス要因も指摘されています。しかし、オートスタットのツェリコフ社長が述べるように「市場は改善するかもしれないし、あるいは悪化するかもしれない」という不確実性が残されています。
