EVcafeで考える 第9回
by がす
こんにちは、がすです。
本日は、テスラは新モデル3「ハイランド」で一体なにをしようとしているのか? その秘密に迫りたいと思います!
テスラは2022年からモデル3のリフレッシュに取り組んでいました。開発コードネームは「プロジェクト・ハイランド」。そのため、新モデル3は通称「ハイランド」と呼ばれています。現行のモデル3が発売されたのが2016年4月なので、なんと発売から7年も経過しているわけです。
テスラオーナーはご存じの通りですが、テスラは車自体がデータをダウンロードすることで、定期的にソフトウェアをアップデートして改善し続けており、7年前の車とは思えない鮮度を保ち続けています。2016年にフェイスリフトしたモデルSが、2021年にPlaidでリフレッシュされたように5~6年というのがテスラのリフレッシュ周期。イーロン・マスクは、自動車業界でよくある「何年かおきにモデルチェンジをして車を買い替えてもらう」という考えはあまりもっていません。
しかし、モデル3の内外装デザインを含めての大掛かりなリフレッシュ周期を迎える中で、テスラはこの新型モデル3「プロジェクト・ハイランド」の方向性において、ある大きな決断をしました。
モデル3は元々、2009年にイーロン・マスクがインタビューで「3万ドルのEV」を出したいと発言した開発コンセプトからきています。テスラは高額なスポーツカーEV(ロードスター)、高級EVのモデルS、Xで儲けたお金で、より購入しやすい価格帯の量産EVを作ろうと考え、その量産EV第1号がモデル3でした。
そしてそれは実現します。発売時には3万5千ドル、EV補助金を入れて3万ドル近い価格です。当時は今よりもさらにバッテリーコストが高いために、テスラのEVはなかなか庶民には手が届かない存在でしたが、モデル3は手が届く価格帯になりました。しかもモデルSの廉価版かと思いきや、非常に高性能で廉価版どころか当時のモデルSより完成度が高くて良い車という評価さえあったほどです。
ご存知の通り、その後モデル3は世界中で大ヒットしましたが、いわゆる従来のガソリンエンジン等を積むICE(内燃機関車)と比べると、単純に価格帯ではまだ高い位置にいます。テスラのモデル3は、実際にBMW3シリーズからの乗り換えが増えましたが、ICE車もひっくるめるとBMW3シリーズと競合するレベルの、まだ高額(高級車というよりあえて高額車と言いますが)な価格帯で売られているのです。
(参考記事) テスラのモデル3の成功がBMWを最も苦しめる
https://www.bloomberg.com/graphics/2019-tesla-model-3-survey/market-evolution.html
高性能EVの量産化とは別に、もっと安価なEVを出して欲しいという声があります。それこそが、テスラがメキシコで生産するという噂のモデルQ(仮称)ということなのですが、話はそう単純ではありません。ゼロから設計する新車となると、プロトタイプはいくらでも作れますが、量産車の仕様から、半導体から、テストから、工場の設計から、開発の早いテスラでも発売までに4〜5年はかかるのです。
ただ、そんな猶予は今のテスラにはありません。6年前にモデル3を発売した当時と状況の大きな違いは中国市場です。当時、モデル3は中国で発売してもいなければ、ギガ上海の工場もまだありませんでした。テスラは2019年にモデル3を中国で発売開始し、その1年後には中国市場で販売トップとなりました。中国は現在のテスラにとって最も大事な市場のひとつなのです。
ギガ上海(提供元:Tesla, Inc. )
中国政府は自国企業育成という目的もあり、EVなどの新エネルギー車の拡大に本気になっており、自動車取得税の減免措置を延長するなど国を挙げてEV普及に取り組んでいます。予算は正式には公表されていませんが5兆円くらい使うとも言われています。それにより中国ではEV市場が拡大しています。そして、現在、小鵬汽車(Xpeng)、理想汽車(Li Auto)、蔚来汽車(NIO)、比亜迪(BYD)らの中国強豪メーカーとテスラは、熾烈なEV販売競争を繰り広げているのです。
そういった状況の中で、テスラは、新モデル3「ハイランド」を中国の並み居る競合に勝てるEVにすべく、値段を下げるための低コスト化と高性能なEVにすることを決断したわけです。これこそが新モデル3ハイランドの正体です。
そのためにテスラはCATL「M3Pバッテリー」を採用し高性能、コストダウンを実現します。
これはweiboでの噂ですが、コストダウンのためにテスラはハイランドの自動運転用コンピューターとして、最新のHW4.0(新型モデルSに搭載済)ではなく、HW3.5を搭載するという話です。新しいモデルYには、すでにHW4.0が搭載されていると思われていましたが、同じHW4.0という名称ながら内部のチップが減ったことでコストダウンをしたことが確認されています。このコストダウン版HW4.0が、「ハイランド」に搭載されるという噂のHW3.5と同じものなのかは、まだ分かりませんが、その可能性はありそうです。
モデルYのHW4と、モデルS/XのHW4は違っている
さて、ここからが本題です。
えっ、「中国市場で勝つためにコストダウンするんじゃないの?」「それが目的じゃないの?」それはそうなのですが、では一体なぜ、テスラはモデル3を更にコストダウンしてまで中国市場で競合に勝って販売数を増やしたいのか? です。その答えとは、テスラはもうすぐ実現する完全自動運転を中国で実現したいからです。
先日、イーロン・マスクが完全自動運転(FSD)の完成形となるV12 のスニークピーク(ちら見せ)のライブストリームをX(Twitter)で行い、エンドツーエンドのニューラルネットワーク アプローチによる本物のAIによる自動運転ができたことを報告しました。
イーロン・マスク「(FSDベータ12は)完全にAIとカメラが私たちの脳の働き、つまりニューラルネットワークと目と同じように機能します」
テスラは並行して中国で完全自動運転の導入へ向けてチームを編成しています。
今回、テスラがエンドツーエンドのニューラルネットワーク アプローチによる本物のAIによる自動運転を実現したことで、あと必要なのは莫大なデータとそのトレーニング(そしてそのための莫大なスーパーコンピューター)です。
つまり中国でテスラEVが売れれば売れるほど、中国でもデータが集まり、このテスラの自動運転は指数関数的に超人的な運転能力を持つようになります。そして、エンドツーエンドのニューラルネットワーク アプローチの本物のAI自動運転は他の中国EVメーカーは持っていません(世界中のどの企業も持っていません)。彼らにあるのは人間が書いた数十万行のプログラムコードでの自動運転だけです。
新モデル3「ハイランド」がコスト競争力を持ち、売れたとしたら中国の交通データも今後さらに集まり続けることで、テスラの中国における自動運転がより完全なものになる。そうなれば、自動運転機能はアップデートで全てのテスラEVに追加できるので、さらにテスラEV全体が売れる、自動運転が広まることになります。そんな未来が想像できます。
あの広大な中国大陸で、本物のAIによる自動運転を実現しようとしているテスラに、中国企業がまったく追いついていないと考えると非常にクールです。そのためにもテスラEVをもっと売って広めなければならない重要な役目が新モデル3「ハイランド」にあります。その新モデル3「ハイランド」がいよいよ登場します!
EVcafeでは気になるテスラの新モデル3「ハイランド」についても引き続き、独自の視点でも追いかけていきますのでお楽しみに!
メインカットの写真はリークされた新モデル3「ハイランド」とされる写真です。
がす(来嶋 勇人)
福岡県出身。(株)ファミリーマートのマーケティング本部でアプリやコーヒーのパッケージを作っていたが早期退職。無職になりテスラでハローワークに通い見つけた会社に入社。そこでゼロからスタートし、そこの関連会社の社長に抜擢され就任。現在はECやアニメーション事業を行っている。
プライベートでは2024年からイーロン・マスクの公式パロディアカウント(フォロワー140万人)からオファーをもらいイーロン・マスク(パロディ)公認のAIデザイナーとなり、ハイクオリティなAI画像をイーロン・マスク(パロディ)に提供中。そのメールをやりとりしているイーロン・マスク(パロディ)はイーロン・マスク本人だと思っている。
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