電動革命の波に乗る! EV株投資の秘訣 第54回
by じんべい
スペースXが上場した直後から、ある観測が市場を賑わせています。「テスラとスペースXは合併するのではないか」というものです。実際、ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイブス氏は2027年までに80%超の確率で実現すると予想しています。もし実現すれば、ロケット・宇宙インフラ・EV・AI・ロボティクスを束ねる、史上最大級の複合企業が誕生することになります。
長年のテスラ株主であるじんべいとしても、これは無視できない話です。今回は合併報道の経緯を整理した上で、様々な立場から見たメリット・デメリットを考察し、最後に「テスラ株を買い続けるべきか、スペースX株にシフトすべきか」という最も気になる問いに、じんべいなりの結論を出していきます。
なぜ今、合併観測が高まっているのか
合併の話は今年1月、ブルームバーグがスペースXとテスラ(またはxAI)との合併協議を報じたことから始まりました。その後xAIはスペースXに吸収合併され、6月にはスペースXがIPOを果たします。上場初日には公開価格135ドルから一時67%超急騰し、時価総額は瞬く間に2兆ドルを突破。テスラの時価総額(約1.6兆ドル)を大きく上回り、世界トップ10入りを果たしました。
上場準備を進める中、スペースXのグウィン・ショットウェル社長はテスラとの統合について明確な否定をせず、「それはイーロンの生活を少し楽にするかもしれない」と発言。この一言が観測をさらに加熱させました。ウェドブッシュ証券のダン・アイブス氏は「2027年までに80%超の確率で一つの企業になる」とレポートで言及し、予測市場でも合併確率は年初の26%から50%超まで急騰しています。

背景には、テスラの長年の株主からも合併を後押しする声があることも関係しています。イーロン批判で知られる投資家のロス・ガーバー氏は「スペースXは今や誰もが話題にしている存在だ。テスラについて話す人はいない」とこぼし、合併を支持する立場を取っています。両社はすでにテラファブ(半導体製造)の共同開発や、スペースXによるテスラ製品(メガパック、サイバートラック)の購入など、資本・事業面で深く結びついており、合併観測には一定の土台があるのも事実です。
合併のメリット・デメリットを考える
合併が実現すれば、誰にとってどんな影響があるのか。立場ごとに整理してみましょう。
まずイーロン本人にとっては、明確なメリットがあります。テスラ・スペースXに分散した経営資源を一本化できる上、テスラでの議決権を実質的に強化できる可能性があります。現在、イーロンのテスラ議決権比率は約13.5%で、報酬パッケージを全て獲得しても24.8%にとどまります。一方スペースXでは超議決権株により85.1%という圧倒的な支配権を握っています。合併後の会社で、この支配構造がどう設計されるかは大きな論点です。

テスラにとっては、評価が「単なる自動車会社」から「AI・宇宙複合企業」へと再評価される可能性がある一方、スペースXの未収益事業(特にxAI関連)への資本配分が必要になり、テスラの安定したフリーキャッシュフローが吸い取られるリスクもあります。
テスラ株主にとっては、合併によって「テスラとスペースXを両方持つ」効果が労せず得られるのは魅力的です。一方で、ファンドマネージャーのゲイリー・ブラック氏は、この取引が既存テスラ株主にとって約28%の希薄化をもたらし、合併後の企業価値は単純合算の3兆ドル超よりも2.25兆ドル程度に近くなると見積もっています。「投資家は単一事業企業を好み、複合企業はほぼ常に最小公倍数に引きずられて評価が下がる」というブラック氏の指摘は、コングロマリットディスカウントの懸念を端的に示しています。
そしてスペースX株主にとっては、テスラの安定した自動車事業による下支えが得られる一方、軌道上データセンターやスターリンクというピュアプレイの魅力が薄まってしまう懸念もあります。宇宙・AI関連の成長にダイレクトに賭けたくてスペースXを買った投資家にとっては、自動車事業という畑違いのリスクまで一緒に背負うことになるからです。
じんべいが合併に反対する理由
ここまでメリット・デメリットを整理してきましたが、じんべい個人としては、長年のテスラホルダーとして、この合併には反対の立場です。
最大の理由は、イーロンの報酬パッケージに含まれる支配権変更条項です。この条項により、合併が成立した場合、「FSD1000万契約」や「ロボタクシー100万台稼働」、「オプティマス100万台納品」といったテスラ固有の技術マイルストーンが無視され、時価総額だけで報酬が確定する可能性があります。

じんべいがテスラに投資してきたのは、自動運転とヒューマノイドロボットの実現にかける思いがあったからです。イーロン個人としてはマイルストーンを追い続けるかもしれませんが、企業としての資本配分の優先順位は、スペースXの宇宙・AI事業(特にまだ稼ぎきれていないxAI)と天秤にかけられ、オプティマスやロボタクシーへの投資が後回しにされるリスクは見過ごせません。
さらに、テスラの安定したキャッシュフローがスペースXの開発資金に吸われる懸念、コングロマリットディスカウント、反トラスト的な規制強化のリスクも気になるところです。実際、イーロンの報酬パッケージにはカルパースやノルウェー政府系ファンドといった大手機関投資家が反対しており、議決権行使助言会社のISSとグラスルイスも否決を推奨していました。デンマークの年金基金アカデミカー・ペンションは、ガバナンス上の懸念を理由に合併そのものへの参加を拒否しています。じんべいのような個人投資家だけでなく、プロの機関投資家も同様の不安を抱いているという点は、軽視できないと感じています。
そして気になるのが、ガバナンスの構造です。合併後の会社では、イーロンの議決権が事実上一本化されます。テスラでは最大24.8%という上限がある一方、スペースXでは85.1% —— 合併後はテスラ株主の意見が相対的に通りにくくなる構造です。じんべい自身、イーロンのビジョンとリーダーシップを信頼しているからこそテスラに投資してきましたし、それは今も変わりません。ただ、10年、20年という長い時間軸で見たとき、一人の経営者にこれだけ議決権が集中する構造が、後継者計画やガバナンスの観点から企業として健全な形なのか —— そこは冷静に考えておきたいポイントだと思っています。
結論:テスラ株を買い続けるべきか、スペースX株へシフトすべきか
結論はシンプルです。テスラ株はメイン、スペースX株はサブという位置づけで、両方に投資を続けます。
テスラについては、すでに多くの株を保有していますが、今後も保有を続け、押し目があれば買い増していく方針です。FSDとロボタクシーという「種」が花開き、オプティマスという「苗」が育ち始める —— 今後5年がその勝負所だと見ています。
一方のスペースX。IPO企業の株価は、上場直後に急騰したあと、ロックアップ解除に伴う供給増加で徐々に落ち着いていく「山型のカーブ」を描くケースが多く見られます。実際にスペースX株もこの傾向を見せ始めています。
IPO直後に135ドルから一時225ドル超まで急騰したスペースX株は、すでにそのピークから30%下落。本格的なロックアップ解除は12月、イーロン自身の保有株がロック解除されるのは2027年6月と、今後も供給増加イベントが続きます。株価がIPO価格の135ドル前後、あるいはそれ以下の100ドル近辺まで近づくタイミングを、買い場として狙っていきたいと考えています。
合併については、ここまで見てきたように実現には大きなハードルが山積しており、メディアが好む話題性の側面が大きいと見ています。イーロン自身は多少望んでいる部分もあるかもしれませんが、だからこそ合併を前提にした判断はせず、テスラとスペースXへそれぞれ独立して投資するという、これまでのスタンスを変える必要はないと考えています。
なお、これはあくまでじんべい自身の期待を込めた予想です。投資の最終判断は、ご自身の調査と責任のもとで行っていただくようお願いします。

文・じんべい
日本企業でサラリーマンをしながら、 米国株式投資や太陽光発電投資で資産形成し、2023年3月にサイドFIRE。 株式投資では、S&P500を積立投資しながら、 個別株はテスラを中心としたEV銘柄に集中投資を実行中。YouTubeチャンネル『じんべい【テスラとNio】について語るチャンネル』登録者数:約3万人。 X(Twitter)フォロワー数:約1万人。平日毎朝、Xにて前日のテスラ株価情報を発信、また毎週末にはYouTubeでテスラ株価ニュースを配信中。

