電動革命の波に乗る! EV株投資の秘訣 第57回
by じんべい
スペースXが2026年8月4日、上場後初となる第2四半期決算を発表しました。売上高78.1億ドルで前年比92%増——この数字だけで、テスラファンやEVカフェの読者にも「ちょっと待って」と言いたくなるインパクトがあります。市場予想の69.3億ドルを大幅に上回る好決算でした。
ところが発表直後、スペースX株は時間外取引で約8%下落しました。「好決算なのになぜ?」と感じた方も多いはず。そしてその翌々日(8月6日)には、さらにドラマが待っていました。これについては最後の章でお伝えします。
今回は決算の中身を丁寧に読み解きながら、スペースXという会社が今どんな状態にあるのか、じんべいなりの考察をお届けします。
決算の全体像——3つの事業が「同時に急成長」している
まず全体の数字を確認しましょう。主要指標は以下の通りです。

セグメント別売上高
「3事業が全部同時に急成長している」——これがスペースXの今の姿です。純損失はまだ残っていますが、前年の10.1億ドルから5.41億ドルへと着実に縮小しています。調整後EBITDAが+191%というのは、収益性の改善がかなりのスピードで進んでいることを示しています。
なぜ好決算なのに株価が下がったか。答えは設備投資の急増です。AI事業だけで158億ドル、全体では183億ドル超というとんでもない投資額が計上され、市場がそこに反応したわけです。ただ、CFOのブレット・ジョンセン氏が「AI設備投資の回収期間は1年未満」と発言しています。この点は後述します。

最大の稼ぎ頭・スターリンク——契約者1200万人、次の10年を狙う
スペースXの現在の稼ぎ頭はスターリンクです。Q2の売上42.9億ドルは全体の55%を占め、唯一の黒字セグメントとして会社全体を支えています。
Q2末時点の契約者数は1200万人で、前年同期の600万人から丸々2倍に増えました。特に今四半期の純増数170万人超は過去最高記録です。ショットウェル社長兼COOは説明会でこう語っています。
「スターリンクは傑出した四半期だった。過去最高となる170万人超の純増を記録した」
月額平均単価(ARPU)は66ドルで安定しており、利用者が増えるほど売上が積み上がる構造です。現在167市場でサービスを展開し、運用衛星数は約1万0200基に達しています。
次のステージを決定づけるのが、スターリンクV3衛星です。V2比で約10倍の通信能力を持ち、帯域幅は最大100倍に拡大できるとされています。イーロンは「10年以内に、スターリンクが世界のインターネットの大半を提供することも可能だ」と語りました。
さらに注目が「スターリンク・モバイル」(スタンドアロン独立サービス)の構想です。EchoStarから取得した電波スペクトラムを活用し、2027年末頃の提供開始を目指しています。現在、米大手通信3社(AT&T・Verizon・T-Mobile)の合計年間売上は約6000億ドル。ショットウェル社長は「我々のサービスはより良く、デッドゾーンを完全に解消できる。その顧客をかなり獲得できる」と自信を示しました。航空機内Wi-Fiの企業向け普及率はまだ10%未満という状況を考えると、伸びしろの大きさはじんべいも驚くほどです。
急成長するAI事業——設備投資の桁違いな数字が示す本気度
今回の決算で最も衝撃的だったのは、AI事業の急拡大です。AI売上は25.6億ドルで前年比+247%。AnthropicやGoogleなどとのクラウドサービス契約(Cloud Service Agreements)が主な牽引役で、Q2だけで141億ドル分の契約を締結。さらにQ3序盤に追加で67億ドルを受注済みです。

そしてAI向け設備投資が158億ドル——前年同期のわずか7.5億ドルから約21倍という数字です。この数字こそが、発表後に株価が下落した直接の原因でしょう。ただ、CFOはこう発言しています。
「AI設備投資の回収期間は1年未満だ」
契約ベースの売上が先行して積み上がっているため、投資が売上に変換されるスピードが非常に速いということです。
AIコンピュートの規模も急拡大しています。現在の容量は1.4GW(ギガワット)で、年末には2GW超、2027年末には10〜15GW規模を目指すとのこと。イーロンは「エヌビディアのVera Rubinアーキテクチャに一本化する。最高のAIコンピュータだ」と明言しました。
さらに来年(2027年)からは、軌道上AIデータセンター「Starmind衛星」の打ち上げを開始する計画です。以前の記事で詳しく解説した「宇宙AIデータセンター」構想が、いよいよ現実に動き出します。電力コストがほぼゼロの宇宙でAI計算を行うことで、地上のデータセンターを圧倒するコスト競争力を持てるというビジョンです。

スターシップ——「ヒートシールド問題は解決した」
スペースXの全事業を根底から支えるのがスターシップです。今は赤字セグメントですが、これが完成すれば全てが変わります。
過去90日でV3の成功飛行が2回(フライト12・13)実施されました。特にフライト13では、軌道ミッションとスターベースへの帰還・キャッチに必要なコア能力の実証に成功しています。イーロンは決算説明会でこう語りました。
「ヒートシールドの問題は実質的に解決したと思っていいでしょう。データも視覚的な検査も全て良好です。急速な再利用を実現するうえで技術的な障壁はほぼなくなりました」
次のフライト14(8月末頃想定)では、史上初めて運用版スターリンクV3衛星を軌道へ投入しながら、船体のタワーキャッチも同時に試みる計画です。「1年後には1日1回以上の打ち上げを目指す」というイーロンの発言は、さすがに強気すぎる気もしますが、彼が過去に語ってきた「不可能な目標」が次々と現実になってきた実績を見ると、あながち笑えない話です。
現在のファルコン9による年間軌道投入量は約2500トン(世界の80〜90%をスペースXが担う)。スターシップが完全再利用化されれば、最終的には年間1000万トン規模を目指せるとされています。これが実現すれば、スターリンクの大規模展開・AI衛星の打ち上げ・月火星探査のコストが劇的に下がり、全ての事業が一気に加速します。スターシップはまさに、スペースXというエコシステム全体の「エンジン」です。

「2030年に1兆ドル」——イーロンの宣言をどう受け止めるか
今回の決算説明会で、投資家として最も注目すべき発言の一つがこれです。CFOが「年換算売上1000億ドルは2026年末に達成できるベースケース、何もしなくても到達できる」と述べました。現在の年換算売上はすでに150億ドル超のペースで走っており、AI事業の契約積み上げを考えると、これは絵空事ではありません。
そしてイーロンはこう言いました。
「社内予測では、売上高1兆ドルの達成が2031年から2030年に前倒しになった。2029年になる可能性もゼロではない。」
ウォール街のアナリストのコンセンサスは2030年時点で3000〜4500億ドル程度とされており、イーロンの目標とは2〜3倍の乖離があります。
「またイーロンが大風呂敷を広げている」と思う方もいるでしょう。じんべいもそのリスクは認識しています。ただ、今回の決算を見ると、スターリンクの契約者数、AIのクラウド契約積み上げ、スターシップの進捗——いずれも「予想を上回るペース」で動いています。垂直統合による圧倒的なコスト優位性と、宇宙・AI・通信という3つの市場を同時に取りにいく構造。1兆ドルが正確な数字かどうかはともかく、その方向性に向かっていることは間違いないとじんべいは見ています。
ロックアップ解除の「どんでん返し」と、じんべいの見立て
さて、最後に8月6〜7日の話をしましょう。決算発表の翌々日、市場が注目していたのはロックアップ(既存株主の売却制限)の解除でした。最大9億1200万株が売却可能となるこの日、多くのアナリストや投資家が「大量売りが来る」「さらに株価が崩れる」と警戒していました。
ところが実際には、8月6日(木)にスペースX株は+6.14%の逆行高。そして翌7日(金)には、さらに+15%超の急騰を演じました。終値は133ドル前後と、IPO価格の135ドルにほぼ肉薄。週間では約23%高という、市場の悲観論を完全に覆す展開となりました。
急騰の主な理由は2つです。一つはロックアップ解除後の売りが予想をはるかに下回ったこと。「売りたい人が見当たらない」という内部関係者へのヒアリング結果が事前に報じられていた通り、初期投資家・従業員が長期保有を選択しました。これが「供給圧力は思ったより強くない」という安心感を生み、翌日の大幅上昇につながりました。
もう一つはArgus Researchによる格上げです。同社は評価を「Hold」から「Buy」に引き上げ、目標株価を160ドルに設定。AI設備投資の回収期間が1年未満という高い資本効率と、売上高+92%という決算内容を高く評価した格好です。
ただ、今後もロックアップは段階的に解除されていきます。浮動株が増えるにつれてボラティリティは続く可能性があり、じんべいとしては引き続き冷静に見ていきたいと思っています。
前の記事でもお伝えした通り、今後5年で株価が先に倍になりそうなのはテスラだという見立ては変わりません。一方でスペースXについては、当初はIPO企業特有の山型カーブを見極めてから拾っていくスタンスでいましたが、AIコンピュート事業の急拡大やスターリンクの世界的な普及加速を見ていると、収益の増加ペースは正直思っていたより早いかもしれません。テスラとスペースX、この2社はイーロンのエコシステムの中で深く連携し、お互いの成功がお互いを後押しする関係にあります。この壮大な物語の行方から目が離せない日々が続きそうです。

文・じんべい
日本企業でサラリーマンをしながら、 米国株式投資や太陽光発電投資で資産形成し、2023年3月にサイドFIRE。 株式投資では、S&P500を積立投資しながら、 個別株はテスラを中心としたEV銘柄に集中投資を実行中。YouTubeチャンネル『じんべい【テスラとNio】について語るチャンネル』登録者数:約3万人。 X(Twitter)フォロワー数:約1万人。平日毎朝、Xにて前日のテスラ株価情報を発信、また毎週末にはYouTubeでテスラ株価ニュースを配信中。

